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酷い理由と酷い自分

 結局、僕は、「今すぐというわけではない、ついてこい」という説明を信じて、信じてはいけない相手だとはわかっているのに信じることができず、宿屋へと向かった。

 そうだ、サイモンを信じるなんてどうかしている。疑うとしたら、さっきの少女が殺されるというところから疑うべきだ。

 そもそも、なんでサイモンにそんなことがわかるのか。

 わかるわけない。

 そう思った。

 なのに、


「ここの領主はちょっと変わった趣味を持っていてな」


 宿の部屋で、サイモンは椅子に座り、そう語り始めた。頼んでもいないのに。お金を払ってもいないのに語り始めた。

 なので僕もベッドの上に座って聞こうかと思ったら、


「汚い足でベッドに上がるな。そこは俺が寝るベッドだ」


 怒られた。当然のことを怒られ、僕は床に戻った。

 椅子は一つしかないので、当然床で聞くことになる。椅子があったところで、僕が座れば怒られたんだろうが。


「で、その変わった趣味って、やっぱり殺人趣味とかなのか?」

「いや、殺すのは人ではない。魔物が殺し合うのを見るのが趣味の男だ……いや、もはや仕事といったほうがいいな」

「魔物闘技場? 魔物同士が殺し合って、それを賭けるとか」

「ほう、察しがいいな」


 まぁ、ゲームじゃ定番だしなぁ。

 サイモンの好感度が上がっても全然うれしくないけど。

 あれ? でも、


「それじゃ、なんで女の子が殺されるの?」

「……やはり愚鈍のようだな」


 サイモンの好感度が急降下した。別に悲しくないけど。


「魔物や動物というのは、本来、同じ強さの相手とは戦わない。何故なら、同じ強さの魔物が戦えば、勝っても致命傷を負う。そうすれば、他の魔物に狙われる」

「あぁ……そうだよな」


 僕はブラックシャークの時、同じブラックシャークと戦ったけど、それは勝てるし回復もできると判断してのものだったし。

 確かに、ライオンとチーターが戦うとか、そういう話はあまり聞かないな。


「だから、条件を加える。空腹状態にし、獲物を、小さな獲物を放り込む。それを食べないと餓死するとわかる魔物はその獲物を取り合う。だが、その獲物を食べたからといって飢えがなくなるわけではない。血の匂いが充満した空間で魔物同士の戦いが始まってしまう。もちろん、興奮剤などの薬を使うことも条件に入るが」


 なるほどなぁ。いろいろと考えているわけか。

 あれ? でも、それじゃあさっきの答えは?

 少女が殺される、そういう話から始まったはずだ。

 これだと死ぬのは魔物だけで……うっ。


 察しが悪かった。

 そして、察してしまって、嗚咽してしまう。

 胃のなかから、さっき食べたネズミの肉がこみ上げてくる感じがする。


 ……つまり、魔物が最初に取り合う獲物っていうのが。

 戦いのゴングとなる獲物というのが。


「なんで、そんなことを……」

「ショーなんだよ。少女を殺すことで人間の脆弱さを演出する。魔物の強大さを際立たせる。そして、その魔物の殺し合いをショーとして見ることで、自分達が他の人間とは違う高みの存在だと誤認させる」

「それだけのために、殺されるっていうのか」

「奴らにとっては、たかが人間の小娘が人の高みにいる自分達の役に立つのだ。光栄に思えってところだな。くっくっく」


 サイモンが笑うのを聞き、僕あ思わず床を蹴って跳びかかり――サイモンにさっと躱された。

 わかっている。サイモンは悪くはない。いや、悪いやつなんだけど。

 僕が跳びかかったことに対して何も言わず、サイモンはつづけた。


「相手は領主だ。俺には何もできんよ。ただ、お前なら――」


 サイモンは言った。それが最初から全ての狙いであるかのように。

 そして、本当に全ての狙いがここにあるんだろう。


「お前なら、その戦いの舞台に赴き、少女を守ることができるだろう」


 そんな、くだらない……見え透いた嘘を言った。

 最初からこいつは……僕を闘技場に出させるためだったのか。

 酷いウソだ。

 酷すぎて、このまま帰ってしまおうかと思うほど酷い。

 でも――、


「話を詳しく教えてくれ」


 僕はもっと酷かった。いや、酷いというより、バカだったようだ。

 結局、僕は知りもしない女の子を助ける道を選んでしまうほどにバカだ。


 でも、ここで女の子を見捨てるようなら、ノーチェに顔向けできない、そんな思いだった。


   ※※※


 夜になり、僕は檻に入れられた。

 サイモンが言うには、アルビノ種や僕のようなメラニスティック種の魔物は、ショーの見世物として最優先に出場できるという。

 しかも、コーラサラマンダーは魔物の中では弱い種類であるから、1回戦から出場できるだろうとのこと。


 勝負は勝ち抜き戦。1回戦で生き残った魔物はそのまま戦わされる。

 そして、戦い抜き、5回戦――つまり決勝戦で勝った魔物が優勝。

 1回ごとに5匹の魔物が戦う。計21匹の戦い。

 決勝戦は5匹中4匹がシードとかいうふざけたシステム。


 なんでそんなふざけたシステムなのかサイモンに訊いたら、


「前の試合で必死に生き抜いた魔物が無残に殺されるのを楽しむためだ。賭けに負けた奴らは、勝ち残った魔物のせいで負けたと思っているから、そいつらのストレス解消にもなる」


 理由はさらにふざけていた。

 だが、そのふざけた理由のおかげで、1回戦から少女を守り続けることができる。僕の出番のない試合があれば、その時は誰も守ることができないのだから。


 ちなみに、ファイトマネーについても聞かされた。

 出場するだけで銀貨10枚。1回戦を勝てば銀貨10枚。それは3回戦まで同様。

 4回戦を勝てば銀貨30枚で、優勝すれば金貨5枚もらえるそうだ。


 だいたい、銀貨1枚1万円としたら、優勝すれば金貨5枚と銀貨70枚だそうだ。

 ファイトマネーの取り分は僕が8でサイモンが2になった。


 そんなんでいいのか? と思ったが、考えれば僕が死んでしまえば取り分はサイモン10で僕が0になる。


 もちろん、全てが作り話で、サイモンが僕を売ろうとしている可能性もあった。

 まぁ、それならそれで、僕は逃げ出す手段はある。檻の隙間が大きいので、ピエールクラブに変身すれば十分に逃げられる。


「行くぞ」


 サイモンが檻を持ち上げて宿を出た。

 首輪は外された。結局、この首輪は何もなかったようだ。てっきり絶対に外せない首輪かと思っていた。

 首輪に関してもピエールクラブに変身すれば外せるから問題ないと思っていたが。


 そして、僕たちは領主の屋敷へと向かった。


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