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闘技場を去り、旅に出る

 結局、近衛隊長及び騎士団の皆の活躍により、領主及び観客の皆さまは捕縛された。

 領主は女王権限によりその全ての役職を罷免されるそうだが、観客の多くは結局、罰金を支払い釈放されるだろうとのこと。


 なんとも中途半端な結末だが、まぁ無罪放免とかよりは助かる。


「それにしてもサイモンには最後までしてやられた」


 かつてこの国の跡目争いがあったとき、サイモンは今の女王に協力して、王子を嵌めて島流しにさせたそうだ。

 イシズからサイモンについて聞かされた僕は何よりもそれが驚きだった。

 詐欺師と女王。全然繋がりがないもんな。

 ちなみに、この捕縛劇はサイモンが合図を送ると同時にここに騎士団が入ってくる手筈になっていたそうだ。

 それなら、決勝戦が終わる前に入ってきてくれてもよかったんじゃないか? と思うが。


「サイモンが女王陛下と繋がりがあるとはな」

「まぁ、表立って公表はできませんがね」


 イシズはそう言って嘆息した。

 ちなみに、そのサイモンは、どこに行ったのかここには来なかった。


 その後、イシズは奴隷の処置について語ってくれた。ここに捕まっていた奴隷は王都で一度保護し、その後は働き口を提供するとのこと。

 奴隷の身分が解放されることはないが、できるだけ待遇の良い場所で働けるように優遇はしてくれるそうだ。

 それも素直に喜んでいいかどうか微妙だが、イシズが言うには国の決まりだから仕方ないらしい。


 さっき、騎士団に保護されて行く奴隷達を僕は黙って見送っていた時、最後まで僕と一緒にいた少女は、じっと僕を見つめ、僅かだが、確かに笑ってくれた。

 よかった。あの笑顔だけでも戦って良かったと思える。


 あと、残っていた魔物は、テイム済みの魔物のため、国で引き取り、しかるべき施設に送るそうだ。

 殺処分されないのは素直に喜ばしい。


「イシズさん。みんなのことをよろしくお願いします」


 僕はそう言い、頭を下げた。元から平身低頭だけど。


「……本当にあなたは魔物なんですか?」

「えっと、ファイヤーサラマンダーという魔物だそうですよ?」

「……そうですか」


 イシズさんは嘆息を漏らした。

 まぁ、信じられないものを見ている気分だよな。


「それにしても、スライムがここにいてよかったです。実はこの先に魔物専用の搬入口があって、そこから外に繋がっているんです。そこから逃げられたら捜索隊を派遣しないといけないところでした」

「あぁ、確かに魔物が外に出たとかになったら危ないからね」

「そうですね。ちなみに、女王陛下から一つ伝言があるのです」


 そう言うやいなや、イシズの手が僕の尻尾にのびた。


「『もしもあのペテン師が魔物をテイムしていたとしたら、その魔物はおそらくとても危険です。捕縛、それができなければ殺しなさい』とのこと」


 え? えぇぇぇぇぇっ!? 

 あいつ、女王陛下に全く信用されていないじゃないか!

 ペテン師呼ばわりされているし。

 でも、サイモンと短い間とはいえ一緒にいた僕ならこう思う。

 その判断は間違っていない。


「なので、私はあなたを捕まえていかなければいけないのですが……間違えて尻尾を掴んでしまいました。確かファイヤーサラマンダーは尻尾を切り離せるんでしたっけ。これだと逃げられたら困ってしまいます」


 イシズさんは淡々と僕に向かってった。


「ファイヤーサラマンダーは本来は絶滅しているはずの希少種なので、それが逃げたとなれば私にも罰はあるでしょうが、本来鱗を持たないはずのサラマンダーの鱗が付いた尻尾だけでも持っていけば、減給程度で済むでしょうね」


 つまり、イシズさんは暗に……というかバレバレだけど、僕に逃げろと言っているのか。

 最高の待遇だとは言わないが、でも出口まで教えてもらったのだから文句は言えない。


「僕の鱗はスキルのおかげで特別硬い鱗だからいい素材になると思うよ」


 そう言って、尻尾を切り離し、


「行くぞ、スライム! 旨いもの食わせてやるからついてこい!」


 僕はグリーンスライムと一緒に、イシズさんに教えてもらった出口へ向けて走って行った。

 後ろではイシズさんは僕を追うでもなく、笑顔で見送ってくれた。


 そして、搬入口と言われた場所に行く。

 灯りもない洞窟だが、僕は自分の身体に火を付けて進んでいく。


 そして、10分くらい走ったところで外に出た。

 森の中だった。


 ふぅ、なんとか逃げのびたか?

 スライムも後ろからついてきている。

 そして、ぷるぷると跳ねていた。

 あぁ、旨いものを食べたいんだな。


 僕はとりあえずロアーウルフの細切れの肉をアイテムBOXから出してグリーンスライムに与えた。

 グリーンスライムはそれを取り込んだ。

 表情はわからないが、旨いと思ってるのかな?


 さて、一応もう少し遠くまで――ん?


 蝋燭の灯りがあった。

 そして、その蝋燭の灯りの下には紙が三枚置いてあった。


 一枚には、金貨1枚と一緒にこう書かれている。


【あなたのおかげで多くの命が救われたこと、心より感謝します。そして、最後に無礼なことをして申し訳ありませんでした。この手紙は信用できる部下に命じて置いてもらっているのでご安心ください】


 これはイシズなんだろう。

 まぁ、彼女からしたら、他の騎士団に僕を捕縛させないための苦肉の策だったんだろうな、というのはわかっている。

 むしろ、魔物の僕をここまで信用してくれただけでも助かる。

 そして、次の手紙に目を移した。 


【お前のような疫病神は二度と俺に関わりたくない】


 という紙と、【投票券:決勝戦:コーラサラマンダーに金貨1枚】

 と、決勝戦で僕に賭けたという証がそこにあった。


 あぁ、決勝戦が終わるまで騎士団が入ってこなかったのはこのためか、あの詐欺師め。

 僕はその二枚の紙をアイテムBOXに入れて小さく笑った。


 金しか信じないと言っていたお前は、僕を信じて僕に騙された。

 もしかして、僕には詐欺師の才能があるんじゃないか?


 なんてことを照れ隠しに思う。

 まぁ、あいつのことだ、一回戦から準決勝まで、僕に賭けてそれ以上に稼いでいるんだろうが。

 それでも、最後にちょっといい気分になって僕はスライムと旅に出た。


 そして……ファイトマネーの僕の取り分がサイモンから渡されていないことに気付いたのは翌日のことだった。

 サイモンが僕をバカにして笑ってる姿が目に浮かぶようだ。


長い第六章も終わりです。

第七章からはスライムと二人で頑張ります。

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