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地上に届けるは己の覚悟

 翌朝。MPが全回復した僕。

 フォーカスに抱えられ……お姫様抱っこされて水の中に入ったアネモネの顔に、僕は泡を作った。


「凄いです、ヴィンデさん! 呼吸できています」


 アネモネの声が僕に届く。

 よし、これなら行ける。


 僕とフォーカスは頷きあい、通路を奥に進む。

 2分40秒くらい経過したころに、アネモネが息を止める。

 そして、泡を出して3分後、泡が割れたので、僕はすかさず泡を作り出す。

 その繰り返し。


 魔物達はあらかじめ通路から外に退場している。

 他の魔物に襲われる危険があるが、できるだけ広く通路を確保するためだ。

 なにより、カオ・エポラールが洞窟の出口付近にいたときに囮になってもらうという重大な役目を負っている。


 12個目の泡が割れたころ、僕たちは迷宮の出口にたどり着いた。

 索敵でもカオ・エポラールの気配はない。

 このまま水面に上がるだけだ。

 だが、ここからは慎重に上がっていく。

 僕の泡のおかげで、顔の気圧は一定に保たれているとはいえ、身体全体を纏わせるほどの泡はできていない。

 大丈夫、MPにはまだ余裕がある。

 ゆっくりと浮上する。


 14個目の泡を出したとき。


【泡のレベルが2に上がった】


 おぉ、レベルアップした。

 泡を一定数使うことが条件なのか。


 そして、その14個の泡が割れる前に――僕たちは海面にたどり着いた。


 泡は海面から出ると、3分を待たずに割れて消えた。


「……眩しい……とても懐かしい光」


 フォーカスの手の中で太陽光を浴び、アネモネは嬉しそうに言った。


「ありがとう、ヴィンデ。君のおかげだ。これからアネモネを陸地まで届けるが、あまり時間がない。俺に聞きたいことがあれば、なんでも聞け」


 時間がないって、俺との約束無視かよ。

 経験値上げを手伝ってくれるって言ったじゃないか。


 と言いたいが、まぁ、無事に逃がしてくれるならいいか。


「じゃあ、聞きたいが、なんで迷宮の奥のあの部屋だけ空気があったんだ?」

「あそこは、迷宮の最奥だからか、水が入ってこないようになっている。意識的に持ってきた水は持って入れるようだが、潮が満ちてもあそこが水に浸ることはない」


 つまり、何もわからないってことか。

 あ、でも、僕がこの世界で初めて入れられたため池。あそこも同じ理屈だったのかもしれないな。


「他に迷宮はあるのか?」

「迷宮は北の大陸の中央に真迷宮があり、他に俺の迷宮のような異常迷宮がある」

「異常?」

「あぁ、本来あるべきでない迷宮だ。世界の秩序に反する」


 それ、かなりやばいことじゃないのか?

 神様を敵に回す、みたいな。


 北の大陸の中央……もしかしたら、俺がいたのが真迷宮って奴なのかな。


 なんて思っていたら、陸が見えてきた。


「あそこが、私の住んでいた港町です」


 そこそこ小さな村で、漁船も見える。

 のどかそうな村だ。


「って、なんでアザラシの格好してるんですか!」


 気が付けば、フォーカスはアザラシの毛皮を纏っていた。

 え? もしかして、多摩川のたまちゃんみたいにして警戒心を無くすつもり?


 無理だよ、あんたでかすぎるもん。


「俺は長い間毛皮を脱いでいることができないんだ」

「あぁ、時間がないってもしかしてそのこと?」

「いや、そうではない」


 じゃあどういうことなんだよ。

 まぁ、いいや。


「とりあえず、彼女は村に直接届けないで村から少し離れた海岸に届けよう。アザラシと鮫が届けたら村人が警戒するからさ」


 エルフの村の経験上言っている。また矢で射られるのは勘弁だ。


「それもそうだな」


 フォーカスも同意してくれたので、僕たちは少し離れた場所に移動する。


 だが……岩礁だ!

 浅瀬で岩礁だ!


「フォーカス! 僕はこの先に行けない! 僕のことはいいから先に行け!」


 一度、このセリフを言ってみたかった。

 使う場面は全然違うけど。


「うむ、わかった」


 使う場面が違うから、フォーカスも淡々と対応し、海岸へと上がって行った。

 そして、フォーカスとアネモネ、二人が何かを話している。


 いいなぁ、大人の恋だろうか。

「俺はいつまでも君を待ってる」みたいなことをフォーカスは言うのかな?

 でも、あのアザラシ魔王、ツンデレだからな。


 しばらくして、アネモネが村の方へ歩いていき、フォーカスが戻ってきた。


「もういいぞ」

「ああ、お疲れさん」

「お前に言っているんじゃない」


 ……なんで不機嫌なんだよ!

 ていうか、僕に言っているんじゃなかったら、誰に言ってるんだ?


「覚悟はできているようですね」


 女の声が、聞こえた……。

 僕は声の方角、頭上を見上げて……それを見た。

 空を飛ぶ――人?


 人じゃない……直感的にだが、僕はそう思った。


 竜?


 大きな白い翼を持った白い髪の、白い服の女性が飛んでいた。

 ついでに、パンツも白い。


【アルモニー:HP 900000000/900000000】


 ……は?

 えっと、わかりやすいんだよ?

 わかりやすいんだけどさ。

 いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん、いっせんまん……


 おく……きゅうおく。


 HP9億。

 なんだ、その数字。

 バグか?

 チートか?


「あぁ、覚悟はできている。待ってくれてありがとう」

「……私は魔王ですが、調和を望む者です。人が人の世に戻ることを妨げるものはありません」


 なんだ?

 知り合いか?


「これより、フォーカスの処刑を執り行います」

「な、何を言ってるんだよ!」


 僕は思わず叫んでいた。

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