表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/171

僕は貨幣価値を理解した

 3時間ほど歩き、森を抜けた。さらに歩いて30分、昼くらいに町に到着した。

 町は高さ1メートルほどの木の柵に囲われているようだ。

 入口の前に一人の若い男が立っている。門番みたいだ。


「ここからは喋るなよ」


 サイモンの命令に僕は頷いた。言われなくてもわかってる。

 そして、僕たちは門へと向かった。


「その魔物は?」

「俺がテイムした魔物だ。首輪もつけている。問題ないだろ」

「規則ですので、三の命令をお願いします」


 三の命令? なんだ、それ。

 そう思ったら、サイモンはめんどくさそうに、


「右後ろ足を上げろ」


 ……? とりあえず右足を上げる。


「左後ろ足を上げろ」


 言われた通り左足を上げる。


「右前足、左後ろ足を上げろ」


 右足? 左足? 両足を上げる?

 逆立ちをしてしまい……サイモンが睨み付けてきたので間違えたのに気付き、今度は直立して両手を上にあげ、それも間違いだと気付き、右手と左足を上げた。

 バランスをとるのが難しい。


「……いいでしょう。通ってください」


 ふぅ、なんとか許可が出たようだ。

 三の命令って三回命令を出すことなのか、この動作が決まっているのか。多少のミスは許されるようだ。

 いやいや、足とか言われても、正直、いままで魚として0本足で生きていたし、人間の時は2本足、蟹の時は10本足だったから、前足とか後ろ足って言われてもピンと来ないんだよ。

 決して僕がバカとかじゃない。

 サイモンは呆れて何も言わないようだが、決してバカじゃない。ちょっと緊張しただけだ。

 そして、町の中に入った。

 森が近いためか、木造の建物が多い。

 そこそこ活気があり、通りに露店も並んでいる。

 リンゴ1個が銅貨1枚か。

 他にも、パンのようなものを売っているお店や、アクセサリーを売っているお店もある。

 花のブローチとか、ノーチェに似合いそうだな。銀貨1枚……500円くらいか。

 また、ここが異世界だと改めて認識できるできごとが。


 猫耳のお姉さんとお兄さんが僕の横を通り過ぎて行った。


 振り返ると尻尾が生えており、しかもその尻尾は動いていてそれぞれ絡め合っていた。猫人族とか?

 まぁ、ここが異世界だっていうのは最初からわかっていたし、ノーチェもエルフだったからわかっていたことだけど。


 このまま大通りを進み、剣と盾の看板のかかった店にサイモンは入って行った。

 武器防具屋? と思ったら、武器や防具などが売っている雰囲気はない。どちらかといえば酒場のような雰囲気の店だ。

 昼飯でも食うのかな? と思ったら、サイモンは奥のカウンターに行く。そこには、若い女性がいた。


「これとこれを買い取ってもらいたい」


 よく見えないな。僕はサイモンの足を掴み、その身体をよじ登って行き、肩まで行った。

 前の女性は僕の姿を見て、一瞬、顔をしかめたが、それでもすぐに笑顔に戻る。


 サイモンが出したのは、金のブレスレットとプラチナリングだった。あと、カードがある。冒険者ギルド員登録証……Aランクか。

 そうか、ここは冒険者ギルドで、買い取りとかもしているのか。

 僕は左手を虚空に入れ、プラチナリングを1個取り出してカウンターに投げた。


「三つに変更だ」

「かしこまりました。査定しますので少々お席でお待ちください。何かお飲み物をご用意しましょうか?」

「麦酒と、こいつに水を頼む」


 そう言って、サイモンは銅貨を7枚、お姉さんに渡した。

 僕は水か……と思ったが、そういえば、こういう町だと酒よりも水のほうが高いんだっけか?

