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サイモンのステータス

 アダマンゴーレムとの戦いは、六時間にも及んでいた。

 僕の針攻撃も体当たりも魔法も通用しない。その力は強大で、土壁アースウォールを使ってゴーレムを閉じ込めることに成功しても簡単に砕いてしまう。クモの糸を使っても簡単に引きちぎってしまう。

 せめて鍵だけでも奪い取ろうと、ゴーレムの首にかかった紐を切ろうとするが、その紐もアダマンタイトを特別な加工で組み上げた金属紐で切り離すことができない。しかも鍵を奪おうとすると、ゴーレムが本気になって殴り掛かってくる。

 鍵が溶けるのも覚悟してブレス攻撃を使ってもダメージを与えられないどころか、鍵が溶けることもない。

 唯一の救いは、その速度と部屋の広さ。

 とても遅いその動き。部屋の端から端に移動するのに三分はかかる。

 そのため、僕たちは攻撃をしなくても歩き続けるだけで敵の攻撃圏外にいることができる。

 しかし、歩き続けるにも限度がある。


「サイモンっ! 扉を開けることはできないのかっ!?」

「調べているが、やはり無理のようだ。この扉もアダマンタイトでできている。壊すことはできないな。これを壊せるくらいならゴーレムを倒したほうが早い」

「倒したらって、無理だから扉を開けろって言ったんだろうが」


 サイモンの剣も既にボロボロになって使い物にならなくなっている。

 このままじゃ――とその時だ。僕の高度がだんだん下がってきた。

 空を飛ぶ力がなくなってきた。

 そんな僕の体に、ノーチェが手を伸ばす。


「ヴィンデさんは少し休んでください」

「そんな――ノーチェだって歩きっぱなしだろ」

「大丈夫ですよ。森の中よりも歩きやすいですから」


 絶対に無理しているだろう。

 にもかかわらず、笑顔で僕を抱えて歩いてくれる。

 本当なら、彼女に甘えずに僕も自分で歩くべきなのだろうが、彼女が僕のために作ってくれたこの時間。

 僕は僕ができること――考えることをするべきだ。


 いまのスキルでできることは何もない。

 勝とうと思えば、あの吸血鬼を倒した時の灰を食べれば、一気に経験値が手に入り、レベルアップできる。

 それで新たにこの窮地を乗り越えるスキルを身に付ければ――だが、少し舐めただけで僕の意識は一気に持っていかれそうになった。

 それを一気に食べるとなると、いったいどうなることか。


 くそっ、リベルテなら鍵穴から逃げ出せるのに。


 ゴーレムが持っている鍵が大きいだけあって、鍵穴もそうとうデカイ。

 スライムならば鍵穴に入って逃げ出すことも容易だ。しかし、僕はスライムに変身することができない。

 命の燃焼によって、現在HPが800ほど減っている。スライムに変身すれば、スキルや称号によるHP補正があってもHPが〇を下回り、変身後すぐに死ぬ恐れがある。

 そもそも、僕ひとりが鍵穴に入ったところで鍵を開けることはできない。

 鍵開けスキルなんて持っていない。


【ピッキングを取得するにはスキルポイントが足りません】


 知ってるよっ! ピッキングを入手するにはスキルポイントが20も必要だそうだ。

 そんなポイント、僕にはない。

 ん? そうだ僕にはないだけで――


「サイモン、お前、スキルポイントは余ってないのか?」

「――スキルポイント? なんだ、それは」


 あれ? スキルポイントで通用しないのか?


「スキルを覚えるためのポイントのことだよ。そのくらい説明しなくてもわかれっ!」

「待て、ヴィンデ。スキルを覚えるためにポイントが必要など、俺はこれまで聞いたことがないぞ?」

「え? そうなのか?」


 どういうことだ?

 アロエもリベルテもノーチェも、スキルポイントを使って覚えたいスキルを覚えているのに。

 いや、待てよ?

 そう言えば、オークキングも大量のスキルポイントを持っていたよな。最後に大量に使っていたけど。

 もしかして、この世界の人間も魔物もスキルポイントの使い方を知らないのか?


「サイモン、本来スキルってどうやって覚えるんだ?」

「生まれつき持っている物を除けば、長年の鍛錬によって身につくか、専用のアイテムを使うだけだ。極稀に窮地に追い込まれた時に覚醒することもあると聞くが」

「ピッキングスキルを手に入れたいって願っても無理なのか?」

「無理に決まっている。神頼みをするにも神はいないのだからな」


 いや、神ならいるぞ?

