アロエがいっぱい
その日は朝から雨だった。
海に来てから何度か雨に降られた。海の中にいるから関係ないと思うかもしれないが、そんなことはない。
水温や塩分濃度、酸素濃度が変わる雨という気象は、僕たち魚にとって多大な影響を及ぼす。
ということで、お腹が空いたので今日も狩りを行います。
と、いつもと変わらない僕。
アロエはメディシンフィッシュに進化しても、変わらずに僕の腹にくっついていた。
背びれがまるで吸盤みたいになっているアロエにとって、僕の腹にくっついて移動するのは楽なんだろうな。
……こうして思うと、僕はアロエの乗り物扱いをされている気がするが。
まぁ、僕の腹の下にいるので、乗ってはいないけどね。
そんなことを思いながら、獲物を探す僕たち。
雨のせいで薄暗いといえば薄暗いが、それでも索敵スキルや嗅覚は生きているし、何より夜よりは明るい。
そのため、気にせずに進む。
外洋にはなかなか出て行かない僕だけど、遠浅の海をずっと進んでいた。
そういえば、小学校か中学校かで、大陸棚ってのを習った気がする。
んー、小学校や中学校の名前は覚えていないのに、知識はきっちり残っているんだな。
とりあえず、深くなり過ぎない場所をずっと進んでいく。
すると――妙なものを見つけた。
…………ウソだろ、アトランティスかよ。
海に沈んだ都市がそこにあった。
索敵スキルを使うと、白い気配がいっぱいいる。
海底人でもいるのか、それとも魚の巣になっているのかはわからない。
ただ、ただの海底都市ではない。
ビルのような建造物――高さは5階建てが最高で、日本の建築技術までは届いていないが、それでもかなり精巧につくられている。
何より、海に沈んでも崩れ落ちていないビルってどういうことだ?
他にも多くの建造物がある。
……あれ? この建物、もしかして。
僕はそのうちの一つの表面を、己の鮫肌でこすった。
海草が落ち、そこにあったのは、きれいな金属だった。
――鉄……なわけないよな。鉄なら錆びてる。なら、これは……なんの金属だ?
それに、金属製の建物って簡単に作れるものじゃないだろ。
しかも、これだけ海の中に浸かっているのに錆びるどころか新品みたいに輝いてる。
――もしかして、貴重な金属なんじゃないだろうか?
人になったら、ブラックシャークに変身してここの金属を採掘しにくるのも悪くないかもしれないな。
これが本当に貴重な金属だったら、の話だが。
あぁ、でも貴重な遺跡だよな。だとしたら壊すのはまずいのかな。
そんなことを思っていたら、白い気配が近付いてきた。
その気配に気付いたのか、アロエが僕から離れ、その気配のほうに泳いでいく。
アロエ、危ないだろ! 僕にとっては弱い敵だろうと、アロエにとっては……あれ?
【クリーンフィッシュ:HP 15/15】
クリーンフィッシュ? 前のアロエと同じ、平べったい魚。
へぇ、アロエ以外のクリーンフィッシュは初めて見たな。
と思ったら、さらに白い気配が。
そして、それらは全員クリーンフィッシュだった。
おぉ、凄い、アロエがいっぱいいるみたいだ。
そう思ったら、クリーンフィッシュの一部が輝き、その姿を変えていく。
そして、気付けば3匹のメディシンフィッシュがいた。
【メディシンフィッシュ:HP 39/39】
3匹が進化? なぜ、このタイミングで?
……あぁ、わかった。
今まで、ここにいたクリーンフィッシュは、進化したら何になるのかわからなかったんだ。
それが、アロエを見たことで、自分達の進化先を理解したということか。
ん? クリーンフィッシュとメディシンフィッシュが僕の周りに集まってきた。
てか、色が全員青色になった。
待て、お前等、全員僕と共生するつもりかっ!
無理だぞ、僕はアロエだけで手いっぱいで――あ、マッサージ気持ちいい。
天国だ。
そういえば、アロエもよくマッサージしてくれるなぁ。
それが何倍にもなって、僕の全身におしよせてくる。
うぅ、身体全体が活性化している。
僕の身体が鮫肌なのにクリーンフィッシュ達が傷つかないのは、鮫肌の効果が「物理攻撃反射」だからだろう。
攻撃でないならダメージが行かない。
ノーチェに押されたり、フォーカスに頭を撫でられた時にもダメージを与えてしまっていたが、あれは、二人の体温が高くて火傷しそうになってしまったため、物理攻撃と判断してしまったんだろうな。
あくまでも僕の予想だけど。
あぁ、マッサージ気持ちいいな。
うっ、全身が活性化するあまり、お腹がゆるくなってきた。
やば、それ以上刺激しないで……じゃないと……
……あれ?
さっきまでマッサージしていたクリーンフィッシュ達が僕の後ろに……というかそこって。
あぁ、マッサージにはそういう意味があったのね。
僕の知る限り、クリーンフィッシュが食べるのは3つ。
僕の食べ残し。僕の身体についた寄生虫。そして、僕の排泄物――
お前等全員どっかいきやがれーー!!
アロエ以外のクリーンフィッシュ達と強制的に共生解除し、僕は一人でゆっくり用を足せる場所を探すために泳いでいった。




