階段の下にある空間
檻の中から様子を眺めていた。
門に近付くと、サイモンは身分証明書のようなカードと、俺を見せる。
それだけでサイモンは中に通された。
サイモンはそのまま無人の庭を通り抜け、屋敷の玄関の扉を無造作に開けた。
屋敷の中には使用人と思われる女性が二人いたが、何も言わない。
それにしても金持ちの家って凄いなぁ。シャンデリアはあって当然のようだし、彫像までおいてある。
家の中に噴水とかあるのか。マイナスイオンでも欲してるのかな。
そう思っていたら、サイモンはそのまま真っ直ぐ噴水の方へと歩いていった。
落ちてる小銭でも拾うのか? いや、落ちてないな。当然だけど。
と思ったら、サイモンはそのまま噴水の中に入って行った。
え……なに? 水浴び……なわけない。
思わず叫びそうになった、その時だった。
エラ呼吸のスキルを入手しようかとも思った。
僕の檻の中にも水が入ってきて……それは水ではなかった。
いや、そもそも存在すらしなかった。
バーチャルリアリティー?
そんな技術が存在するのか。
そして、噴水の中には階段が続いていた。
地下へと続く階段が。
「相変わらず、ここの幻覚は見事だな」
サイモンは独り言のようにつぶやく。
僕に聞かせるためなのだろう。
狭い螺旋階段を下りていく。
3分ほど下っただろうか。
扉があり、そこを開けた。
さらに通路が続いている。
ただ、ここは建物の通路というよりかは、坑道とかに近い気がする。
もしかしたら、ここはもともと坑道だったのかもしれない。
そして、先にもう一つ扉がある。
その扉を潜ると――そこは多くの人がいた。
ほとんどはどこかの金持ちのような格好をした男女。
中には子供までいる。これから魔物同士が戦うというのに、しかも女の子を殺そうというのに、それを子供に見せるのか?
そんなことを思っていると、執事服を着た髭を生やした男が笑顔で近付いてきた。
「よう、セバスチャン。元気そうだな」
サイモンがそう声をかけた。
マジか。執事でセバスチャンって凄いな。
「サイモン様とは初対面のはずですが」
「そうかもしれないな」
「それに、私はセバスチャンではございません。ゴンザレスと申します」
……サイモンが適当に言っただけか。
ていうか、本当に適当に生きているんだな。一周まわって愉快な奴に思えてくる。
「そちらが、コーラサラマンダーの亜種ですか」
「あぁ。レア種だ。できることなら1回戦から出したい」
「そうですな」
「それと……」
サイモンはセバスチャン……じゃない、ゴンザレスに何やら耳打ちをした。
すると、ゴンザレスは少し驚き、俺を見て、
「なるほど。それは面白い見世物になるでしょう」
……絶対、何か悪巧みしているな。
サイモンが。
でも、僕の役目はただ一つ。時間を稼ぐこと。
時間を稼げばサイモンがこの闇賭博の証拠をつかみ、公表すると言っていた。
ただ、それでも少女を守るためには僕は最後まで勝ち抜かないといけないんだよな。
「では、こいつを預ける。よろしく頼む」
「お預かりいたします。再度確認しますが、このコーラサラマンダーは、決勝戦で優勝するまで返すことはできません」
「かまわん。そいつが生きようが死のうが俺の心は一ミリも動かない」
……演技ではないだろうな。
本当にそう思っているんだろう。
強いて言えば、俺が優勝すれば、金貨1枚もらえるからそれが嬉しいくらいか。
もしかしたら、僕が優勝と同時に死ねばいいと思っているかもしれない。
なんでこんな奴を信じたのか、とも思うが。
そして、僕は階段を降りていく。
さっきよりも薄暗い階段だ。
松明がないと歩くことができないような場所を降りていく。
すると、声が聞こえてきた。
人の声じゃない。唸り声だ。
たぶん、魔物の。
そこには10匹を超える魔物がいた。
そのうち5匹はアルビノ種だった。メラニスティック種は僕一人のようだ。
真っ白いライオンとかは明るい場所で見たら綺麗だろうなとも思う。
全員が檻に入っていた。
僕はさらに奥へ運ばれる。
そして――置かれた場所は、あの時に見た少女の横だった。
あの時の少女だけではなく、男二人女の子三人の合計5人の子供がそこにいた。
全員首輪をしていて、目が死んでいる。
彼女達は知っているのだ。自分達がこれからどうなるのかを。
……試合開始まで時間はある。
ならば、僕は……できることをしておかないといけないな。




