食べ物を求め彷徨うも……
僕がピエールクラブになった日は、プラージュクラブの巣で寝ることになった。
海の音を聞きながら寝る。水の中以外での初めての睡眠。
夜になり、穴からゆっくり外に出てみると、僕の目に映ったのは満天の星空と、流星群だった。
星々が空から降りては消えるその光景。
まるで、空に星が多すぎて、そのせいで零れ落ちている……そんな風に思う。
その光景に、複眼を輝かせた……まぁ、どういうわけか、蟹になって複眼になっているはずなのに視界は一つしか見えない。
ただし、その範囲はとても広い。脳内補正しているのかな?
おかげで、星空の大パノラマを人間以上に満喫できた。
流れ星と聞いて、日本人の9割以上が知るはずの伝承を思い出す。
つまりは願い事を3回言ったらいいと。
これだけながれぼしがあるんだ、一つくらい僕の願い事をかなえてくれるだろう。
「ノーチェとまた会えますように。ノーチェと結婚できますように。ノーチェと幸せな家庭を築けますように」
僕は爪を合わせて祈り、暫しその光景を見入った。
※※※
翌朝。僕のサバイバルクラブ二日目。
……サバイバルクラブというと、なんか学校の部活みたいで面白いよね?
でも、クラブは“crab”であって、“club”じゃないんだけどね。
僕は敵、もしくは獲物の気配を探りながら、海辺を進んでいた。
とりあえず、今の目標は動かない敵。フジツボ。
もしくは……うん、諦めよう……もしくは、フナムシだ。
ブラックバスの時、小さな虫を食べても経験値は得られなかったが、大きな虫なら経験値ももらえるだろう。
正直、ダンゴムシやフナムシは苦手なんだが、僕は蟹なんだ。
食べられるものは食べないと。
ん? ヤバい、強敵の気配。
僕が進もうとしている方角の砂の下に何かがいて、上がってきている。
僕は砂を掘って身体のほとんどを埋め、石に擬態した。
弱くなってしまった僕の唯一の身の守り方だ。
そして、それは砂の中から現れた。
甲羅の陰からこっそりその姿を見た。
巨大な虫……その名前は、
【エグジル:HP190/190】
全長3メートルはあろうかという虫。
そして、見た目はどう見ても……巨大なフナムシだ。
さて、ここでツッコミを入れよう。
どこのオー○だよっ!
砂の下に帰れ! ここはお前の住む世界じゃない!
僕の願いが通じたのか、エグジルは砂の中へと戻っていき、僕の索敵の範囲から消えた。
擬態を解除し、穴を見下ろす。
そこには闇が続いていて、どこまで続くかわからない。
しかも、穴のせいでこのあたりが崩れそうだ。
早く逃げるか。
うん、フナムシを食べるのは諦めて、今日はフジツボ探しをしよう。
僕は海岸を進む。
途中で、巨大鳥(トンビっぽい鳥)の襲撃、ガ○ラ(ウミガメっぽい亀)の襲撃などもあったが、なんとか見つけることができた。
フジツボの群生を。
フジツボって、富士山状の形をしているから、フジツボという名前だと聞いたことがある。
でもさ――
【マウントシェル:HP99/99】
でかすぎるだろ。
高さ5メートルはあるし、僕の大きさからしたら、その大きさはまさに巨大な山だ。
ブラックシャークなら食べれるだろうけど……
僕は爪でその硬い身体を叩いてみる。
うーん……一応、あれをやっておこうか。
MPを込めて、マウントシェルの秘孔をついた。
「お前はもう……死んでいる……」
5秒数えてみる。
何も起きない。
1分待つ。何も起きない。
……5分待っても何も起きない。
……もう一度MPを込めて攻撃を……って無駄か。
いやぁ、動かない相手だから、もしかしたら、って思ったけど。
でも、今の僕だと無理のようだ。
他に食べれるものはないだろうか?
そう思いながら、帰っていく。
途中でワカメを拾って、それを今夜の晩御飯にした。
明日は何か食べれそうなものを探せたらいいな。
※※※
夜になり、東の空から月がゆっくり昇ってくる。
そんな中、僕は星空を眺めた。
今日も満天の星空。
……そして、流れ落ちる星々。
昨日と同様、僕は祈った。
「弱い獲物! 食べ物! 経験値!」
ノーチェに会うのは、僕がブラックドラゴンになってからだ。




