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金で買えない物

 マッピングスキルを使って周囲の地形を確認しながら進んでいく。

 にしても本当に複雑だな。

 丁字路についた僕は地図を確認する。


「どうした? さっさと行け」


 サイモンが尋ねる。こいつは人をさかなでるのが得意だな。


「煩い、黙ってろ」

「本当にどうしかしたんですか? 体長が悪いのなら常備薬を持っていますが」


 ノーチェが心配そうに尋ねた。


「心配ないよ、地図を見て確かめているんだ。どっちの道も長く続いているから――あぁ、左の道が正解だね。右の道のかなり奥にある部屋は行き止まりで、途中に隠し扉があってその奥に魔物がいっぱいいるから、たぶんその隠し扉の前を通ったら後ろから攻撃されるんだと思う」

「魔物がいるんですか? 何を食べているんでしょうか」


 心配するところそこっ!?

 いや、僕も気になるけど。


「魔法生物か不死生物アンデッドだろう。それならば食べ物はいらないからな」


 サイモンがもっともなことを言う。

 それなら、僕も戦いたくないな。

 魔法生物を食べても絶対に美味しくないし、不死生物アンデッドなんて食べたらお腹を壊してしまう。


「小部屋に何かあるのかは気になるが、しかし、宝は左にあるのだろう?」

「……なんのことだ?」


 僕が尋ねた。こいつには宝がある事なんて伝えていないはずだ。


「なんてことはない。貴様は左の道が正解だと言った。俺の目的は遺跡の調査だと伝えたはずだ。調査は普通に考えれば魔物の生態を調べる必要もあるはずなのに、貴様は行き止まりの右の道いいかないと告げた。つまり、貴様には目的地がわかっているということ――低能な貴様には学術的な価値のある物を目的地にするわけはないから、金目の物があるんだろうと読んだわけだ。その表情を見ると間違っていないようだな」

(ちっ……またこいつにいいように扱われるわけか)


 確かに、普通に調査と言われているんだ。魔物の生態系を調べるべきだったのかもしれない。


「訂正してくださいっ!」


 そう言ったのはノーチェだった。


「訂正? 何を訂正すればいいんだ?」

「ヴィンデさんは低能なんかじゃありません」

「…………」

「…………」


 サイモンとノーチェのにらみ合いが続く。

 ノーチェの体が少し震えていた。他人に対してこんな啖呵を切る事なんて滅多にないから。


「ノーチェ、もういいんだ。確かに僕には学術的な価値のある物を目的になんてしていないし」

「いや、ヴィンデ。今回は俺が間違っていた。だが、ノーチェ。俺はヴィンデを低能だと言ったのはこいつと俺が軽口を言い合える仲だからだ。本当にヴィンデを低能だと思っているのなら一緒に行動をするわけがない」

「軽口を言い合える仲? そうだったんですか……すみません、私ってまた勘違いしちゃって」


 え? これってどういう状況?

 サイモンが折れてくれたってこと?


「さて、ヴィンデ。冗談も終わったところで、宝のある場所まで案内してくれるな」

「……わかったよ。取り分は半分ずつだからな」


 僕はそう言うと、左の道を進み始めた。

 その横に歩くサイモンが僕の耳元で言う。


「どうやら、出会えたようだな――貴様の言う金よりも大事なものに」

「……うるせぇ」


 こいつに弱みを握られたと思うと嫌な気持ちになる。


「それより、この先に魔物がいるぞ。お前は下がっていたらどうだ? どうせ戦うのは僕の仕事なんだろ?」


 サイモンの奴、武器ひとつ持っていないからな。

 本当に、僕が来なかったらどうやって魔物の対処をしていたんだ?

 いくら隠形スキルがあるとしても狭い通路の敵からは逃げられないだろう。


 そう思って進むと、そこにいたのは土の人形だった。クレイゴーレムだ。頭の上に雑草が生えている。


「サイモンさんの言う通りゴーレムでしたね」

「……そうだね」


 くそっ、さっきのサイモンの予想が当たったことで、ノーチェのサイモンへの評価がまた上がってしまったようだ。

 ここは僕がかっこよくクレイゴーレムを倒して――そう思った時だ。

 サイモンが前に出たと思うと――一瞬にしてクレイゴーレムがいつの間にか倒れていた。その手にはどこから取り出したのかレイピアのような武器が握られていた。


「クレイゴーレムは核を一突きすれば簡単に倒せる」

「待て、お前、こんな離れた場所からどうやって――」

「剣戟を飛ばすくらい、一流の剣士にとっては簡単なことだ」


 簡単なことだって、そんなはずないだろ。

 僕、クレイゴーレムが倒れるのを見ても何が起こったのかわからなかったぞ。


「ところで、ヴィンデ。有能な貴様でも知らないかもしれないが頭の上に草が生えているクレイゴーレムは、グラスゴーレムと呼ばれるレア種なんだ」

「へ……へぇ、そうなんだ」

「確か、レアモンスターを食べれば強くなるんだったよな?」

「…………え?」


 僕にこの土塊つちくれを食えって言うのか?

 頭の上の草だけでよくない?


「ヴィンデさんっ! 無理はしないでください」

「――ノーチェ」


 ノーチェは優しいな。

 そうだよね、無利して食べなくてもいいよね。 


「もしも体調が悪くなるようなら胃薬は用意していますよ」


 きっと今の台詞は、僕がクレイゴーレムを食べることを暗に進めたわけではないと思う。もしも僕が無理をしてクレイゴーレムを食べる時のことを考えての発言に違いない。

 でも――


(男なら食べないわけにはいかないよな)


 僕はそう言うと覚悟を決めてクレイゴーレムを食べ始めた。

 ……土って、意外と甘いんだ。

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