発見、石蟹の巣!
起きてもやはり、僕はブラックバスだった。
まぁ、今更って気がするけど。
あのメスブラックバスはやはり戻ってこない。
卵の数には変化はないし、索敵スキルでも石蟹が近くにいないことはわかる。
ただ、池の外に二つ、気配がある。
僕は再び池から顔を出した。
呼吸ができなくなり、苦しくなる。
でも、その二つの気配が何かすぐにわかった。
コボルトだ。コボルト二匹が、作物を育てている。
どうやら、あれはコボルトの畑か何かのようだ。
じゃあ、ここはため池というよりかは、コボルトの水汲み場?
安全には程遠いんじゃないか?
……でも、卵達を置いて遠くへはいけないよな。
あぁ、それにしても腹減った。
さて、今日も石蟹を食べますか。
10匹ほど食べたところで、
【経験値1獲得】
【スキル:“捕食”の効果により経験値1獲得】
【****のレベルが上がった。各種ステータスがアップした。スキルポイントを手に入れた】
よし、レベル5になった!
といっても、どうせ微変化だろうな。
……………………………………
名前:****
種族:ブラックバス
レベル:5
HP 9/9
MP 2/2
状態:記憶喪失
スキルポイント6
攻撃 8
防御 5
速度 6
魔力 1
幸運 20
スキル:【捕食:Lv1】【言語理解:Lv1】【叡智:Lv1】【ステータス把握:Lv1】【スキル鑑定:Lv1】【索敵:Lv1】【泡:Lv1】
称号:【転生者】【異世界魚】【記憶喪失】【捕食者】【蟹の天敵】
……………………………………
ん? MPが増えてる! しかも今まで増えなかった魔力が増えてる!
よし、これはできるんじゃないか?
泡、泡、泡!
……あ、思い浮かんだところに泡が出てきた。
MPが【1/2】になった。
泡が膨らんでいく。へぇ、空気が中に入っているのか。
僕がすっぽり入るくらいの泡だ。
中に入れるのかな?
つついてみる。割れる気配はない。
僕は尾びれを動かし、中に入ろうとしたところ、入れた!
と思ったら、苦しい! 酸素プリーズ! 酸素、酸素!
思わず泡の中から飛び出す。
自分で作った泡で死ぬところだった。
僕があれだけ暴れて、さらに飛び出したのに、泡は消える様子はない。
それどころか、浮かび上がる様子もなく、ただそこに漂っている。
そして、少しして割れて消えた。
泡の中の空気が浮かんでいき、横穴の天井の窪みに溜まった。
……しばらくしたら水に溶けていくだろうな。
うん、使いにくい魔法(?)だ。
とりあえず、僕は横穴を、石蟹を食べながら進んでいく。
少し進んだところで、行き止まりだった。
と思ったら、通路が真上に続いている。
んー、物理には詳しくないんだが、これ、かなり上まで続いているよな。
なんで、あのため池から外に水が漏れないんだ?
水源が上になるのなら、あのため池から水が溢れ、洞窟は水浸しになる気がするんだけど。
でも、まぁ何か理由があるんだろうな。
この上下に続く水路には、石蟹の気配はない。
と思ったら……何かが近付いてくる?
……あ、石蟹が落ちてきた。
パクっ、ガリボリ、ゴクン。
【経験値1獲得】
【スキル:“捕食”の効果により経験値1獲得】
相変わらず硬いなぁ。
石蟹はこの上から落ちてきているのか。
ちょっと見に行ってみるか。
僕は意を決して、上がっていく。
途中で、また石蟹が落ちてきた。
パクっ、ガリボリ、ゴクン。
【経験値1獲得】
【スキル:“捕食”の効果により経験値1獲得】
なんだろ、なんで落ちてくるんだろうか?
石蟹は横壁や天井にもはりつくことのできる蟹だ。
なのに、おちてくるのはなんで?
あ、また落ちてきた。
パクっ、ゴリゴリ……ぺっ
石蟹だと思ったら、ただの小石だった。
さらに水路を上がっていく。
10メートルくらい上がっただろうか?
広い空間が見える。
それにつれ、僕の中の索敵スキルが壊れた。なんだ、気配はするんだけど、その数がまるでわからない。
まぁ、石蟹程度なら問題ないよな。
そう思って、その空間から顔を覗かせ、僕は絶叫した。
いや、声は相変わらずでないんだけど。
そこは、石蟹の巣……なんて生易しいものじゃなかった。
壁、天井、床、全てに石蟹がびっしりとついていた。
あ、多すぎて、押し出された石蟹が僕の横を落ちて行った。
……一体、ここはなんなんだ?
光る壁に石蟹がこびりついているので、薄暗いその部屋。
僕はその部屋の中央をゆっくりと進む。
目を……魚眼を凝らして奥を見ると、僕はそいつと目が合ってしまった。
とても巨大な、僕より大きな石蟹と!
いや、石蟹じゃない! 巨石の蟹。あれは岩蟹だ!
岩蟹は僕を見つけると、巨大な、僕の身体なんて楽々切り裂いてしまいそうな爪を持って僕に迫ってくる。
そして、僕は見た。反対側の爪、そこについた鱗を。
……殺されたのか、あのメスブラックバス。
僕はそう理解した。復讐しようなんて感情はない。
そもそも、彼女はもう僕とは何の関係もない。
僕は急いで引き返した。あの岩蟹の巨体ならこの通路には入ってこれない。
逃げるんだ!
自分の身体にそう命令して元来た水をひき返していく。
だが、後ろから岩蟹が迫ってきた。
うわ、あいつ、小さい石蟹を踏みつけながらこっちに迫ってくる。
お前の子供じゃないのかよ!?
あ、でも石蟹、背中は丈夫なのか。踏まれても平気そうにしている。
くっ、間に合ってくれ!
背後で岩蟹が爪を振り下ろそうとしている。魚眼なので微かに見える。
たのむ、間に合ってくれ!
チョキン!
あ、鱗を1枚持っていかれた。
HPが減るほどではないが、ぐっ……やられた。
って、もう一撃くる!
くそっ――
泡っ!
念じると、小さな泡が出てきた。
その泡は岩蟹の足元に現れ、岩蟹が微妙にバランスを崩した。
岩蟹の爪は僕の微かに上を通り過ぎ、その間に僕は穴の中へと入って行った。
暫く降りていき振り返ると、岩蟹が爪をこちらに突っ込んできていた。
でも、岩蟹はこちらに入る余裕はないようだ。
なんとか、僕は無事に生き延びた。