三つの魂アイテム
「開いたな」
こんな時だっていうのに、サイモンは淡々と扉を開けて、中へと入る。
アダマンゴーレムがゆっくり突進してくる中、僕たちも奥の部屋に行く。
ノーチェが扉を閉じ、内側から鍵をかけた。
「………………」
暫く待っても、アダマンゴーレムが扉に体当たりすることもなければ、扉を開けようとすることもない。
どうやら、この扉には手を出さないようになっているんだろう。それが命令されたものかどうかはわからないけど。
「ふぅ、とりあえず一息つけるね」
「そうですね――ところで、ここはなんなのでしょうか?」
ノーチェが、僕をテーブルの上に置いて辺りを見回す。
僕も同じように周囲を見るが、そこは宝物庫というよりはまるで――
「実験室みたいだ」
様々な器材や薬品、金属類がある。
薬品は……ダメだな、ほとんど腐っていて使い物になるものはない。
サイモンは既に本棚にあった本を読み始めていた。
「サイモン、それは何が書いてあるんだ?」
「下らん実験内容だ。ゴーレムを作るための方法が書かれている」
「じゃあ、ゴーレムを止める方法とか書かれていないのか?」
「術者の命令を聞くようにできている。止める方法は術者を連れてくるしかないだろう」
そう言って、サイモンは部屋の隅を見た。つられて僕もそっちを見て、思わず呻いてしまう。
なぜなら、そこにあったのは椅子に座っている骸骨だったから。
「ネクロマンサーのようなスキルは入手できないか?」
「少なくとも僕たちが持っているスキルポイントじゃ無理だよ」
「だろうな……手前の扉を開けるための操作盤みたいなものがあればいいのだが――」
そう言ってサイモンは周囲を捜しつつ、何かを見つけて懐に入れた。
「……サイモン、何を袋に入れたんだ」
「気にするな。ただの金目の物だ」
「……あ、そうか」
この状況じゃなければふざけるなと罵りたいが、そういうことを言い争うのは体力的にもつらい。
魂探知のスキルを頼りに、僕は僕が求めるものを探すことにした。
「魂探知」
魔法を唱える。
やっぱりな。
魂探知によると、僕を成長させるためのアイテムのうちひとつは、あの骸骨が身に付けているらしい。
後回しにしよう。
先に、残りの二個を見つけるとするか。
おかしいな、ソウルサーチによるとここに落ちているはずなのに。
何もない。
「どうしたんですか? ヴィンデさん」
「ノーチェ、ここにアイテムがあるはずなんだけど、何もないんだよ」
「……ちょっと待ってください、ここに何か小さな傷があります」
傷?
言われてみると、床に何かを擦ったような小さな傷がある。
もしかして――僕は爪を床の隙間に入れた。あった、この手応えだ。
床が持ち上がる。
「うわっ、これは」
「凄いです、ヴィンデさん」
「これは中々だな」
僕とノーチェが驚き、いつの間にか僕の後ろに立っているサイモンが頷いた。
そこにあったのは、金塊だったから。十キロ分はあるんじゃないだろうか?
