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川沿いに歩くと人間と出会った

 陸地に上がれば思い出すのは絶望の日々。

 ピエールクラブになり、最弱人生を送っていた僕。

 だが、今は違う!


 空から襲い掛かってくる索敵では赤黒い気配の2メートルはある黒く大きな鳥。正直、今の僕では敵う気はしない。

 僕を完全に獲物と見定めている。

 鳥が急降下してきたので僕はすかさず――変身!


 ブラックシャークになった。鳥は慌てて逃げようとするが、急降下からの急浮上が間に合わず――僕の口の中に入り、僕が噛みつくと鉄の処女(アイアンメイデン)による処刑のようになった。

 血の匂いが僕の鼻孔を刺激し、このまま飲み込みたくなる衝動にかられる。だが、あえて吐き出し、元の姿に戻ってから食べることにした。

 この動作はMP20も消費するので多用はできない。


【スキル:“捕食”の効果により経験値60獲得】


 ……おかしい。

 レベル2にならない。

 正直、レベル2になれると思ってMPを無駄遣いしたのに。

 んー、MPがないと不安だな。


【スキルポイントを10支払い、MP自動回復を取得しますか?】


 スキルポイントの消費はHP自動回復は5でMP自動回復は10。これがいままでMP自動回復の取得に踏み切らなかった理由。

 今まではアロエのおかげでMPを気にすることもなかったけど、これからはそうは言っていられないか。

 幸い、今は40ポイントあるからな。


【スキル:MP自動回復を取得した】

【称号:スキルマニアを取得した】

【スキル鑑定のレベルが4に上がった】


 そうか、これでちょうど30個目のスキルだったのか。


【スキルマニア:そろそろスキルの把握が面倒になってきた?:スキル鑑定取得orレベルアップ】


 確かに、面倒になってきたな。どれも必要なスキルだけどさ。

 でも、尻尾攻撃とかって、人間になったらどうなるんだろ? あと、今肺呼吸できてるのに、肺呼吸のスキルって意味あるのかな?

 スキルが30個あったら、自動的にスキル鑑定のスキルが手に入っていたのか。でも、スキルポイントで入手しているほうがいいかな。

 ここで自動的にスキル鑑定を手に入れていたら、スキル鑑定レベルは3のままだっただろうし。


 スキル鑑定レベルが4に上がったことで、レベル3になる条件がわかった。

 といっても、ほとんどは予想通りだったので、驚きとかはない。

 そんなことを考えながら、僕は自分のステータスをこまめに確認した。

 その結果、体感時間で2分にMPが1回復することがわかった。いままでは20分で1回復する程度だったので、10倍の速度になったといえるだろう。

 とはいえ、変身コンボは40分に1回しか使えないのか。

 MP自動回復のレベルが2になるのは最大MPが100になったときだから、ブラックシャークになってもレベルが上がらないな。


 そう思いながら、僕は川沿いに陸を進むことにした。

 途中で花を見つけて、その匂いを嗅ぐことに。

 すると、


【嗅覚強化のレベルが2に上がった】


 となる。レベル3になるには50種の花の匂いか。大変だなぁ。

 でも、嗅覚強化で、ある程度遠くの匂いが……ん?


 この匂いは、焼き魚の匂いだ!

 僕は匂いに釣られて川沿いをさらに進む。

 匂いは近くから漂ってきているが、索敵スキルに気配は感じない。

 さらに進むと、木々の間の広場に焼き魚が2本、木の棒に刺さって置いてあった。たき火に焼かれている状態で。

 たき火と焼き魚。


 ……誰もいない?


 索敵をかけても誰もいる気配がない。

 このままじゃ焦げてしまうぞ。

 それは勿体ない。

 もったいないないお化けが出てくるくらい勿体ない。

 日本人として、そんなことを見逃すわけにはいかない。


「ということでいただきま――」

「魚を釣ったと思ったら、もっと面白いものが釣れたな」


 俺が見上げると、剣を構えた人間が不敵な笑みを浮かべて見下ろしていた。

 黒のトレンチコートを着た30歳くらいの男だ。

 魚の煙の匂いのせいで嗅覚が麻痺していたのはわかるが、なんで索敵スキルにひっかからないんだ?


「メラニスティック種のコーラサラマンダー……しかも喋るとは」

「あ……あなたは……」

「俺はただの通りすがりの勇者だ」

「嘘だろ……」


 勇者。魔王を討伐する存在。

 だが、そんなのはオチにすぎない。

 勇者とは、魔物を討伐してお金を稼いだり経験値を稼いだりして成長し、結果として魔王を倒す職業……ってあれ? それじゃ僕とほとんど変わらないじゃないか。

 なんて言ってる場合じゃない。

 話して通じるだろうか?

