紫色の脅威! 脱出するための秘策
毒注水宣言から落ちてきた紫色の塊。
それを見て、あれに触れたら流石に危ないと本能的に感じる。動物的本能だ。
ただ、あれだけの粘度があれば、土壁を作れば防げると思う。
土魔法を溶かすほどの毒ならば……逃げるしかない。だが、扉は鉄扉に変わったため、ピエールクラブに変身しても逃げられない。
つまり、土壁で防げなければ万事休すだ。
「……………………」
『……………………』
僕と観客が次に落ちてくる毒を見守る。
だが――毒がそれ以上落ちてこない。
あれ? もしかして設備の整備不良?
そう思った時、
【がっぷ】
……その声がさっき落ちてきた紫色の塊から聞こえた。
紫色の息が出ている……げっぷだよな? 今の。
え? 毒がげっぷ?
そう思ったら、今度はその毒の塊が土を食べ始めた。
……その光景に、僕は確信した。
『逃げ出したスライムかぁぁぁぁっ!』
観客が一斉にツッコミを入れた。僕も一緒になって叫んでいたが、観客の叫びに紛れて聞こえていないだろう。うん。
ていうか、なんでお前がいるんだよ!
ていうか、毒はどうしたんだ!
ていうか、なんで紫色になってるんだよ!
ていうか、“ていうか”ばっかり思ってるな!
『おぉっと、たった今連絡が入りました! 用意していた毒はグリーンスライムに全部食べられたそうですってえぇぇぇぇっ!?』
実況が一人で解説し、驚愕していた。
『マジですか! ていうか警備員は何してるんだっ! 警備員クビっ! 領主権限でクビっ!』
って、実況の男っ! お前が領主かよっ!?
そういえば黒幕が中々現れないなとか思ってたらお前が親玉かよ!
スライムは土を自分の体積の3倍くらい食べたところで、紫色から茶色に変色していた。
本当によくわからないな、こいつ。
【グリーンスライム(ダブル);HP14/14】
HPが2上がってるし。、強くなってるし。でも色は緑じゃないし。
んー、本当によくわからないんだが……こいつ、使えるんじゃないか?
僕はスライムに、ある念を送る。
テイム! グリーンスライムを配下にする念を送った。
だが何も起きない。やっぱりこのままじゃだめか。
アロエの時は最初から共生状態だったが、グリーンスライムとは仲が良いというわけではないからな。
命の恩人なのは変わりないからできれば穏便に済ませたかったが、僕はスライム目掛けて走った。
そして、手加減して尻尾を振るった。その尻尾が軽くスライムに当たる。
【グリーンスライム(ダブル);HP13/14】
おっと、手加減し過ぎた。こんなんじゃダメか。
【グリーンスライムが配下に加わった】
【配下残り0/2】
はやっ! 屈するのはやっ!
まさかHP1減っただけでギブアップって、どんだけ根性ないんだよ!
【スライムに変身可能です】
変身できるのはグリーンスライムじゃなく、通常のスライムか。
……………………………………
名前:****
種族:グリーンスライム(ダブル)
レベル:2
忠誠度:12
HP 13/14
MP 0/0
状態:土属性
スキルポイント2
……………………………………
忠誠度はあまり高くない、というかかなり低い。
んー、まぁいいか。こいつと仲良くなりたかったわけじゃなく、
――変身!
僕はそう念じ、スライムに変身した。
グリーンスライムより僅かに小さいその身体。
……うわぁ、変な気分だ。
まず、その視界。360度どころか上も下も全方向を見ている感じがする。
増えているスキルは「感覚強化:Lv1」か。
んー、よし、跳ねる!
そういうイメージをしたら、僕の身体が跳ねた。
【ベチャ】
ガラスの天井にへばりついて壊れた。
ただ、HPは減っていない。
こういうものなのだろうなスライムの体って。
そして、僕は天井にへばりつきながら、空気穴の隙間から体を出した。
ふぅ、外に出られた。
ということで変身!
僕は元の身体に戻った。
四大元素魔術師の称号を手に入れたときに最大MPがかなり上がっていたおかげで、元の姿に戻る分のMPは残っている。
僕が外に出たことで、多くの客が逃げ出し始めた。
当然だ、僕が外に出たのは、ライオンが檻から出たようなものだ。
だが、警備員やら剣闘士やらが即座に集まり、僕を取り囲む。
スライムに変身したせいでHPがだいぶ減っていてこのままでは安全とはいい難い。
なので、ここであれをすることにした。
決勝前に確認したあれを。
即ち、これから進化をする。
進化したらHPが回復できるのは確認しているからな。
もしも進化したときに今より弱ければ、もう一度変身したらいい。
そう思い、僕は念じた。
ちなみに、ガラスの床の下でグリーンスライムは相変わらず土を食っていた。
忠誠度低いのはわかってるけど、少しは主を助けようって気持ちはないのか、お前は。
グリーンスライムが仲間に加わった。
いよいよ進化パートです。