生まれたときはブラックバス、育って鮫、最後にブラックドラゴン、これなーに?
クリーンフィッシュが多くいるビル群。
もしかしたら、ここがアロエの故郷なのかもしれない。
だから、僕が途中で引き返そうとしたとき、アロエは僕をここに案内しようと前に進もうとしたのかもしれない。
かもしれないばかりだけど、そんな気がする。
それにしても、この海底都市って、本当に凄いよな。
誰がなんのために作ったんだろ。
建物の中にはさすがに僕のサイズでは入れないが、窓から覗き込むと、中の様子がはっきりと見えた。
凄いな、本棚だらけだ。全部金属製の本棚なんだろうが、本は見当たらない。
全て朽ち果てたのだろうな。
ん? あそこに何か光るものが見える。
宝石?
アロエ、悪いんだけど、あの板、持ってこれるか?
僕はそう尋ねた。
アロエは何も言わずに建物の中に入っていく。
……雑用に使って怒ってないよね?
ステータスを見るけど、忠誠度は下がっていない。よかった。
アロエは板を背に乗せるとこちらに戻ってきた。
……これは何だ?
ほとんど泥に覆われている。
僕は背中を向け、鮫肌でこすりつける。
……うっ、腹を上に向けて身体をゆすると気分が悪くなる。
身体を元の体勢に戻す。
すると、その板についていた泥がパラパラと落ちて、板が現れた。
って、これ、エメラルドじゃないか!?
エメラルド・タブレットか……うわぁ、凄いな。
文字……んー、なんだ?
文字なのは文字なんだが、なんだろう、完全に知らない文字でない気がする。
どことなく、アルファベットと近い文字が多い。
……もしかして、ラテン語かなにか?
あと、地図のようなものが見える。
この海底都市の地図なのだろうな。
言語把握スキルのおかげで、書かれている文字を読むことはできたが、書かれている情報はとても少ない。
ただ、地図の下にこう書かれていただけだ。
「アクロポリタン」
町の名前なのかな。
そして、その地図の一部に丸印がつけられている。
なんだろ? 町の中央……って、この場所じゃないか。
んー、何もないよな。
……よし、アロエ、協力してくれ。
僕はそう言い、泡を展開。
「落穴! 落穴! 落穴!」
長年かけてここに砂が積もったのだとしたら、この下に何かあるんじゃないか?
そう思って、穴を掘っていく。
今更だけど、消えた砂はどこにいくんだろ?
なんて思いながら砂を消していく。
MPが切れたらヒール&献身のコンボで回復し、さらに掘っていく。
そして――周囲の砂が全部消えたとき、そこにあったのは――地下へ続く階段だった。
しかし、僕の大きさでは入れないが、扉のようなものが見える。
んー、まぁ、このあたりなら安全か。
僕はアロエに仲間と一緒に歓談でもしてくるように言って、アロエがいなくなったところで、ブラックリトルシャークに変身。
階段を降りていく、扉を見た。
金属製の扉。凄いな、全然錆びていない上、変形一つしていない。
僕は歯でその扉の取っ手を下ろしながら押した。
通路がさらに奥へ伸びている。
奥はまだ続いているようだ。
暫く進んでみる。
【ガイアの波動を検知】
ん? 機械音声?
声が聞こえたと思うと、床下から気泡が涌き出てきた。
と同時に、通路に空気が出てきた。
ウソ……だろ!?
僕は水が完全にひく前に、と全力で泳ぐ。
泳いで泳いで泳いで……ついに水が干上がってしまった。
通路の上にあるランプから光が溢れ、途方に暮れる僕を照らし出す。
……はぁ。
肺呼吸があるので、窒息死することはないが、それでも動くことができない。
……………………………………
名前:ヴィンデ
種族:ロッシュクラブ
レベル:1
HP 52/52
MP 18/18
状態:記憶喪失 変身
スキルポイント24
攻撃 42
防御 90
速度 38
魔力 29
幸運 27
経験値補正+10%
スキル:【捕食:Lv2】【言語理解:Lv1】【叡智:Lv2】【ステータス把握:Lv3】【スキル鑑定:Lv3】【索敵:Lv2】【泡:Lv3】【献身:Lv1】【硬い鱗:Lv1】【鋭い歯:Lv2】【肺呼吸:Lv1】【土魔法:Lv3】【鮫肌:Lv2】【HP自動回復:Lv2】【忠義:Lv2】【毒攻撃:Lv2】【回復魔法:Lv3】【マッピング:Lv2】【嗅覚強化:Lv1】【変身:Lv2】【擬態:Lv2】【良眠:Lv1】【テイム:Lv1】【君主:Lv2】【称号鑑定:Lv3】【挟力UP:Lv1】【悪食:Lv1】
称号:【転生者】【異世界魚】【記憶喪失】【捕食者】【蟹の天敵】【子持ち】【子沢山】【スキル収集家見習い】【魔術師】【出世魚】【称号収集家見習い】【ハートブレイク】【ネームドモンスター】【毒持ち】【癒し手】【迷宮ウォーカー】【魔王を討伐せし者】【スキル収集家】【共生】【支配者】【称号収集家】【貝の天敵】
……………………………………
とりあえず、ロッシュクラブに変身するしかなかった。
ピエールクラブでは取っ手に手が……いや、爪が届かない。
戻ろうか、とも思ったが、やっぱり奥が気になる。
水が引いたのは、罠、というよりかは人がここに来ることを想定してのものではないだろうか?
