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二回戦開始

 思わぬ形で終わってしまったとはいえ、一回戦は余裕だったが、問題はここからか。

 二回戦、三回戦と敵は強くなっていくらしいからな。

 

 五つの鉄格子のうち、四か所に敵の影が現れた。

 二重扉のようになっている鉄格子。

 そこに魔物が運び込まれていた。


 今回はレアモンスターは2種。

 まずは白く大きな蛇、アナゴスネーク(アルビノ種)。

 もう一種のレアモンスターはなじみ深い魔物だ。

 ロッシュクラブ(黄鉄鉱)。いつも岩のように見える甲羅が黄色い鉱石になっていた。いつもより硬そうだ。

 あとは、初めて見る虫系の魔物、巨大トンボのパラライリベリュル。麻痺攻撃とか使ってきそうだな。

 そして……狼の魔物ロアーウルフだ。ベロウウルフよりも強いようだ。


 オッズが紹介されているのを聞くと現在の一番人気がアナゴスネーク、次にロアーウルフ、ロッシュクラブ、パラライリベリュルと続き、僕が断トツの5番人気。

 倍率はなんと21倍。


 さて、ここであれを覚えよう。

 かつてスキルポイントで何を覚えられるかを探していた時、7ポイントで覚えられると知ったあのスキル。

 決して覚えることはないと思っていた。

 ただ、1回戦で少女を守りながら戦う厳しさを知り、これがやっぱり必要だと思った。


【スキルポイントを7支払い、美味しそうな香りを取得しますか?】


 YESだ!


【スキル:美味しそうな香りを取得した】


 スキル効果を確認すると、美味しそうな香りを出すスキルか。

 魔物をおびき寄せたりするのに使えそうだし、今回取得した目的は、魔物の狙いを僕に集中させるためだった。

 レベルアップ条件は、一定回数使用か。ということは、MPを消費するタイプだな。


 ん? 三つのスキルを使えば、もしかしたら僕じゃなく、相手を囮にできるんじゃないか?


『さて、投票を締め切らせていただきました! やはり一番人気はロアーウルフ! 二番人気はアナゴスネークとなっております』


「チャッピーちゃん! あんなトカゲ丸のみにするざます!」


 おばちゃんが馬券ならぬ魔物券を握りながら白い蛇を応援する。

 あぁ、こいつがチャッピーか。

 チャッピーと呼ばれた白蛇は舌を出し、おばちゃん目掛けて威嚇している。


「チャッピーちゃん! やる気ざますね!」


 いや、あんた威嚇されてるんだよ。

 絶対に嫌われてるよ、この白蛇に。


 まぁ、こんな大会に出場させる主人を好きになる訳ないか。

 ただ、あのおばちゃんだけではない。

 多くの人が僕を憎む目で、もしくは哀れみの目、と見せかけた嘲り笑う目で見ている。


 奴らは全員、僕が嬲り殺されるのを心待ちにしているんだろうな。

 僕が負けるのを見越して、というより、彼らにとっては決定事項なのだろう。

 僕に賭けている酔狂な人物がいるとしたら、さっきの戦いで僕に賭けた人が祝儀代わりに賭ける人物か、大穴狙いばかりする、ギャンブルというよりかは夢ばかりを追う奴くらいだろう。


 実況の男が魔物の紹介をしている。

 魔物用の食事として用意されたである少女……代わりの子は出てこない。

 彼女の心の中は、どうかは僕にはわからない。

 助かったと思っているのか、ただ寿命が僅かに伸びただけだと思ったのか、死への逃走が許されずに腹立っているのか、もしくは何も考えていないのか、何も考える余裕がないのか。


 まぁ、彼女が何を思っていようと関係ない。

 彼女を助けるのは僕の独りよがりで、例え迷惑と思われていようと助けると決めてしまった以上は助けるだけなんだけど。


 彼女を見捨てたらノーチェへの顔向けができないとか、サイモンにいいように操られているだけだとか、そういう原因は関係なく。

 ただ、ここで彼女を――人間を見捨ててしまえたら、僕が人間であることを証明できなくなる、そんな気がした。


 僕を見下ろす、人を超越した人ならざるもの、人ではないと自称する人でなしと同じ立ち位置になりそうな気がする。

 人でなしになりそうな気がする。

 ……見た目が魔物だからこそ、人でありたいという願望。僕の我儘。


 そんな我儘に彼女を付き合わせてしまっているわけだから、もしも彼女を最後まで助けきって彼女に罵られたら、その時は素直に謝ろう。

 たぶん、釈然としない気持ちにはなるだろうし、後から考えたら「なんだあいつ、助けてやったのに」と思うだろうけど素直に謝ろう。


『では、二回戦! 試合開始です!』


 その叫びとともに、鉄格子が開いた。

 よし、いまだ!