 俺の脳裏には、弓矢を射るエルフの姿が浮かぶ。ノーチェとともに向かったエルフの村で、魔人と恐れられて襲われたあの日を。

 だが、それ以上に、ノーチェのように話を聞いてくれる人もいる。

 勇者ならばなおさらだ。


「あの、見逃してくれませんか?」

「それで、俺になんの利がある?」

「あ……えぇと」


 俺は小さな右手を出し、虚空の手を突っ込んだ。

 そして、そこから金のブレスレットを取り出す。

 アトランティスの財宝のごくごく一部だ。


「これあげるから」


 言いながら、流石に無理があるかと思った。相手は勇者なら、こんな買収は最も嫌ってくるんじゃないかと思った。


「よし、言いだろう。今日のところは見逃してやる」


 男はあっさり剣を収めた。


「いいのか!?」

「お前を殺すよりは生かす方が得だと判断した」


 男はそう言うと、座って焼き魚を食べ始めた。

 僕に背を向けて隙だらけだ。


「なぁ、そんなに信用していいのか?」

「俺は誰も信用していない。信じるのは自分と金だけだ」

「それが勇者のセリフかよ」

「あれはウソだ。俺は勇者なんかじゃない」


 ウソかよっ!

 なんか、変なおっさんだな。


「なぁ、あんたの気配、全く気付かなかったんだが、何かしたのか?」

「ん? 気配……あぁ、お前、索敵スキル持ってるのか。レベルは?」


 俺が「3だ」と答えると、男はそうか、と言って俺のほうに魚の骨を投げてきた。

 ……って、何も言わないのかよっ!


「答えを教えてくれよ」

「なぜ、俺が教えないといけないんだ? 俺になんの利益がある? そもそもお前はバカか? 自ら自分のスキルを暴露するとは」

「お前が訊いたんだろうが」

「訊かれてなんでも答えるのは教師の仕事だ。教師は金を貰って情報を生徒に与える。なら、お前も授業料を払うべきではないのか?」

「……そうやって、また僕から金をとろうとしてるんだろ。断る、これは大事な――」


 俺が言うと、男は不敵な笑みを浮かべ、


「いいのか? お前は自分の索敵スキルに自信があるんだろ? なのにそれが効かない相手が現れた。調べるべきじゃないのか? 今度出会った人間が俺みたいな悪人だとは限らないぞ?」

「悪人とは限らないってどういうことだよ」

「善人は魔物となんて取引しないってことだ」


 確かに、言えている。二つの意味で。

 一つは、まぎれもなく目の前の男は悪人に分類される人種だということ。

 そして、もう一つは、ここは口惜しいが、情報を得ないといけないということだ。

 実は以前にも同じ経験がある。アルモニー、あいつの気配も僕は感じることができなかった。

 僕は虚空に手を伸ばし、銀の指輪を取り出した。


「これでいいか?」

「プラチナリングか。まぁいいだろう」


 男は指輪を取り、懐にしまうと、魚の骨を僕に投げつけた。

 しまった、銀じゃなくてプラチナだったのか。

 そんなにいいものだとしたら結婚指輪にしたら――いや、結婚指輪は自分の稼ぎで買わないとな。


「索敵スキルには対になる隠形スキルというものがある。隠形スキルのレベルが索敵スキルのレベルより高ければ索敵スキルにはかからない」


 そうだったのか。知らなかった。

 より高ければ、ということは、同じレベルまで上がれば見つけられるってことか。


「ありがとう、助かったよ」

「礼をするなら礼金をよこせ」

「断る。ていうか、どんだけ金にがめついんだよ、あんたは……そういえば、名前を聞いて……っていいや。名前を聞いてもどうせ金をとるんだろ?」

「御明察、といいたいが、等価交換といこう。お前が名乗れば、俺は名前を名乗ってやろう」


 ……名前の交換。まるで名刺交換みたいだな。

 まぁ、それならいいか。


「僕はヴィンデ。朝顔っていう意味だ」

「なるほど、ネームドモンスターか。なら主人もいるということか」

「……しまったっ!」


 つい名乗ってしまったが、魔物が名前を持つってそういうことだったんだよな。


「まぁ、いいだろう。俺の名前はサイモンだ。ファミリーネームはない。ちなみに――」


 男は本当におかしそうに笑って言った。


「当然、偽名だ」

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