美味しそうな香りの大きな罠
さて、紆余曲折あったが、リベルテの修行を再開する。
リベルテは多くの状態異常攻撃のスキルを持つが、MPが1しかないため使えないでいる。
できればこれを使えるようにしたい。
魔法スキルを一つでも覚えたら【魔術師】の称号がもらえて、MPが5も上がるのだが、スキルポイントが足りない。
一番低く入手できる魔法でも5ポイントは必要だ。
そのためには、修行、修行、修行!
「はぁ、何してるんだろうなぁ」
本音で言えば、リベルテを修行しても僕が強くなるわけではない。
とっととこいつとは袂を分かち、それぞれ自由に生きるのがいいんだと思うが。
それでも、リベルテは僕の命の恩人、いや、恩スライムである。こいつがいなかったら、闘技場の毒で殺されていたかもしれないからな。
だから、一人で生きていけるくらいには強くなってもらいたい。
リベルテ本人はというと「修行=楽々狩りによる食事」という方程式が完成しているようで、やる気満々のようだ。
やる気満々だけど土を食べている。
そのうち、この森は穴だらけになるんじゃないだろうか?
……ん?
索敵スキルに敵の気配が。
色は薄い赤、弱いな。そして、場所は……この下か。
「落穴!」
僕が魔法を唱えると、大きな穴が真正面に現れる。
僕はその穴の中に飛び込んだ。
(……3、2、1)
土を掘って現れたのは、モグラだった。ただし、体長50センチと普通のモグラよりは大きいな。
【アースモール:HP32/32 MP0/0】
そこそこ強い雑魚だ。ステータス把握レベルが上がったからか、相手のMPもわかる。
ならば、経験値もそこそこあるだろ!
僕は麻痺攻撃を込めて、尻尾攻撃をする。
【アースモール:HP20/32 MP0/0】
麻痺になっていないのか、アースモールは慌ててUターンする。
よし、もういっちょ!
今度は少しだけ力を強く攻撃。
【尻尾攻撃のレベルが2に上がった】
お、ラッキー! 僕の攻撃力が2上がった。
【アースモール:HP4/32 MP0/0】
しかも、麻痺で動きが大きく鈍る。
「リベルテ、いまだ!」
僕がそう言うが、リベルテは動く気配がない。明らかな各上の敵にびびってるのか?
あぁ、そうか。
美味しそうな香り!
口から息を出し、アースモールに匂いを付与させる。
すると、リベルテは喜び穴の上から飛び降りた。
【アースモール:HP3/32 MP0/0】
体当たりでも減ったHPは1だけか。
リベルテはさらにアースモールを飲み込む。
よし、まだ行けるな。
徐々にHPが減ってきたとき、アースモールが動き出した。
じたばたと身体を震わせ、リベルテの身体が飛ばされる。
ぐっ、ダメか――そう思った時、リベルテは飛ばされた壁を足場に跳ね、アースモールに体当たりした。
【アースモール:HP0/32 MP0/0】
……おぉ、倒せた。
食欲魔人のリベルテは強いな。
リベルテのレベルが5に上がった。
ただ、MPは上がらないな。
スキルポイントも4まで上がった。
「ヒール!」
HPが半分も減っていたリベルテに回復をかけてやるが、リベルテは回復魔法を使ってもらったことにも気付かずにアースモールを食べていた。
はぁ、なんとかなったな。
……ってうわ!
索敵スキルに、黒い気配がゆっくり近づいてきた。
やばい、黒はヤバイ。
ここは穴の中だ。簡単には見つからないと思うが、見つかったら逃げ場はない。
見つからないことを祈る。
たのむ、どっかいけ、どっかいけ、どっかいけ。
そう思ったが、何故か黒い気配はまっすぐこちらに向かってくる。
……なんでだ?
って、美味しそうな香りかっ!
さっき僕が使った香りにつられて来てるんだ!
「リベルテ、逃げるぞ!」
僕はそう言い、リベルテが半分食べていたアースモールをアイテムBOXに収納する。
リベルテはそれで、僕に餌を奪われたと思ってぷるぷると反抗しているが、
「あとで塩胡椒で焼いてやる! うまくなるぞ!」
そう言ったら納得した。
はやく穴から脱出して――ってうおっ!
空が消えた。
【クイーンスネーク:HP860/860 MP240/240】
穴を完全に塞ぐほどの巨大な灰色の蛇が僕たちを見下ろしていて、完全に逃げ場を塞いでいた。
ぐっ、いくら強くても相手は蛇!
ピット器官で熱を感知して獲物を探す機能は変わらない。
なら、炎が苦手なはず!
僕はクイーンスネークを追い払うため、口から火を噴きだした。
だが――
「げっ」
クイーンスネークは僕の出した炎をその口の中に入れて食べてしまった。
「た……退却ぅぅぅっ!」
でもどこに!?
そう思ったら、リベルテがいない。
あいつどこに、って、アースモールが掘っていた穴の中に先に逃げていた。
僕にも教えてくれよ。
って、もう間に合わない!
「落穴! 落穴」
僕の身体よりも小さな穴を足元に作る。そして、
変身!
クイーンスネークの舌が伸びてきたとき、僕は咄嗟にピエールクラブに変身。
1秒でも、いや、0.5秒でも遅れたら食われていた。そんな僅差の勝負だった。
小さくなった僕は落穴で作った穴の中に落ちていった。
こんな小さな穴ならさすがにクイーンスネークも入ってこれないだろう。ざまぁみろって、舌が伸びてきた。
僕は、あらかじめ掘ってある横穴に逃げた。
「落穴」
斜め上にのびる坂状の穴を登って行き、リベルテが逃げた穴に合流する。
元来た方向を見ると、クイーンスネークが完全にふさがっていた。
あの巨体だとこの穴には入れないだろうが、できるだけ遠くに逃げたい。
変身を解除し、残ったMPで自分の身体を回復させ、暗い穴の中を感覚を頼りに逃げて行った。