「とりあえず、これは僕が預かっておくよ。アイテムBOXがあるからさ」
そう言ってアイテムBOXに金塊を収納していく。
そして、金塊の下にそれがあった。
「ハンマー?」
金属製のハンマーだ。
「アダマンタイト製のハンマーだな」
サイモンが説明する。
これが魂アイテムか。
ぐぅ、このまま食べるのはきついな。特に僕の小さな体だと。
なにしろ、ハンマーは僕より大きいんだから。
「仕方ない」
僕はそのハンマーを上に投げると、変身スキルを使って、ジャイアントファイヤーサラマンダーに退化し、落ちてくるハンマーを一口で飲み込んだ。
無機物を食べるのはやっぱりつらい。
【魂食い効果により、スキル:強鍛冶を取得した】
【称号:名匠を取得した】
【スキル:銘入れを取得した】
鍛冶か――ちょっとこの状況から抜け出すための方法には向いていないな。
まぁ、称号も手に入ったから悪くは何だけど。
そして、元の姿に戻る。
うー、まだ胃もたれがする。
「腹が減っていたのか?」
「違うよ。僕は魂の篭っているアイテムを食べるとスキルを覚えられるんだ。いまは強鍛冶ってスキルを入手できた……ふぅ」
本当は説明する気はなかったんだけど、変身後、元に戻る時に来るHP減少による倦怠感のせいでつい口が滑ってしまった。
ノーチェにヒールを掛けてもらおうかと思ったけれど、その前に残りの魂アイテムを探してしまおう。
そして、もうひとつの魂アイテムはすぐに見つかった。
テーブルの引き出しの中にあった。
「首輪?」
「ほう、これは古いが隷属の首輪だな」
「隷属の首輪って?」
「奴隷が首につける首輪のことだ。しかもこのタイプは、主人に逆らうと激痛が走るように設定されている。いまは国際法で禁止されている逸品だ」
サイモンは僕から隷属の首輪を取り上げると、そこについていたタグを見た。
そして、そのタグを引きちぎる。
「あ、サイモン。魂アイテムはそのタグのほうだから――」
「そうか」
サイモンはそう呟くと、タグを指ではじいた。そしてそれはまっすぐ僕の口の中に入る。
【魂食い効果により、スキル:解放を取得した】
ん? これはどういうスキルなんだろ。
スキルの効果を調べると、これは面白いスキルだということが判明した。
呪いや契約、様々なものから対象を解放するためのスキルらしい。
これを使えば、扉を開けて自分を解放することはできないかな?
と思ったが、Lv1では、低級の地縛霊を楔から解放し、浮遊霊へとすることしかできないらしい。
霊を認識することができない僕には使い道がなさそうだ。残念。
「最後のひとつか。それにしても、宝物庫って割にお宝が少ないよね。金塊だけだし。まぁ、僕は鍛冶系のスキルと解放っていう使い道が微妙なスキルが手に入ったから嬉しいけど」
「いや、宝はあっただろう」
「もしかして、ここまで来るための冒険、隣にいる仲間が最高の宝だ――みたいなこと言わないよな」
僕がそう言うと、サイモンはなにも言わずに冷たい目で僕を見てきた。
「ヴィンデさん、それは素晴らしい宝物だと思います」
ノーチェが、僕を慰めるでもなく本心からそう言ってきたが、それが逆に虚しい。
「アダマンゴーレム。あれだけのアダマンタイトがあれば、人生を十回遊んでも釣りがくる莫大な富が手に入る」
「つまり、最強の守護者が、最高の宝物ってわけか。洒落が効いてるな」
さてと、最後のアイテムを食べるとするか。
死体を調べるのはあまり気が進まないんだけど。
骸骨をじっと見つめる。
「リッチになって襲って来たりしないよな」
「それならそのほうが都合がいい。リッチは低級のスケルトンと違い生前の知能が残っているからな。アダマンゴーレムへの命令術式を破棄させることも可能だ」
サイモンはそう言って、骸骨を乱暴に調べ始めた。
こいつ、本当に聖職者なのかよ。
「ヴィンデ、お前の捜しているのはこれか? 魔力が込められている」
そう言ってサイモンが僕に見せてきたのは、青銅の指輪だった。
うん、魂探知でも確かにその指輪が魂アイテムだ。
「サイモン、それを僕に――」
「――そうだな、条件がある。この指輪に貴様がさっき覚えた解放スキルを使え」
「え? なんで?」
「いいから使え」
…………?
どういう理由かわからないけど、僕は解放スキルを使ってみた。
使ってみたはいいけれど、別段何かが起こった気はしない。
「ふん」
サイモンは鼻を鳴らすと、僕に向かって指輪を投げてきた。
何がしたいんだよ、こいつは。




