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金で買えるものと買えないもの

「ところで、仕事ってどんな仕事なんだ?」


 どうせろくな仕事じゃないと思っているが、鉱山のカナリアのような死ぬことを前提とした仕事ならお断りだ。隙を見て逃げ出してやる。

 隙があれば、の話だが。


「そうだな、畑に穴を掘るのはどうだ?」


 サイモンが、そんな提案をしてきた。想像していなかったくらいに簡単な仕事に、僕は眉をひそめた。もちろん、僕には眉はないんだが。 

 生ごみを埋めるためとか、肥溜めを作るためだろうか? それくらいならやってもいいが、僕と同じ土魔法を使えるサイモンなら僕の手を借りなくても余裕じゃないのか?


「畑を穴だらけにして農民を困らせる。魔物退治の依頼がくるだろうから、俺がお前を捕まえて連れていく。他の村でもそれを繰り返すだけで結構な稼ぎになる。楽な仕事だとは思わないか?」

「思わないよっ! そんな八百長してたまるかっ! 下手したらお前に捕まる前に農家の人に殺されてしまうよっ!」


 その村に最強の農民がいないとも限らない。

 ツッコミの三連発に


「冗談だ。そもそも、農民風情が俺の心を満たす報奨金を出せるとは思わないからな。そんな冗談もわからないからお前はいつまでたってもイモリなんだ」


 サイモンは悪態をついて嘆息を漏らした。え? 今の俺が悪いのか?


「おおかた、お前のことだ。生まれるときに、火の精霊サラマンダーに生まれるはずが脳無しのため黒焦げのイモリになったんだろ」

「……そ、そんなわけないだろ」


 俺は思わず言いよどんでしまった。サラマンダーを勘違いしたのは事実だ。


「安心しろ、お前がするのはただの人助けだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「嘘だったらお前の舌を引き抜くぞ」

「そういうウソは実力を身に付けてから言うんだな。脅しにもならないぞ」

「ぐっ」


 確かに、今の俺がサイモンには勝てないというのは理解している。

 ステータスの問題じゃない、普通に戦いの経験の差だ。


「安心しろ、ウソは吐くがいつもではない。1割ほどは本当のことを言っている」

「9割ウソだって自覚があるだけ凄いよ」

「ちなみに、今のもウソだ。だが、このウソもウソかもしれない」


 つまり、こいつの言っていることはウソとしても信用できないってことか。

 100%ウソをつく人間ほど正直者はいないって言うしな。


「嘘でもいいから、教えろ。僕の場所を見つけた理由、そして僕の嗅覚強化から逃れた理由を」

「少しは自分で考える努力はしたのか?」


 あぁ、少しは努力した。

 努力はしたが、


「可能性としては、お前が索敵スキルを持っていること。消臭スキルを持っていること、だな」


 消臭スキルなんてスキルはスキルポイントでは入手できなかったので、あるかどうかは怪しいが。


「索敵スキルも消臭スキルも持っていない。敵の気配はスキルがなくてもそれなりにわかるし、紳士として匂いには気を付けているがな」


 どこが紳士だよっ!

 お前が紳士だと名乗ったら、世界中の紳士から袋叩きにあうぞ! 紳士組合を敵に回すことになるぞ。

 お前に紳士の要素があるとしたら、そのトレンチコートくらいだ。ちょっと欲しい。

 と文句を言いたいが、今は教えてもらっている立場なので黙っておく。

 すると、サイモンは答えを告げた。


「俺が使ったのは風魔法だ」

「風魔法?」

「風魔法の中に風を強く感じる魔法がある。それで、お前の堀った穴が別の出口に繋がったことがわかった。あとは、その出口から、お前の残した足跡をたどった」

「足跡……」


 どうやら、本当に僕はバカだったようだ。

 初歩的過ぎるミスを犯していた。

 サイモンがいう足跡とは単純な足跡だけじゃなく、折れた枝などを含んでのものなのだろう。


「じゃあ匂いは?」

「お前に近付く間、風魔法で自分を風下にしていただけだ」

「そんなことで」

「嗅覚スキルが高ければそれでも見抜かれたかもしれないがな」


 ウソかもしれない。だが、全て理にかなっている。

 理屈の通るウソはウソとは言えないな。とにかく、足跡は気を付けないと……どうやって気を付けたらいいのかわからないけど。

 その前に、穴の中だな。穴のなかで、先に来た道を塞いでおけば、風が通ることもないし、僕と同じくらいの大きさの追跡者がいた場合、防ぐことができる。

 

「風魔法ってそう聞くと便利そうだな。覚えようかな」

「なんだ、魔法書を持っているのか? 高く買い取るぞ」

「持ってない……って魔法書で魔法が覚えられるのか? お前が金を出すというくらいだからよほどのレアアイテムなんだろうな」

「俺としたことが、ロハで情報を渡してしまうとは。お前は詐欺師の素質があるんじゃないか?」

「そんな素質はいらない、それより」

「教えてほしければ金をよこせ」


 ……こいつはいつまでたってもこういう奴だ。


「じゃあいらないよ。ていうか、なんでそんなに金が欲しんだよ」

「その質問の意図がわからないな。金があればなんでも買えるからに決まってるだろ」

「なんでもって……なんでもは買えないだろ。例えば――」

「永遠の命、とかは買えないな」


 先に言われた。もしかして読心術を持ってるのか?


「だが、寿命を伸ばすことはできる。貧困層と富裕層の平均寿命の差が30年以上あることはお前でもわかるだろ」


 確かにその通りだ。

 なら、他に買えないものってなんだ?

 思い出とか……愛とか?

 愛か。この話題に来たときの定番だが、言っておかないといけないよな。

 むしろ、言わないといけない。僕のノーチェへのこの思いはプライスレスなんだから。


「……愛とかは買えないだろ?」


 半分あきらめ気味で訊ねるように言った。絶対にバカにされる。

 そう思ったら、


「愛か。確かに、それは金では買えないな」


 まさかの肯定だった。

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