奥のゴーレム
土を全部食べた。毒物鑑定を見ても反応しなかったので、お腹を壊すことはないと思う。
気持ち悪いけれど、悪い事ばかりじゃなかった。
経験値が多くもらえたこともそうだが、レアモンスターを食べたことで、“魂食い”の効果が発生した。
【魂食い効果により、スキル:栽培を取得した】
植物を育てるためのスキルらしい。135個目のスキルだ。
もしも冒険者を引退して農家として過ごすとしたら便利なスキルだ。もしもそうするなら、ノーチェは菜食主義者だから野菜を育てて、僕は牧草を育てて放牧でもしようかな。
「ヴィンデさん、お水です。どうぞ」
「ありがとう、ノーチェ」
僕は水筒の水を飲みほす。ゲップが出そうになるけど、ノーチェの前なので必死に堪えた。
恨むべくは、僕の横で優雅にランチタイムをしているサイモンのほうだ。
僕が土を食べている間に美味しそうにパンと干し肉を食べていた。
ノーチェも昼食を食べるかと聞いたけど、彼女は首を振った。ここに来る前にしっかりと食事をしているからお腹は空いていないんだろう。
「さて行くとするか。この先もゴーレムは大量にいるだろうからな」
サイモンは僕が睨み付けていることに気付いているだろうが、そんなことお構いなしに前に進んだ。
宝を独り占めにされるのも癪なので、結局サイモンと一緒に遺跡の奥へと向かう。
サイモンの言う通り、行く先々でゴーレムと戦う破目になった。
お陰でレベルもひとつあがってBBゴーレムレベル5に。
敵のほとんどはクレイゴーレムであり、倒しているうちに、【ゴーレムの天敵】という称号と【岩砕き】というスキルを手に入れた。
さらにクレイゴーレムにも変身できるようになった。
ちなみに、倒したゴーレムはさすがにここで食べるのもあれなので、アイテムBOXに収納した。本当に経験値に困った時に食べるつもりだ。
「ゴーレムというのは魔物の一種であるが、太古の時代に人工的に作られた魔物だ。実際、真迷宮にはマリオネットの魔物がゴーレムを自分で作っているという話がある」
「マリオネットがゴーレムって、人形が人形を作っているの? 変な感じだな」
でも、逆に納得だよね。ゴーレムのような無生物の魔物って生殖行為とかしないと思うし、誰も作らないのならいずれ絶滅していそうだから。
「そんな話を何で急に?」
「わからないのなら別にいい。先を急ぐぞ」
先を急ぐ……か。
まぁ、僕も一刻も早くノーチェをサイモンから遠ざけたいので、そこは利害が一致している。
急いで進もう。
幸い、遺跡のゴールもマップに表示されるようになった。
しかし、問題がひとつある。
「……この奥の部屋か?」
サイモンが尋ねた。そこには鉄の扉が閉ざされている。鍵はかかっていないし罠もない。
「うん、この先に宝物庫がある」
僕は言った。
ただし――この先から敵の気配がある。しかも、色は赤黒い――つまりかなりの強敵が待ち受けるということだ。
サイモンと強敵――相打ちしてくれないだろうか?
そんな僕の思惑など露とも知らず、サイモンが宝物庫という言葉を信じて扉を開けた。
そして、その先にいたのは、やはりゴーレムだった。
しかし、ここまで出会ったクレイゴーレムと違い、金属製のゴーレムだ。
黒いゴーレム――アイアンゴーレムかな?
サイズはこれまでのゴーレムよりも小さく、人と同じくらいの大きさだ。
「ヴィンデ、奴の胸を見ろ」
「胸?」
言われて見ると、首飾りのようなものに鍵がつけられている。
間違いなく、その奥の扉――宝物庫の扉の鍵だろう。
「鍵を持っているのなら、ドラゴンブレスで溶かすわけにもいかないよね。鍵が溶けてしまったら扉が開けられなくなってしまうから」
「どのみちお前のへなちょこブレスじゃあのゴーレムを溶かすことなんてできないだろうな」
「ドラゴンの炎を舐めるなよ! 鉄なんて一瞬――は無理だけど数分浴びせれば溶かせるぞ」
「鉄なら可能かもしれんが、あれはアダマンタイト鋼でできた、アダマンゴーレムだ」
……あぁ、アダマンゴーレムか。そうかそうか。
よし、帰ろう。
この感覚は懐かしい。海にいた時に何度も体験した。
触らぬ神にたたりなしだ。お宝は惜しいけれども、このまま大人しく退散しよう。
そう思った時だ。
扉が閉ざされた。僕たちが入ってきた扉じゃない――そのひとつ前の扉だ。宝物庫の扉に仕掛けらしきものがなかったので油断した。
……これは結構やばいかもしれない。




