施設表記
ラビスシティー全体を囲む壁を越え、僕たちはビル・ブランデへとたどり着く。
「町を一つ挟むだけでこうも変わるものなんだね」
ラビスシティーの南、コースフィールドは一面が大草原だったが、ラビスシティーの北にあたるこのビル・ブランデは赤土の大地が広がっている。一応道らしきものはあるんだけれども。
んー、道に迷いそうだ。果たして僕は本当に次の町に辿り着けるのだろうか?
まぁ、僕にはマッピングスキルがあるから、方角に関して迷うことはないんだけどね。でも、目的地の距離くらいは知りたいよな。
【スキルポイントを1支払い、施設表記を取得しますか?】
ん? おぉ、なんか来た。施設表記か。スキルポイント1のスキルはあんまり使えそうにない物が多い。このスキルもてっきり、「この建物は酒場ですよ」「ここは教会です」みたいなことがわかるスキルだと思っていた。
別にいらないかと取らずにいたのだけれども、ここでこれが現れるということは目的地までの距離がわかるということか。よし、取得しておこう。スキルポイントも1の消費で済むから失敗だったとしてもステータスの肥やしになったと思えば納得できる。
【スキル:施設表記を取得した】
よし、GETだ。
スキルの説明をみたところ、これはマッピングと連動するスキルのようで、マッピングの範囲の倍の距離までにある町や建物、他にも川や谷の名前までわかりその説明まで見ることができる。ただしそこまでできるのはレベルが上がってからで、今の状態でわかるのは国の名前と町の名前くらい。
それでも――
「北と北東にそれぞれ村があるね。メイベルから貰った地図の通りだ」
「ヴィンデさん、ここから町が見えるんですか? エルフの視力はいいと言われていますが、私には見えません」
「僕も流石に見えないよ。でも、スキルでちょっとね」
北にあるのがイネリオス村。北西にあるのがスバリエ村か。地図を見る限りどっちに行っても目的の町にはたどり着けるけど、村の名前だけだとどっちがいいかなんて判断できないな。はやく施設表記をレベルアップしたいのだけれども、この施設表記のレベルを上げるには、このスキルを取得してから十の町や村に入らないといけない。こんなことならもっと早くにこのスキルを覚えておくんだった。
とりあえず、途中までは同じ道なので、歩いて移動をしながら考えよう。
村の名前をふたつノーチェに伝えて、どっちに行くか相談する。
「スバリエ村ですか?」
「知ってるの?」
「はい。スバリエ村は食用サボテン栽培の盛んな村なんですが、暴れサボテンの大量発生にたびたび悩まされているそうです。暴れサボテンはあまり強くはないのですけれども、食用サボテンの栄養を根こそぎ奪っていくので困っているのだとか。でも、村はあまり豊かではないので、冒険者を雇うお金もないそうです」
「なにそれ――サボテンが暴れるのか。針を千本飛ばして来たりするの?」
「そんなことはしないと思いますよ。そんなことをしたらサボテンから針が無くなってしまいます」
「そっか……ノーチェ。もしかして村を助けたいの?」
僕が尋ねると、ノーチェは何も言わなかった。
何も言わなくてもわかる。困っている人は助けたいよね。
そして、僕たちは別れ道に差し掛かった。
「……お腹空いたな」
「ヴィンデさん、もうお腹が空いたんですか? ご飯にします?」
「ううん、なんか食用サボテンって聞いていたらサボテンが食べたくなったんだよ。サボテンは植物だからお肉が嫌いなノーチェでも美味しく食べられそうだしね。途中でたまたま暴れサボテンに出くわしても安心して。僕の炎は全ての植物の天敵だから」
「……ヴィンデさん、いいんですか?」
「いいもなにも、サボテンを食べるだけだよ。どうせならもっと旅を楽しもうよ」
「はい♪」
ノーチェがにっこりと微笑んだ。
そして、僕たちはスバリエ村を目指すことになった。
目的の村が見えてきた。
なんというか、随分と寂れた村だった。
本作品はレッドライジングブックスから出版されます。詳しくは活動報告にて。
本作品と同じ世界の物語、異世界でアイテムコレクター3巻、本日発売です。