 泡!


 泡が空中に浮かぶ。


『おぉっと、なんだこれは! コーラサラマンダーが泡を吹きだした!』


 なんだこれはって、ただの泡だよ。それ以上でもそれ以下でもない。

 だが、僕はその泡の中に顔をつっこみ、その泡の中の息を吸い、そして息を吹きだした。

 美味しそうな香りがする息を。


 MPが1減る。

 そして、小声でつぶやいた。


微風(ソフトウィンド)!)


 弱い風が吹く。泡がその風に乗って行き、ロアーウルフの方に飛んでいった。

 ロアーウルフはその泡を警戒して見つめ、泡に包まれた微かな匂いを感じ取ったのか、その泡に噛みついた。


 泡が割れる。泡の中の空気が広がる。美味しそうな匂いが、ロアーウルフを包み込む。


 それだけで、三対一の状況が生まれた。

 被食者は僕や少女ではなく、ロアーウルフへと変わった。


 空腹の魔物がいる中、美味しそうな匂いを嗅げば、例え、それが凶暴な狼でも――


『おぉっと、どういうことだ!? コーラサラマンダー以外の魔物が一斉にロアーウルフに襲い掛かっていく』


 実況の言った通りの状況になった。

 ただ、ここで終わらせるわけにはいかない。

 まずは――アナゴスネークから。


 僕はアナゴスネーク目掛けて走り、その尻尾に噛みつき、ついでに毒を流し込む。

 そこまでしなくてもいいとは思ったが、念のため。


「んまぁ、チャッピーちゃんに何をするざますかっ! チャッピーちゃん、そんな狼より後ろのトカゲを食べるざます!」


 おばちゃんうるさい。

 何度も言うが僕はトカゲじゃない、イモリやサンショウウオの仲間だ。

 チャッピー……じゃない、アナゴスネークは僕に尻尾を齧られ、ようやく僕を敵と見据えたようだが、尻尾に噛みつきながら僕の尻尾で鞭のように攻撃を加える。


 三度目の攻撃の時に、僕の尻尾に噛みついてきた。

 痛いなっ! と思ったら僕の尻尾の先が完全に取れてしまった。


 ウソだろ! これじゃ本当に蜥蜴みたいじゃないか、くそっ!


 だが、そのおかげか、HPは1減っただけ。見ると、尻尾は徐々にだが回復してきている。

 これなら数十秒で元の長さに戻れるはずだ。

 でも、そんなに待っていられないな。


 僕はそう思い、アナゴスネークの尻尾から口を離すと、その首に向かって跳びかかった。


【経験値480獲得】


 これが決め手となり、アナゴスネーク死亡。


『んまぁ、チャッピーちゃんんんんんっ!』


 あ、おばちゃんが泡を吹いて倒れた。

 どうやら、泡のスキルを覚えているようだ。なんてな。


「グレイシア様!」


 と付き人と思われる女性が駆け寄った。

 そんなにペットが大事ならこんな試合に出すなよな。


 そう思って、狼の様子を見たら、狼はもうずたぼろになっていた。

 生きているのがやっと。パラライリベリュルのせいで麻痺しているのか、機動力を生かせずにロッシュクラブに鋏で叩かれまくっている。

 あっちは時間の問題か。


 アナゴスネークを食べながら、様子を眺めていた。

 完食したとき、経験値2400入手でき、レベルが12に上がった。

 んー、絶好調だな。ちなみに、その時にはロアーウルフは息絶えていた。

 ただ、ロアーウルフの最期の意地だったんだろう、パラライリベリュルの羽が食いちぎられていて、動けない状況になっていた。


 残りはロアーウルフを食べているロッシュクラブだけだ。

 そして、こいつの弱点は――腹!


 僕は完全に再生した尻尾でロッシュクラブの足の一本を掴みひっくり返した。腹を天井に向けくるくると独楽のように回るロッシュクラブの真上に僕は飛び、ガラスの天井を蹴って腹に噛みついた。


【経験値540獲得】

【称号:レアハンターを取得した】


 勝利!

 ついでに称号で幸運値が5も上がった。


『勝負あり! なんだこれは! まさかのコーラサラマンダー2回戦勝ち抜き!』


 まさかの? そんなわけない。

 ここでも余裕だよ。


 ちなみに、ロッシュクラブはおいしくいただき、レベルが14まで上がった。ロアーウルフの残飯は後で食べるため、小分けにして食べるふりして、アイテムBOXに収納していった。

さくさく進みます。

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