料理は塩胡椒で作った
僕とノーチェが出会って1ヵ月半が過ぎた。
コーラサラマンダーに進化して、経験値の割にレベルアップが遅く、次の進化までどれくらいかかるのか?
なんてことを不安に思ったが、思わぬレアモンスター達との遭遇により、いっきにファイヤーサラマンダーまで進化できた。
これは喜ばしい誤算。
これなら、思ったより早くブラックドラゴンに、そして人間になれるんじゃないか?
そんなことを思ってしまう。
そして、ノーチェ、彼女はまだエルフの村にいた。
森で獲れたブランベリーという葡萄に似た、甘苦い果実を、タライの中の足で潰していた。
スカートをたくし上げ、白くしなやかな脚がブランベリーを潰していく。
エルフの中でも10歳以上18歳未満の乙女が参加するお祭りのようなもので、潰され絞られた果汁はその後ブランベリー酒となるらしい。
エルフが作るブランベリー酒は一部は森の神に奉納され、残りの半分はエルフが飲み、残りの半分は人間に売るそうだ。
とても高値で取引されるため、村の大きな収入源となっているそうだ。
僕もノーチェが足で潰したお酒なら飲んでみたいな、なんて思いながらその光景を眺めていた。
彼女が僕を村に呼び込んだ次の日、村の長老から怒られたそうだが、それ以上の御咎めはなかったそうだ。
それはとても安心した。
僕のせいでノーチェが村を追い出されたとかになったら、それこそ僕は死んでしまいたくなっただろう。
ベリー果汁はタルに詰められ、数ヶ月かけて熟成させるそうなので、それまでには人間になれたらと思う。
そして、その日の夜、彼女は目を覚ました。
「……ヴィンデさん……私も頑張らないと」
彼女がそう呟いた。彼女が見ていたのは、僕が闘技場で戦っている夢だったらしい。
彼女が僕の夢を見るのはこれで2度目だそうだ。
そして、それが夢ではないのは僕が一番わかっている。
そして、そこで僕は目が覚めた。
※※※
あたりを見回すと、そこは森の中だった。うっすら空が明るんできていることから、もうすぐ夜明けなのだろう。
スライムは横で草を食べていた。相変わらずなんでも食べる奴だ。
たぶん、今のはただの夢じゃないんだろうな。
良眠を取ったその日に見た夢と似ている。
ノーチェのことを遠くから見ているという感じ。
じゃ、朝飯にするか。
実は、僕は昨日から、この日の朝飯をとても楽しみにしていた。
んー、あれがいいな。
僕はある程度の大きさの平らな石を見つけた。
アイテムBOXから昨日のロアーウルフの肉片を20切れ並べる。
スライムは餌を貰えると思ってそれを食べようとするが、待ったをかけた。
スライムは僕と餌とを見比べ、ぷるぷる震える。
今にも肉にかぶりつきそうだ。
「もっと美味しくしてから食わせてやるから、今は待て」
そう言うと、スライムはおとなしく草を食べだした。
本当にマイペースなスライムだ。
ただ、このスライムの忠誠度が一定に、二匹の忠誠度の合計が160を越えたらテイムのレベルが上がるそうだから、スライムの忠誠度を上げたい。
なので、餌付けは必須だ。
そして、アイテムBOXから塩と胡椒の入った袋を取り出し、それを手ですくって肉に振りまいた。
そして、大きく息を吸い込み、火の息を吹きだす。
石を熱した。だんだん熱くなる。
5分くらい温めたところで、僕の強化された鼻に、肉が焼ける匂いが。
うーん、この匂いはたまらない。
ある程度焦げたところで、僕は黒く焼けた肉をアイテムBOXに収納し、別の石の前に出した。
「よし、10切れはお前が食べていいよ。10切れは僕が食べるから。熱いから気を付けろよ」
僕はそう言って、一切れ、肉を食べた。
【スキル:“捕食”の効果により経験値2獲得】
一切れなので少ないな。捕食レベル1だった場合だと、4切れ食べて経験値1くらいか。
でも、おいしいな。
焼いた肉がこんなにおいしいものだったとは。
どうしよ、エルフって肉は食わないんだよな。
あぁ、それは少し困るな。今の内に食いだめしておくか。
スライムはというと、焼いた肉を少し見つめた後……そのうえに乗って取り込んでいった。
そして、ぷるぷると跳ねて二切れ目を食べ始めた。あぁ、おいしいんだな。
これだけ苦労して作って、土より不味かったら少し泣きたくなるだろうから、本当によかった。
5切れほど食べたところで、
「落穴! 水球!」
魔法で地面に窪みを作り、その中に魔法で水を入れた。
便利な魔法だ。
喉が渇いたので、その水を飲む。
うーん、本音でいえば烏龍茶が欲しいな。
そう思いながら、再び肉を食べようとしたら……肉がなくなっていた。
そして、スライムの身体の中には肉でいっぱいになっていた。
……いや、まぁ腹は膨れたからいいんだけどね。
本当にお前はマイペースだよな。
【テイムのレベルが2に上がった】
【配下残り1/3】
【君主のレベルが3に上がった】
……え、今!?
……………………………………
名前:****
種族:グリーンスライム(ダブル)
レベル:2
忠誠度:77
HP 14/14
MP 0/0
状態:火属性
スキルポイント2
……………………………………
忠誠度がかなり上がっていた。
僕についてきたら旨いものが食べられると思ったということかな。
……変な奴だ。まぁ、嫌いじゃないけど。
あと、状態の属性が変わっていた。前は土属性だったはずだ。
もしかして、食べたものによって属性が変わるのか?
そういえば、お前の名前をそろそろ決めないとな。
僕はその日の午前中、名前を考えた。
相変わらずネーミングセンスがないことに心を痛めながら、僕はスライムの名前を決めた。
「お前の名前はグリスラだ。いいか?」
……スライムの忠誠度が1下がっていた。そして、断られた。
そして、その日の夜まで考えて、スライムの名前はリベルテに決まった。
確か、フランス語で自由という意味だったはずだ。