なぜなら、僕は全然苦しくない。つまり、ここの空気は毒がないどころか、きっちり酸素があるということだ。
とりあえず、進めるところまで進んでみよう。
そう思い、さらに通路の奥に進む。
扉を見つけたので開けようとしたのだが、ん、爪で開けるのって難しいな。
僕は必死にジャンプし爪を取っ手の上に置いて体当たりするように扉を開けた。
中には金銀財宝の山が。
んー、微妙。
猫に小判、蟹に金銀財宝だ。人間の時なら大はしゃぎだっただろうが、僕には価値はない。
この部屋は本当に金銀財宝だけみたいだから、扉を閉めて奥に行く。
途中であった扉を開けてみると、今更ながらこの施設の凄さを理解した。
例えば次の部屋にはベッドがあったんだが、ベッドの布も、その横に置かれていた本も、腐敗や風化することなく残っていた。
完全に密閉されていたんだろうな。
もしかしたら、この部屋は僕がこの施設に入るまで真空状態だったのかもしれない。
本の中身が気になったが、爪で本を持ったら、下手したら本を切り刻んでしまうだろうから。
さらに奥へと進む。
そして、一番奥に、一番立派な扉があった。
だが、その扉には取っ手やノブどころか、鍵穴もなければ、カードキーを差し込む場所もない。
当然、実は引き戸だった、とかそういうオチもなさそうだ。
なら、どうやって入ればいいのか?
そう思ったら僕にレーザーが降りかかる。
え? 攻撃?
でも、痛くない……あれ?
【ガイアの波動を検知。スフィンクス起動。次の質問に答えてください】
スフィンクス? スフィンクスってピラミッドの横にあるあれみたいだな。
【生まれたときは4本足だが、2本足に成長し、最後に3本足になる動物は何?】
……マジでスフィンクスだ。
スフィンクスの有名な謎解き。
「答えは人だ。赤ん坊の時は4本足、成長して2本足で立つようになり、年をとって杖を使うようになって3本足だ」
僕がそう答えた。
人であるはずの僕は生まれ変わって0本足、蟹になって10本足、この後4本足になって、最後に2本足の人間になる予定だけどね。
【正解。知性を確認。扉が開きます】
一体、なんなんだ?
なんでスフィンクスの謎解きが異世界の海底都市に?
もしかして、ピラミッドに繋がっている、とかないよな?
そう思いながら、慎重に奥へと入った。
部屋の中は暗かった。
んー、怖いな。引き返そうかな。
と思った直後、後ろの扉が閉まり、完全な闇に包まれる。
「しまった、孔明の罠かっ!」
とりあえずそう叫んでしまう僕は、本当は余裕があるんじゃないだろうか?
いや、パニックになっているだけなんだ。
ていうか、本当に何も見えない。
スキルポイントを使って光魔法とか取得しようか……そう考えたときだった。
「よく来た、同じガイアの地より堕ちた同胞よ!」
声が聞こえた。さっきの機械音声ではない、抑揚のあるはっきりとした声。
……人間がいるのか?
その時、部屋の奥にスポットライトの光が現れ、そこにいた人を照らし出す。
爺さんだ。人間の爺さんがそこにいた。
「貴君は我々の仲間だ。アクロポリスの民を代表し、貴君を歓迎しよう!」
そう言うと同時に、僕をスポットライトの光が照らし、
「……え? 蟹?」
「蟹で悪かったな」
僕は悪態をついてその爺さんを見た。




