死闘! ロッシュクラブ
5日後。
稚魚は大きくなっていた。
ちなみに、子供の数は約100匹。21匹が病気のためか餓死なのか死んでしまった。
180個近くの卵は結局孵化しなかった。
【ブラックバス:HP1/1】
僕の子供たちはまだまだ弱い。
でも、そろそろ独り立ちの時間が迫っている。
あのスキルを取得したのは賭けだった。
でも、おかげで――
【スキルポイントを5支払い、土魔法を取得しますか?】
YESだ!
【スキル:土魔法を取得した】
【称号:魔術師を取得した】
これで土魔法を覚えられた。頭の中に、使用可能な魔法の名前が出てくる。
土針!
叫んでみるが、何も起こらない。ていうか叫べていない。
まぁ、これは予想通りだけどな。
その後いくつか実験をし、勝機を見出した。
一晩寝たら、MPはすっかり回復していた。
稚魚も……大丈夫、まだ巣立っていない。
でも、時間がない。逝くぞ!
三度目の正直だ!
ピエールクラブの巣。
僕はとりあえずピエールクラブを食べてやつが来るのを待った。
五匹くらい食べたところで、奴が現れた。
ロッシュクラブだ。
めっちゃ怒っている。
うん、君の気持ちはわかる。僕も自分の子が食べられたら怒るよ。
でも、弱肉強食の世界なんだ、ごめんよっ!
僕はそう思い、泡を出した。
巨大な泡!
僕はその泡の中に口を突っ込んだ。
そして、
「土針!」
叫んだ! 声が出た!
僕が昨日、土魔法を取得する前に覚えたのが、“肺呼吸”。僕は今、ブラックバスでありながら、肺呼吸をしている。
水の中だと自動的にエラ呼吸をしているらしく、声を出すことができないが、空気の中に口を入れたら息を吐きだすことができる。
声帯があるかないのかわからない、ブラックバスの身体で言葉が話せるのか?
これも昨日確認済み。
でも、発声できる可能性は高かった。
【言語理解:様々な言語で会話、筆談ができるようになる】
会話できるというスキルだ。つまり、息を吐きだすことができるのなら、会話ができるんじゃないか?
そう思ったらビンゴだった。
こうして、僕は魔法を取得した。
ただし、
MP 6/10
泡でMP1、土針でMP3消費する。
何度も使えるものではない。
土針はロッシュクラブの腹を見事にとらえた。
ただし、甲羅は貫いていない。
やぱり、ピエールクラブと一緒だ。背中の防御力は強いが、腹の装甲は薄い。
【ロッシュクラブ:HP28/50】
よし、効いてる!
ロッシュクラブは槍に突き刺さった。体液なのか、砂埃なのか、水が茶色く濁る。
もう一度だ。
「土針!」
僕が唱えた土魔法は再びロッシュクラブの腹を捉えた。だが、ロッシュクラブは勢いを止めず、突き刺さった土針を受けたまま僕目掛けて走ってきた。
やばい、逃げないと!
だが、ロッシュクラブの爪が僕の顔を覆っていた泡を切り裂いた。
泡が割れる衝撃で、僕の身体が揺れ、僅かに隙を作ってしまった。
その瞬間、ロッシュクラブの爪が僕の腹を捉え――
がふっ
痛い! え、なんだ、この痛み。
魚は痛覚がないとかそういうのってウソじゃないか!
痛すぎるよ!
なんだよ、活け造りになった魚ってこれ以上の痛みを味わってたの?
僕は人間に戻れても二度と活け造りは食べないぞ!
自分のステータスを確認する。
HPは残り5……そして、穴を塞ぐようにロッシュクラブ。
やばい、死ぬ。
いや、ロッシュクラブも残りHP4だ。
でも、リーチの違いで、確実に僕が死ぬ。
せめて、MPがあと1あれば……泡を作って土針で倒せるのに。
ごめん……子供たち。僕、死んだわ。
そう思った時だった。
僕の後ろに、そいつがいた。
な、なんでお前らが。
稚魚が1匹。
僕の子供。
なんで、お前がここに!?
頼む……逃げてくれ! ここは僕が引き受ける。
そう思った刹那――
【ブラックバス:HP0/1】
え?
僕の子供は突然死んだ。
な……なんで?
もしかして!
僕は自分のMPを確認した。
MP4/10
……やっぱり、1回復してる。
あの子供、スキル:献身を取得していたんだ。もしかしたら、生まれながらにして。
そして、自分のHPを犠牲にして、僕にMPを渡した。
……バカ野郎っ!
泡!
僕は泡を出した。
ロッシュクラブが爪をこちらに突き付けてくるが、僕はそれよりも先に――
「土針っっっっ!」
【経験値30獲得】
【****のレベルが上がった。各種ステータスがアップした。スキルポイントを手に入れた】
【****のレベルは最大です。これ以上経験値を取得できません】
【****は進化条件を満たしています】
水の底に沈む僕の子供を、ピエールクラブが食べようとした。
僕はそのピエールクラブを一喝し、追い払う。
僕は子供を背に乗せ、奥へと進んでいった。
僕たちを追ってくるピエールクラブはいない。
……ロッシュクラブを食べる気はしない。
腹はすいていないし、もう食べてもレベルは上がらないから。
そして、そこにあったのは魔法陣だった。
魔法陣をくぐると、水の底にいた。
ピエールクラブもロッシュクラブもいない。
上のほうから、明るい光が。
僕は背中の子供を乗せたまま水面に上がった。
そして、僕は見た。輝く太陽を。
……どうやら、ここは湖のようだ。
そこそこ大きな湖。
さっきの魔法陣は転移用の魔法陣のようだ。
なんであんなところにあるのかはわからない。
でも、この広さなら、稚魚たちが全員暮らせるだろう。
……あの太陽、お前にも見せてやりたかった。ありがとうな。
僕は背中にいる子供にそう呟き、この子を湖の底で眠らせることにした。
とりあえず、他の子供の場所に戻るか、そう思ったが、さっきの魔法陣が見つからない。
もしかして、一方通行?
なら、子供たちは……そう思ったが、子供たちが突如現れた。
どうやら、全員ピエールクラブの巣を越えてきたようだ。
……そして、全員、巣立ちの時期だ。
僕の役目は、これで終わりだな。
さようなら、僕の子供たち。
僕は彼らに背を向け、進化をしたいと選択。
たぶん、魚類の次はカエルかイモリかサンショウウオといった両生類だろうな。
【進化先を選択してください】
……………………………………
・ブラックリトルシャーク
黒く小さい鮫。淡水でも海水でも生存可能。
食欲旺盛で、タコとカニが好物。
取得可能スキル:【鮫肌】
……………………………………
へぇ、まずは鮫か。水の中で生きていくならこれでもいいが、でも進化先としては、やっぱり陸に上がりたいな。
他には?
…………
他には?
【進化先を選択してください】
……………………………………
・ブラックリトルシャーク
黒く小さい鮫。淡水でも海水でも生存可能。
食欲旺盛で、タコとカニが好物。
取得可能スキル:【鮫肌】
……………………………………
……結局魚かよっ!
僕は本当にブラックドラゴンになれるのか?
正直、神を疑った。
ここまでが第一章です。
第二章はのんびり更新になりますので、よろしくお願いします。