 後で代金を請求されるかもしれない、だとすれば、どうせなら久しぶりに牛乳でも飲みたかった。

 酒場で牛乳を頼むと笑われるというのは相場で決まっているが、昼間から酒を飲む奴らよりはマシだと思う。


「あと、個室を使いたいんだが」

「ミーティングルームの使用料は10分銅貨1枚になっております」


 サイモンは銅貨3枚を取り出しておいた。

 30分使うということだ。


「こちらがカギになっております。飲み物はそちらにお持ちしてよろしいでしょうか?」

「頼む。査定結果もそっちで伺う」


 サイモンがカギを受け取り、通路奥の葉っぱのマークの部屋の鍵を開けて入った。

 ソファーとテーブルのみの部屋で、調度品どころか窓すらない。

 僕はそのソファーの上に座る。久しぶりに柔らかい椅子だ。


「索敵を使えるな。扉の前に誰かが来るまで話していいぞ」

「ここは冒険者ギルドなのか?」


 僕が訊ねても、サイモンは何も答えない。


「査定って何分くらいかかるんだ?」


 訊ねても、サイモンは何も答えない。


「冒険者ギルドってどういう施設なんだ?」


 訊ねてもサイモンは何も答えない。っていや、何か言えよ。

 ただ、さっきの冒険者ギルド登録証に書かれた名前を思い出す。

 そこには、やはりサイモンと書かれていた。

 サイモンというのは偽名で、本名はアルフレドなんだが、本当に偽名が本名になってるんだな。

 冒険者ギルド、冒険者登録すれば身分証明にもなるし、仕事もできる。

 人間になればギルドに登録して仕事をするのもいいかもしれない。

 薬草採取とかするんだよな。


 さっき、建物の中にいた男達の様子を見ていったけど、HPは30~50が平均。多いものでも100くらいしかない。MPなら0の者もいたくらいだ。

 HPが300近くあるサイモンはやはり強いということだ。

 

 隠形スキルを持っているものもいないのだろう、全員索敵で認知できた。

 暫くして、男の人が水の入ったペット用の皿と、麦酒の入った木のカップを持ってきた。


 僕は長い舌を伸ばし、水を飲む。

 いつも海水ばかり飲んでいたせいか、水を飲むという行為が久しぶりな感じがする。


 無言のまま時間が過ぎた。15分くらい経っただろうか?

 さっきの受付嬢のお姉さんがやってきた。


「査定が終了しました。プラチナリングは金貨6枚と銀貨30枚。金のブレスレットは金貨1枚と銀貨2枚、銅貨50枚になります」

「それでいい」


 プラチナリングが金貨6枚と銀貨30枚ということは、銀貨63枚をサイモンに渡せばいいということか。んー、3万円くらいか。


「大金になりますので、当ギルドで用意できるのは金貨10枚までになっており、残りはギルド口座への入金になりますがよろしいでしょうか?」

「いや、金貨6枚と銀貨100枚でいい。残りは全て口座に入れてくれ」

「かしこまりました」


 ……ん? そういえば、銅貨50枚っていってたよな。だとしたら、銅貨50枚は銀貨1枚の価値もないってことか。

 銅貨100枚で銀貨1枚? リンゴが1個銅貨1枚ということは、銀貨1枚って、リンゴ100個分!?

 少なく見積もっても銀貨1枚5000円、普通に考えたら銀貨1万円じゃないのか?


「サイモン、銀貨10枚って大金じゃないかっ!」


 お姉さんの気配が遠のくのを確認して僕は叫んでいた。 

 5000円なんてとんでもない。


「大金だな。ギルド職員の平均給与が1日銀貨1枚だから、ざっと10日分だ」


 はじめて僕の質問に答えたサイモンは、だが、


「だが、いいだろ? お前が払うのは銀貨10枚ではなく、お前の言った通り査定の1割だ。問題あるまい」

「そりゃそうだけど」


 10分後、金貨6枚と銀貨100枚がサイモンに手渡され、うち金貨5枚と銀貨67枚が僕に渡された。

 腑に落ちない感じはあるが、でも僕が言いだした契約通りの結果になった。

 ギルド職員の1年半分の給与か。

 これだけあれば欲しいものが買えるな。

 大金を入手したので、それをアイテムBOXに入れる。


【称号:小金持ちを取得した】


 おぉっ、称号GET!

 幸運が1増えてる。幸運がどう影響するのかわからないが、得した気分だ。

 これもプラチナリングが大金で売れたおかげだな。


「でも、なんでプラチナリングってこんなに高いんだ?」

「白金は鉱石そのものは安い。だが、加工する技術がほぼ確立していない。凄腕の錬金術師が数ヶ月かけて鉱石からインゴットにし、凄腕の鍛冶師がそこからリングに数ヶ月かけて加工するものだ」

「へぇ……」


 サイモンは大金が入ったためか、ようやく僕の質問に答えてくれた。

 ちなみに、冒険者ギルドを出るときに客の話を聞いて気付いたことなんだが、このあたりの井戸水は飲み水として適しているため、基本的に飲料水は無料だそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