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果報を得るまでの寝る時間はとても長く――

 爺さんは僕のことをじろじろと、まるで珍しい生き物を見るかのような目で見てきた。

 ……確かに喋る岩蟹というのは少し珍しいかもしれない。


「なんで蟹が。人にしか入れないようにできておるはずじゃが」

「ガイアの波動とか、スフィンクスのなぞなぞとかか?」

「うむ、ガイアの波動とは、我々の元いた世界の波動のことを言う。そして、スフィンクスのなぞなぞで知性を知る。知性を持った生物は我々の世界には人しかいないからな」


 その言葉を当然俺は聞き逃さなかった。

 我々の世界……この爺さんはおそらくこことは違う世界から来た。

 しかも、スフィンクスとあのなぞなぞ。間違いない。


「爺さんも、僕と同じ世界の出身なのか?」

「爺さんはやめんか。ワシの名前はアトラスだ」


 爺さんはそう言って僕を見下してきた。


「じゃあ、僕の名前はヴィンデだ。アトラスは僕と同じ世界の出身なのか?」

「まぁ、主の波動を機械が読み取ったということはそうなのじゃろ。しかし、ガイアに喋る蟹がいたとは……これは驚きだ」

「一応、もともとは人間なんだよ。神のせいで魚に姿を変えられ、変身スキルで蟹の姿になってるんだ」


 僕が説明すると、アトラスは「なるほど……神か……」と呟いた。


「詳しく話せ。何か力になれることがあるじゃろ」


 話をする前に、僕が記憶喪失であること。日本人であること。日本の場所などを説明した。

 アトラスが用意した万年筆と紙の上に、簡単な世界地図を書き、日本の場所を説明。

 アトラスは「なんと、世界がこのような姿になっておったとは」と驚き言った。

 一体、いつの時代の人間だよ。


「ヴィンデといったな。ここに何があるか知らぬか?」


 アトラスが指さしたのは、大西洋のど真ん中。僕が書いた世界地図の左端だった。

 ここに何があるって、海だろ?


「我々の大陸はここにあった」

「は? 大陸なんてないって。まさか、ムー大陸とか言うんじゃないだろうな?」

「ムー大陸があったのはここじゃ」


 アトラスが示したのはアメリカ大陸とオーストラリア大陸の間だった。

 いや、そこも海しかないし。


「歴史の闇に消えたのか。それも仕方のないことじゃ。人類が生き残り、繁栄してくれたことだけでも良しとするか」

「いや、勝手に納得しないでくれよ。じゃあ、そこに何があるんだよ」

「我々の大陸があったと言っておろう。アトランティス、かつてそう呼ばれた大陸。神々の怒りに触れて滅びた大陸の名じゃ」

「アトランティスだって!?」


 僕は思わず叫んでいた。


「なんじゃ、知っておるのか?」

「オリハルコン! オリハルコンがあった大陸だろ?」

「……オリハル……おぉ、オレイカルトスのことか?」

「たぶんそれ。神々の金属」

「うむ、あるぞ」


 うわ、マジかぁ。

 後で見せてもらおう。

 幻の金属か。

 実は銅合金だとか、銅そのものだとかいう話もあるけど、やっぱりどこかで幻の金属であってほしいと思う。

 何しろ、大昔に滅んでしまった大陸のお宝だからな。 


「ってあれ? でもアトランティスが滅んだのって遥か昔だろ?」

「うむ、もう3000年以上も前のことじゃ」

「……いやいや、3000年以上も前に海の底に沈んだはずのアトランティス大陸の都市がなんでここにあって、しかも生き残りがい…………え」


 僕はそこでようやく気付いた。

 アトラスのステータスが全く見えない。


「まさか、幽霊?」

「確かに、幽霊と言えなくはないかもしれないの」

「うわぁぁぁぁっ! 成仏してください、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」

「……落ち着かんかい。なんの呪文かしらないが、ワシは幽霊であって幽霊ではない。ホログラムと呼ばれる我が国独特の技術だ」

「……ホログラム……もしかして立体映像?」

「なんじゃ、知っておるのか? まぁ、3000年以上あればこのくらいできておるかもしれんの」


 いや、3000年前から立体映像の技術が存在したことのほうが驚きだ。

 しかも、ここまでの再現度、今の日本でも無理だぞ。

 じゃあ、本物のアトラスは別の場所から……いや、幽霊のようなものとか言ってたし。


「もしかして、頭の中をデータ化して、人工知能として生きながらえている……とか?」

「おぉ、やはり人類はそこまで我々の技術を――」

「再現できてないよ! そんなSF技術!」


 アトランティス半端ねぇぇっ!

 そりゃ神々の怒りに触れて滅ぼされるわ。

 というか、本当は神々の怒りではなく、自分達の技術によって滅びたんじゃないか?


「さて、ヴィンデよ。先ほども言った通り、3000年前にこの大陸は滅び、この世界に堕ちた。アトランティスの民はその後近くの大陸に移住し、ほぼ全ての技術は破棄された。ただ、自分達のように世界から世界に堕ちた者に何かを残すためにこの施設だけは残されたそうだ」


 それが神々の怒りにこれ以上触れないためだと、そしてせめてもの神々への反抗だとアトラスは語った。

 そして、それ以上は何もなかった。

 つまり――


「ワシはただ、誰かが来るのを待ち続けた。3000年もの長い間……な」


 そして、アトラスは僕に向かってこう言った。

 見つけてくれてありがとう、と。

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