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子供たちに思いを寄せて

 めっちゃ僕に怯える、ノーチェ未満一般以上の青い髪の美女。

 フォーカス、早く僕が無害だと説明してくれ。

 今の状態だと、何を話しても怯えられる。


「彼は俺の友だ。安心してくれてかまわない」


 フォーカスはそう僕を紹介した。

 それだけで、彼女から恐怖の色がなくなる。よほど信用されているんだな。

 そして、僕も彼女に挨拶をする。


「ヴィンデです。よろしくお願いします」


 フォーカスの不興は買いたくないので、できるだけ彼女を怖がらせないように丁寧に話す。

 僕がそう自己紹介すると、女性は少し不思議そうな顔をして、手を口元に当てて笑った。


「あの、大事な名前なんで笑わないでほしいんですけど」


 ノーチェに貰った大事な名前だから、これを笑われたらとても嫌な気分になる。


「ご、ごめんなさい。とても素敵な名前よ。私の名前はアネモネ。よろしくね、ヴィンデさん」

「ありがとう。そっちもとてもかわいらしい名前だ。お花の名前だね」

「……ねぇ、もしかして、そのヴィンデというお名前、女性から送られたのかしら?」

「え? なんでわかるんですか?」

「きっと、その女性はあなたのことをとても大切に思っているのね」


 アネモネは言った。

 理由は教えてくれなかった。でも、そうだといいな。


「えっと、フォーカスさん。彼女は人間なんですよね。どうしてここに?」

「3年前、海に落ちていたところを拾った」


 拾ったって、そんな捨て犬や捨て猫みたいに。


「本当は食べるつもりだった。死んでると思ったからな」

「おい!」


 そんなこと言われたらアネモネが怖が……ってませんね。


「ふふ、この人、いつもこう言うの。生きていられて厄介だって。人間を殺す趣味はないからどうしたものかって」

「あぁ、そうなんですか。で、僕に頼みって?」

「彼女を人間の住む町に送ってあげたい。毎日、餌を運ぶのが面倒だ」


 送ればいいじゃないか、そう思ったが、そうじゃない。

 ここに来るまでの距離を考えると、人間の息が続く距離ではない。

 

「3年前はどうやってここに運んだんですか?」

「ここだ」


 フォーカスは後ろの水たまりを見せた。別の水路?

 あれ? でもマップは100%埋まっているはずだが。


 そう思ってみると、その先はすぐに行き止まりになっている。


「ここには元々、別の出口があった。5分くらいで水上から来れる。今は塞がってしまった」

「……なるほど」


 5分でも結構つらい時間だと思うんだが。

 なるほど、何が原因かは知らないが、出口が塞がり困っていると。


「そこで君の泡を使いたい。君の泡で空気を確保し、地上を目指す」

「なるほど……わかった。その提案受けるよ」


 ただし、と僕からも条件を出す。


「カオ・エポラールという鯱に困っている。奴に近付かないようにしてほしい」

「無理だ。奴は私の部下ではない。そもそも、私より強い」

「魔王なのに?」

「ああ」


 くっ、そうか。

 まぁ、強さは明らかにあの鯱のほうが強かったもんな。


「じゃあ、僕の身の安全の確保。それと、僕は魔物を倒してレベル上げをしている。その協力をしてほしい」

「……レベル上げ。なんだそれは?」

「……え? ほら、魔物を倒したら経験値がもらえて、レベルが上がるとかないの?」


 フォーカスは知らぬ存ぜぬという顔をした。

 え、本当に知らないの?


「スキルのレベルのことを言っているのか?」


 あぁ、本当に知らないのか。


「いや、すまない。僕は強い相手を倒して食べることでパワーアップできる能力がある、と思ってくれ」

「……そうか、わかった。そういうことなら、協力しよう。約束する」


 本当だろうなぁ。

 彼女を地上まで送り届けていきなり殺す、とかないよな。


 まぁ、いいか。


「僕のMPが全回復していないし、迷宮の入り口でさっきまでカオ・エポラールが暴れていた。実行は明日でいいか?」

「構わない」

「はい、よろしくお願いします、ヴィンデさん」


 こうして、アネモネ地上送還作戦は明日決行となった。


「なら、今日は食事にしよう」


 そう言って、フォーカスは海草と魚を置いた。


ウォーター


 魔法によって純水を出して亀の甲羅の中に入れる。

 ついでに、同じ魔法で海草と魚を洗い流す。


熱よ(ホット)


 酸素濃度を心配して火を使わないのかな?

 一応、二人分の酸素は、水中の海草から漏れ出る酸素で十分賄えているらしい。淡い光とはいえ、光合成をするには十分な光だ。


 そして、温かそうなスープができあがった。

 とても簡単、味付けなにもしていないスープ。

 魚と海草から出る僅かな塩と旨みだけがアクセントといったところか。


 ……僕も食べたいけれど、ちょっと熱そうだ。

 鮫は熱いものが苦手だ。


「全く、人間の食事を用意するのは面倒だ。残すんじゃないぞ」


 ……もしかして、フォーカスはツンデレじゃないのだろうか?


「残しませんよ。あなたが作ってくれた料理なんですから」


 アネモネはそう言って、食事を食べた。

 スープを飲み、残った魚と海草を手で食べる。


 その姿はとても幸せそうで、


「ねぇ、アネモネさんは本当に人間の町に戻りたいの?」


 僕が訊ねると、フォーカスが割り込む。


「彼女の意見は関係ない。私が彼女を追い出したいんだ」


 男のツンデレなんて気持ち悪いだけだろ。

 ぶっちゃけ、彼女はここにいたら幸せな気がするんだけどな。

 魔王と人間だけどさ、異種族だって愛はあると信じてる僕だから言える。


「私は……地上に帰りたいです。私の村には、父が一人でいます。父を残してここで暮らすことはできません」


 父親……か。

 ふと思い出したのは、僕のためにその身を犠牲にして死んでいった子供。


「父親が望むのは、子供の幸せだけだよ?」

「……ヴィンデさん、子供がいるんですか?」

「100匹ほど。元はもっと多かったんだけどな」


 アネモネが、随分子沢山ですね、と感心した。

 あぁ、その称号は持ってるよ。 


「21匹が病気になって死んだ。1匹は僕のために身を犠牲にした。今はどうしているのかわからないけど、健康で生きていてほしいと思う」


 僕の中のブラックバスとしての願いだ。


「父に子供……親も子も持たぬ俺にはわからぬ感情だ」


 フォーカスは嘆息を漏らした。


「だが、その身を犠牲にした子供の気持ちをお前はわかってやれ」

「わかってるよ。わかってるからこそ、辛いんだよ」


 あいつら、元気でやってるだろうか?

 遠い湖に残してきた子供たちを思い、僕は眠ることにした。

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