今日から君の名前は――
海の底を彷徨う僕とボーちゃん。
エサの確保をしながら、僕とボーちゃんは一見無意味とも思える行動をしていた。
つまり、ボーちゃんの献身によるMP回復と、僕の泡&回復魔法の無限コンボを。
ボーちゃんが献身を使い、ボーちゃんのHPを4消費して、僕のMPが4回復したら、僕がすかさず泡を出して、ヒールでボーちゃんを回復。
そして、再び献身を使い、ボーチャンのHPを4消費して、僕のMPが4回復したら、泡を出してヒールでボーちゃんを回復。
ルーチンワーク。決められた作業の繰り返し。
意味がないと思われる行動だが、きっちり意味はある。
しばらくして、MPの回復速度が僅かだが上がった。ボーちゃんの献身スキルのレベルが上がったのだろう。
そう、僕がしているのは、スキルのレベル上げ。
ボーちゃんがMP回復してくれないときは、MPはいざというときのためにとっておきたかった。
だが、今は違う。MPを気兼ねなく使える。
1時間続けても回復魔法も泡もレベルが上がらなかった。だが、ボーちゃんの献身スキルのレベルが上がったと思うので、上出来と言えるだろう。
ただ、完璧とも思えるこのプランにも一個だけ欠点があった。
ひどくお腹が空くんだ。
1時間しただけで、6時間走り回ったのと同じくらい腹が減る。
僕は索敵スキルと嗅覚を頼りに獲物を探しに海に出た。
索敵スキルでも周囲の獲物の気配はわかるが、怪我をした獲物がいたら、その居場所は1キロ先でもわかる。
それほどまでに嗅覚強化のスキルは使えた。
二つのスキルのおかげで、最近は獲物に困ることはない。
まぁ、僕の身体は大きいので食べる量も多いのだが、それでも困らない。
とりあえず、この日は大きなシャコ貝と、タイやカジキのような魚を食べた。
ボーちゃんも僕の食べこぼしを美味しそうに食べている。
その後も、大きめの魚を見つけて顔を一噛みしたころには、ボーちゃんもお腹がいっぱいになっているようで、僕の食べ残しを食べなくなった。
そのため、絶命させた魚を砂地の上に置き、再び、回復魔法と献身のコンボをすることにした。
【回復魔法のレベルが3に上がった】
何度目になるだろうか? ようやくレベルが3に上がった。
そして、覚えた魔法の名前は、「キュア」という魔法。
もしかして、いや、もしかしなくてもあの魔法だろ!
僕はそう確信し、泡を出した。
「いくぞ、ボーちゃん。キュア!」
そう叫びMPを5消費すると、ボーちゃんの全身を緑色の淡い光が包む。
そして、その光が消えたとき、僕はすかさずボーちゃんのステータスを確認した。
……………………………………
名前:****
種族:クリーンフィッシュ
レベル:10
忠誠度:87
HP 25/25
MP 7/7
状態:通常
スキルポイント4
……………………………………
成功した!
ボーちゃんの毒が消えている。
忠誠度も上がっている。
ふぅ、これで最初の目標は達成した。
これで完璧だ。
ただ、最近ボーちゃんのレベルが全く上がっていない。
もしかして、ボーちゃん、レベルが最大なのだろうか?
それと、名前。
名前がないのは寂しいな。
名前をボーちゃんにするように頼むか?
いや、ボーちゃんはニックネームのようなものだからな。
んー、クリーンフィッシュだから、クリーッシュ……? 延ばす位置が変わればどこかのアイスみたいだな。
なら、どうしよう?
あぁ、僕のネーミングセンスのなさは本当に困る。
ノーチェは花の名前を僕にくれた。
なら、僕もノーチェに倣って、植物の名前を付けたらどうだ?
よし、癒しの植物……決まった。
泡を出し、大事なことなので声に出して告げる。
「ボーちゃん、君の名前は今日から、アロエだ! アロエ、いいか? いやなら別のを考えるけど」
僕はそう訊ねた。
すると――
【称号:名付け親を取得した】
【称号:良き主を取得した】
【君主のレベルが2に上がった】
おぉ、なんか二つも称号が増えた。HPが5も増えてる。
君主のレベルも上がった。
ボーちゃんのステータスを確認する。
……………………………………
名前:アロエ
種族:クリーンフィッシュ
レベル:10
忠誠度:100
HP 26/26
MP 8/8
状態:通常
スキルポイント4
……………………………………
忠誠度が100まで一気に上がった。良き主の取得条件がこれなのか?
アロエという名前もボーちゃん、改めアロエは気に入ってくれたようだ。
よかったよかった。うん、我ながらいい名前だよな。
いい名前……だよな?
いや、微妙か。
むしろ、第二候補、毒が治ったお祝いも込めて考えた「ドクダミ」にしたらよかったかな。
あれ? 待てよ、アロエの忠誠度が100になったことで僕の君主のレベルが上がったのなら。
確か、忠義のレベルを上げる条件って、僕のノーチェへの忠誠度が100になることが条件なんじゃないのかな?
僕はノーチェのためなら命を捧げてもいいと思っていたんだが、愛と忠誠は違うのかな?
よし、念じてみよう。
念じる……念じる……僕は浮気は絶対にしません! あなただけを永遠に愛することを誓います!
んー、ダメか? まぁ、浮気しない宣言はあたりまえだしなぁ。
忠誠心を示す念……あ、あれか。
ノーチェのためなら、僕の恥ずかしい過去話! 子供のころに考えた僕の考えた最強のラスボスの設定を教えてもいいです!
【忠義のレベルが2に上がった】
おぉ! レベルが上がったぞ!
ということは、これでノーチェの君主レベルも2に上がっ……てどうなるの?
わからないな。
ま、でもいつかわかる日が来るかもな。
主人公は名前のセンスがないです。
でも、これはまだマシなほうかな。




