サボテンの天敵
本日三度目の更新です。
前の話をまだの方はそちらからお読みください。
サボテンは夜になると動きが遅くなる。
そこを狙っての作戦だったが、どっちにせよ自爆されると数が増えるだけだ。
村人たちは自爆させない程度に傷つけて人間が脅威だと思わせようとしていたようだけれども、人が近付けば抱き着いて自爆されるだけだしね。
でも、人が近付けば、近寄ってきて自爆する。
今回はその特性を使わせてもらう。
「では、お願いします」
「わかった。囮は俺たちが引き受けます。ノーチェさん、よろしくお願いします」
村の四十歳以下の男たちはそう言うと、村へと走っていく。
彼らはこれから揺動作戦に打って出る。
基本三人一組でひとりでも負傷したらのこりのふたりが担いで丘に避難する。
その間に僕たちは村の外れに移動。
そこで作業を開始する。
誰もいないことを確認し、僕は作業を開始した。
「落穴 落穴 落穴》」
土魔法、 落穴
これにより、僕は巨大な穴を掘っていく。
魔法攻撃力が大幅に上がったからだろうか? 以前に比べて掘れる穴の大きさがさらに増している。
「ノーチェ、そろそろ危ないから下がっていてっ!」
落穴で掘った穴は頑丈で崩れにくいけど、でも絶対じゃない。
「わかりました! ヴィンデさん、無理はしないでください」
「わかってるよっ!」
と僕はさらに穴を深くまで掘っていく。
そして、地上に上がった――その時だ。
村の方から爆発音が聞こえた。
誰かやられたのか、それとも反撃で殴ってしまったのかはわからない。ノーチェが心配そうに村の方を見る。
(ノーチェをこんなに心配させたんだ。どこの誰だかわからないけど絶対に死ぬんじゃないぞ)
と僕は村の方角を見ると、空を飛んで穴の上で停止――そして、それを発動させた。
スキル発動、美味しそうな香り!
僕の体から、魔物を寄せ付ける美味しそうな香りを出す。
「ノーチェ、そこから絶対に動くんじゃないよ!」
と僕はそう言うと、今度はスキル――スモークを発動させた。
煙を出すスキル――これによりサボテンたちの視界を奪う。
暫く待つと、一匹のサボテンが煙の壁を越えて歩いてきた
そして、煙を越えたところはすでに奈落に通じる一方通行――なすすべなくサボテンはまっさかさまに落下していった。
そして、次から次にサボテンたちは煙を越えてこちらに歩いてきて穴に落ちていく。
落とし穴作戦は大成功かに思えた――が、五匹落ちたところで、サボテンたちの動きが止まった。
どうやら落とし穴があることに気付いたらしい。
煙が晴れる。
残っているサボテンは残り約百。もう落ちた五匹なんて誤差の範囲でしかない。
落ちないのなら落とすまで!
今度は僕は口から蜘蛛の糸を吐き出した。
蜘蛛の糸が暴れサボテンの体にくっつく。僕は翼を羽ばたかせ、そいつを引っ張った。
穴の淵に立っていた暴れサボテンは穴の中に落ちていった。
一匹一匹落としていたら拉致があかない。
僕はアイテムBOXから長い棒を取り出し、そこに蜘蛛の糸をくるくるに結びつけると、
「落穴」
と小さな穴を掘って、そこに棒を入れた。
「ノーチェ、これを持っていて! でも無理だと思ったら手を放していいから」
「わかりました!」
ノーチェが穴の中に入り、蜘蛛の糸で絡みついた棒を持つ。
そして、僕は糸をそのまま引っ張り、空を舞った。
暴れサボテンの後方に回り込み、地引網の要領で暴れサボテンたちをいっきに引っ張る。
「落ちやがれっ!」
と叫ぶと同時に、何匹かが穴の中に落ちた。が、それと同時に糸が切れる。
失敗か――と思ったその時だった。
暴れサボテンの後方で爆音が響いた。
まさか、村にまだサボテンが残っていたのか?
しかも誰かやられた?
さらに再度爆発、爆発を繰り返しながらもそれは近付いてきた。
それに驚いたのは、僕たちよりも暴れサボテンだった。
我先にと穴の中に飛び込んでいく。
何が起こっているのかはわからないが、一網打尽にするチャンス到来!
まずはフルコンボボーナスをもらうぞ――と僕は穴の中にダイブした。
そこにいたのは百匹近い暴れサボテンたち。もう入りきらずに二重、三重になっている。
「まずは経験値いただくぞ! ミニドラゴンブレス!」
と僕が炎を放ち、その反動で上空へと上がった、その直後だった。
巨大な爆発が起こった。
【称号:コンボマニアを取得した】
【スキル:コンボボーナスのレベルが2に上がった】
【称号:コンボマスターを取得した】
【スキル:コンボボーナスのレベルが3に上がった】
【経験値42獲得、次レベルまで残り経験値1744】
【経験値43獲得、次レベルまで残り経験値1701】
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【経験値420獲得、次レベルまで残り経験値32145】
【称号:サボテンの天敵を取得した】
【スキル:針手を取得した】
【フーライサボテンに変身可能です】
す、すごい。今の一撃でレベルが一気に3上がった。
コンボは2コンボで1プラス、3コンボで2プラス、4コンボで4プラスと倍々に増えていき、最終は基礎経験値十倍になると打ち止めとなるようだ。
それでもレベルがふたつも上がった。
B.B.ドラゴンレベル4だ。
この調子で無限レベルアップをしたいと思うが、暴れサボテンは周囲の土の栄養を奪って急激に数を増やしている。これ以上したらこの周辺の土地が痩せてしまい、あの美味しい食用サボテンが困ることになる。
それに、さっきから聞こえてくる爆音も気になる。
ということで、僕は対サボテン用のスキルを吐き出した。
「くらえ、腐竜の息!」
かつて、ゲノムから買ったドラゴンゾンビの魂の入ったものを食べて覚えたスキル。
これは対象を状態異常――特に猛毒にする効果がある。
腐竜の息を浴びた暴れサボテンたちはみるみるしおれていき、その場に倒れた。
経験値が入ってこないので死んではいないが、時間の問題だろう。
地上に上がってあとは待つだけだ。
それよりもこのサボテンたちが死んでからの浄化作業のほうが大変そうだな。いちど水に溶かして、水浄化スキルで綺麗にするか。それに臭いも気になる。
一応、作物に影響が出ないように地下深くでしとめたけれど。
何かいい浄化方法があればそっちを採用したい。
とその時、さらに爆音が響いた。
かなり近い。と思った時だった。
暴れサボテンが一匹、まるで何かから逃げるみたいにこちらに走ってくる。
そして――
「あ……」
僕は思わず声をあげた。
突然飛び出した黒い影が暴れサボテンに覆いかぶさり、それを取り込んでいく――というか食べている。
食べられる直前ん、巨大な爆音が響いたが、そいつは口(?)から爆風だけを逃がし、飛び散るはずの肉片を体の中にとどめたまま消化していった。
僕の頬が緩む。
なんでこいつがここにいるのかはわからないが、相変わらずいろいろと法則を無視しているようだ。
「久しぶり、リベルテ!」
僕は手を伸ばし、旧友のスライムとの再会を楽しもうとしたのだが、リベルテはそれを無視して穴の中にダイブした。
穴の中から爆音が鳴り響く。
……どうやら浄化作業の心配はないらしい。
あいつが全部食べてくれるだろうから。
サボテンの天敵の称号を手に入れたけど、本当のサボテンの天敵はリベルテだったという話。