 覗き魔で、こういう窮地の時に限って助けてくれない煩い神様が。

 でも、もしかしたら――


「サイモン――僕の配下になってくれ」

「わかった」

「断られるのはわかっていたが、しかしこれでなんとかなるかもしれな――いいのか?」

「なにか考えがあるのだろ? 一時だが、なってやる。まったく、お前に従魔のフリをさせたことがあったが、俺のほうが配下になるとは。何があるかわからん」


【サイモンが配下に加わった】


 よし、配下になった。

 当然だが、他の魔物をテイムした時のように、人間に変身はできないか。

 これでサイモンのステータスを確認できる。


……………………………………

名前:アルフレド

種族:人間

レベル:89

忠誠度:0


HP 952/952

MP 1400/1400

状態:通常

スキルポイント142


攻撃 3280

防御 890

速度 4382

魔力 2752

幸運 100


スキル:【回復魔法:Lv6】【隠形:Lv8】【基礎剣術:Lv4】【諜報術:Lv8】【詐称:Lv8】


称号:【癒し手】【ハートブレイク】【聖職者】【司教】【勇者】【世界の真実を知る者】【特別諜報員】【Aランク冒険者】【魔王を討伐せし者】【魔物の天敵】

…………………………………… 


 なんだ、こいつ。

 本当に司教だったのか。しかも、【勇者】? 【世界の真実を知る者】? バカみたいな称号だらけだ。【ハートブレイク】があることには少し親しみが持てる。

 しかし、魔物の天敵があるのに、他の――たとえばゴブリンの天敵のような種族別の称号がない。

 もしかして、僕とサイモンとではスキルの入手条件が違うのか?

 あぁ、忠誠度が0だということとか、いろいろとツッコミたいけれど、スキルポイントがあるのはわかった。


「よし、サイモンっ! ピッキングスキルを入手したいって願ってくれっ!」


 それでピッキングスキルが手にはいるはずだ。

 そう思ったのだが、


「待て、ヴィンデ。貴様の話を聞くと、スキルポイントを使う事で、覚えたいと思ったスキルを入手できる。それでいいのだな?」

「そうだ。だから――」

「ならピッキングスキルはダメだ。レベル1のピッキングスキル程度じゃこの扉の鍵は開けられない。それとも最初からレベル10で覚えられるのか?」

「いや――確かに無理だ」

「それより、スキルはどんなものでも覚えられるのか?」

「……あぁ。スキルポイントさえあればな」


 俺が頷くと、サイモンは笑った。

 そして、俺に尋ねる。


「どうだ? 覚えられたか?」


 俺は再度サイモンのステータスを確認した。


……………………………………

名前:アルフレド

種族:人間

レベル:89

忠誠度:0


HP 952/952

MP 1400/1400

状態:通常

スキルポイン:32


攻撃 3280

防御 890

速度 4392

魔力 2752

幸運 100


スキル:【回復魔法:Lv6】【隠形:Lv8】【基礎剣術:Lv4】【諜報術:Lv8】【詐称:Lv8】【魔力剣:Lv1】【スリ:Lv1】【縮地:Lv1】


称号:【癒し手】【ハートブレイク】【聖職者】【司教】【勇者】【世界の真実を知る者】【特別諜報員】【Aランク冒険者】【魔王を討伐せし者】

……………………………………


 なんだ、これ。

 魔法剣と縮地は理解できるけれども。

 

「お前、スリって犯罪じゃないか!?」

「どうやら覚えられているようだな」


 サイモンはそう言うと、ボロボロの剣を握る。

 そして、次の瞬間、剣を光が纏った。

 魔力剣というスキルの効果か?

 そして、次の瞬間だった。


 一瞬、サイモンの姿が消えたかと思うと、再度現れた。


「やはりレベル1の魔力剣ではアダマンゴーレムを傷つけることはできても倒せないようだな」

「はっ?」


 傷つけることができたって?

 アダマンゴーレムを見てみると、確かに肩の部分に傷があった。

 しかし、小さな傷であり、致命傷には至っていない。


「でも、傷つけられるのならそれを繰り返せば――いや、無理か」


 サイモンのステータスを確認した。

 MPが300も減っている。

 このまま続けたらすぐにMPが尽きてしまうだろう。


「お前な、スキルポインを無駄遣いして結局なにも――」

「無駄遣いではない。しっかり手に入れたからな」


 サイモンはそう言って僕にそれを投げた。

 それは――ゴーレムが首からぶら下げていた鍵だった。


「お前、魔力剣で紐を切って鍵をすったのか――」

「これで奥の部屋に行けますね」


 ノーチェが嬉しそうに言う。

 でも、サイモンはわかっているのだろうか?

 奥の部屋に起死回生の一手となる何かがなければ、ジリ貧だというのは変わっていないんだぞ?

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