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丘の上の食用サボテン

本日二度目の更新です。

前の話をまだの方はそちらからお読みください。

 サボテンの異常な増殖――これがゲームの中だったら、魔物増殖による無限エンカウント経験値天国だっ! となるのだろうが、現実だとそうはいかない。まず第一に、増やした魔物を放置するわけにはいかない。忘れてはいけないが、ここは村の中なのだ。

 そして、最も重要なのは、魔物を増やし過ぎたら、それはつまりノーチェを危険にさらすということになる。

 僕にとってそれは愚行以外に表現する術がない行いだ。


「おい、あんた、何やってるんだっ! 早くこっちにこいっ!」


 若い男の声が聞こえた。僕に――いや、おそらくノーチェに言っているのだろう。

 声がした方向を見上げると、小高い丘の上に男がいた。

「ヴィンデさん、行きましょう」

『うん』

 知らない人がいるから、僕は念話で相槌を打って、ノーチェとともに丘の上に向かった。

 そこで僕たちが見たのは、避難している大勢の人だった。


 どうやら廃村ではなかったようだ。

 そして、丘の上からだとよくわかる。

 あちこちに暴れサボテンが徘徊している。その数、百を超えている。

「そっちの竜はあんたの従魔か?」

 茶色い髪、平凡的な顔立ちの三十歳くらいの男がノーチェに尋ねた。

 ノーチェは僕を一瞥し、無言で頷いた。

「そうか。みたところ旅のもんだろ? 悪い時に来ちまったな。見ての通り、暴れサボテンに村が占領されちまってな。今年は雨が少なく日照りが続いてな。村のため池が目当てらしい」

 と忌々し気に男は言ったその時、顔をひどくゆがめ、片膝をついた。

「どうかなさったのですか!?」

「悪い、右足を暴れサボテンにやられてな」

「見せてください」

 とノーチェは男のズボンの裾を捲った。

 すると、その脚は無数の棘のあとがあり、青く腫れあがっている。

 ノーチェはその患部に手をかざし、

「ヒール」

 と魔法を唱えた。

 淡い光男の足を包み込み、見るも痛々しいくらいに腫れあがった足が、正常な状態に戻った

「こいつは驚いた。あんた、回復魔法が使えるのかい?」

「はい――まだ勉強中ですが」

「そいつはありがたい。頼みがある、他にも怪我をした村人が大勢いるんだ。治療してもらえないだろうか? と言っても大したお礼はできないが」

「いえ、お礼は結構です。私を案内してください」

 さすがはノーチェ。その行いはナイチンゲールにも勝ると劣らない。

『MPがなくなったら言ってね。いつでも献身を使えるようにしてるから』

 僕がノーチェにそう伝えると、彼女はにっこりと僕に微笑みかけてくれた。その笑顔だけで僕は幸せだ。


 丘の上に避難している人の中には暴れサボテンに襲われた人だけでなく急いで丘の上に逃げる時に怪我をした老人など怪我人が大勢いた。

 幸い、全員大した怪我ではなく(といっても痛そうではある)、ヒールフォルテを使うまでもなく治療を終えた。

 治療をしながら聞いた話によると、暴れサボテンはどういうわけか丘の上には上がってこないらしい。

 僕は普通に丘を上って来られたから、魔物避けとかそういうものではないとは思うんだけど、村人たちもその理由はわからないらしい。

『って、サボテン普通に来てるじゃないかっ!』

 サボテンの一団が丘の上を歩いていた。しかも規則正しく一列に並んで。

「危ないです、下がってくださいっ!」

 ノーチェが警戒するが、

「あぁ、あれは大丈夫です。暴れサボテンではありません。あたまに白い花が咲いているでしょ?」

 と僕たちを案内してくれた男の人がいった。


 確かに白い花が咲いている。


【食用サボテン:HP8/8】


 あ、本当だ。暴れサボテンではない、食用サボテンだ。

 食用サボテンはノーチェに近付くと、自らの腕――のように見える果肉をちぎってノーチェに差し出した。

「貰ってもいいんですか?」

 ノーチェが尋ねると、食用サボテンは無言で頷く。言葉がわかっているのか、それとも偶然頷いたように見えたのかはわからないが、ノーチェはそれを受け取った

「皮を剥いて食べてください。とれたてのサボテンは甘くておいしいですよ」

「ありがとうございます」

 ノーチェは皮を手で剥いて、ちぎると半分僕に渡してくれた。

 そして、ふたり一緒に食べる。


(おいしいっ!)


 口の中に甘みが広がる。これは果物――そうだ、キウイフルーツに味は似ている。

 倒して食べているわけじゃないから捕食による経験値も入らないし、こんなに美味しいのなら当然悪食による経験値も手に入らない。

 でも、経験値関係なくもっと食べていたい。


「とても美味しいですね」

「そうでしょう、そうでしょう。この村の名物ですからね――と言っても、村がこのありさまだと」


 と自慢げに語っていた男の顔がさらに悪くなった。

 その男に食用サボテンが自らの腕をちぎって渡した。

 男は優しい笑みで「ありがとう」と花の後ろの部分に手を置いた。


「おっと、申し遅れました。私はこの村の村長をしているジエグです。若いと思われるかもしれませんが、村の掟で、村長は食用サボテンが一番懐いている村人がなると決まっているんです――もっとも食用サボテンに好かれるだけの男ですけれどね」

「私はノーチェと申します。エルフの森を出て旅をしています。そして、ヴィンデさんです」

 紹介され、僕は無言で会釈をした。

「随分としつけられたドラゴンですね――ノーチェさん。私たちは今晩、村を取り返す作戦に打って出るつもりです。」

「村を取り返すって、暴れサボテンに対する対抗策はあるのですか?」

「ありません。ですが、暴れサボテンの好きにさせておくわけにはいきませんから」

 と男は言った。

 どうやら決意は固いようだ。

 ならば、と僕はノーチェに念を送った。


 ノーチェは黙って僕の話を聞くと、ジエグにこう言った。

「それならば、私に考えがあります――暴れサボテンを一網打尽にしましょう」


 ついでに僕は思った。

 暴れサボテンを倒すときに誘爆を積み重ね、新たなコンボ称号を手に入れようと。

 めざせ、フルコンボによるボーナス!

 略してフルコンボーナスをこの手にしてやる! 

本編終わっている後日談だから、結構書きたいネタを自由に書ける解放感

……あ、本編でも書きたいネタを自由で書いていたっけ


次回、いよいよあいつが登場!

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