声にならない驚き
「それで、何を買うんだ?」
誰もいない公園のベンチに座り、サイモンはそう尋ねた。
ちゃんと覚えていてくれたのか。
「香辛料と、米とかってあるか? あと傷薬のようなものとか」
「香辛料か。胡椒と唐辛子、塩、砂糖なら売ってるだろうな。米もあるぞ。傷薬もな」
「あぁ、僕辛いのダメだから、胡椒と塩と砂糖で。それぞれ銀貨10枚分くらい」
おそらく10万円。米なら200キロくらいになるだろう。
アイテムBOXがあれば余裕で入る。
と、その前にあれをやっておかないと。
魔法取得!
【スキルポイントを5支払い、水魔法を取得しますか?】
【スキル:水魔法を取得した】
覚えたのは【水球】という魔法。
【スキルポイントを5支払い、風魔法を取得しますか?】
【スキル:風魔法を取得した】
覚えたのは【微風】という魔法。
【スキルポイントを5支払い、火魔法を取得しますか?】
【スキル:火魔法を取得した】
覚えたのは【着火】という魔法だった。
【称号:四大元素魔術師を取得した】
おぉ、称号GET。って凄いな、今ので、水、風、火の耐性が20上がって、土耐性も10上がってる。
……………………………………
名前:ヴィンデ
種族:コーラサラマンダー(メラニスティック種)
レベル:2
火耐性:0
水耐性:50
風耐性:20
雷耐性:-10
土耐性:20
光耐性:10
闇耐性:0
無耐性:0
斬耐性:10
突耐性:10
殴耐性:10
物理反射:15%
……………………………………
という具合だ。火耐性は-20だったのが0になっている。闇と無は相変わらず0だ。
水耐性は進化するときに下がってしまった。
さらに最大MPも10上がってる。これなら、もう変身して戻れなくなった、とかいう心配はない。
水の中では風とか火とかは使えなかったけど、地上に出たら結構便利だと思う。
あと水魔法は飲み水がないときとかに便利だよな? たぶん。
「水球」
野球ボールくらいの水の球が浮かび、そして落ちて地面を濡らした。
「水魔法か?」
「あぁ、今覚えた。方法は企業秘密だ」
企業なんて立ち上げた覚えはないけど。
水は大地に吸われていくが、湿った地面が即座に乾燥する気配はない。
水としてきっちり残っているようだ。これで飲み水に困る心配はない……と思う。
MPは2消費している。
あと雷魔法、光魔法、闇魔法とかも覚えたいんだけど、スキルポイントも残り17。
光魔法と闇魔法はスキルポイントを10消費するし、雷の音は苦手だしなぁ。
また今度でいいか。
「そういえば、メラニスティック種ってなんなんだ?」
僕が普通に気になっていたことを訊ねた。
サイモンも僕を見たときからメラニスティック種って言ってたし。
「企業秘密、と言いたいが、一般常識だ。教えてやろう」
「一般常識なのか」
「魔物の中には生まれながらにして、突然変異で白く生まれるアルビノ種と黒く生まれるメラニスティック種がいる。そいつらはレアモンスターと呼ばれ、倒すと良い素材を落とす」
アルビノ種……あぁ、ピンクのイルカが流行ったけど、あれもアルビノ種だって聞いたことがあるなぁ。あと、白い鼠とか白い蛇とか。
遺伝子異常で色素がなくなるアルビノ種。
僕はどうやらその逆らしい。
「アルビノ種よりもメラニスティック種のほうが珍しいからな。生きたまま捕まえて愛好家に売れば大金が手に入る」
「……まさか、僕のことを売らないよな」
「売るつもりなら説明などするか。安心しろ」
……安心できないよ。こいつから貰った食べ物や飲み物は口にしない方がいいな。
睡眠薬が混入されているかもしれない。
寝るときも空気穴だけ空けた土の壁の中で寝ることにしよう。
その後は予定通り、香辛料と米、ポーションを3本購入。
ポーションは飲み薬で、飲むとHPが回復するそうだ。
全部アイテムBOXに収納。いやぁ、いい買い物した。
じゃ、サイモン。世話になったな。またどこかで会おうぜ。
僕は左手でさよならをし、そのまま立ち去ろうとし――首輪につけられたリードを引っ張られた。
「どこに行く。仕事はこれからだ」
だよねぇ。でも、用事も済んだし、隙を見て逃げ出すんだけど。
正直、こいつと一緒にいたら心が休まらないしな。
暫く歩くと、大きな屋敷が見えた。
手入れされた庭に二階建ての石造りの立派な屋敷。
小さな海の見える家で暮らすことを夢見ていた僕だが、こんな家で暮らすのも悪くないな。
いや、どんな家でもノーチェと暮らせればそこが天国なんだけどね。
「……この町の領主の館だ」
僕に説明してくれたんだろう。
へぇ、ここが領主の館か。
やっぱり領主っていうからには儲かってるんだろうな。
門番警備の男がこっちを睨み付けている。
早く行こうぜ、そういう意味を込めてリードを引っ張るが、サイモンは動こうとしなかった。
なんでだ? もしかして僕をここに売るのか?
そう思ったら、門番のところに一人の少女がやってきた。
10歳くらいの、正直身なりがいいとは言えない少女。首には僕のとはデザインの異なる首輪がつけられている。
「行くぞ」
僕にだけ聞こえる声でサイモンは言い、門の前を通り過ぎた。
さっきの少女は門の中に入って行き、見えなくなる。
「声を出すな。黙って聞け」
わかってるよ。周りにも人がいるし、こんなところで声なんて上げるか。
「さっき屋敷に入った女だがな、彼女は殺されるぞ」
「―――――っ!?」
声が出なかったのは、約束を守ったからなんかじゃなく、ただ単に驚いただけだった。




