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幸せの絶頂ではない婚約式

 フリーマーケットの従業員全員が僕たちを笑顔で出迎えてくれた。

 メイベルを含めた五人のメイド服を着た女性たちが僕たちを会場の中心へと誘う。

「遅れてごめんなさい、メイベル。心配かけて」

「ううん、クリスさんが行ってくれたからそれからはどちらかというと料理が冷めないか心配していたくらいですよ」

 メイベルは冗談めかして言った。

 本当はノーチェのことをここにいる(僕を除いて)誰よりも心配していたのは言うまでもないだろう。

「ヴィンデさん。それでは食事の前に――」

 メイベルに促され、僕は頷き、アイテムBOXに入れていたそれを取り出した。

 デザインはまだ見ていないから心配だけど、でも商人としてのゲノムを信じる。

 紙袋に入っていたのは、小さな小箱だった。

 そしてその小箱の中に入っているのは――指輪。

 プラチナのリング。その台座にはダイヤモンドのような白色の宝石が納められていた。しかもその宝石、ハートの形になっている。

 僕はその指輪を見せようとすると、その小箱の隙間に一枚の紙が挟まっているのに気付いた。

 それを見て僕はゲノムに感謝する。

「ノーチェ、君にはじめて会った時から僕は君のことが大好きだった。君の笑顔で暗い深海の中も生き抜いてこられた」

 僕が言うと、従業員のひとりが、

「え? 深海?」

 と小声でつぶやいたが、隣にいる小柄な従業員に肘で注意されて黙った。

 僕が喋れることはここにいる全員が知っているが、僕がもともと魚だったことはノーチェとメイベルしか知らない。

「あの日、僕はノーチェに誓った。いつか僕が人間になったとき結婚してほしいと。その結婚の誓いとして、この指輪を受け取って欲しい。必ずノーチェを幸せにするから」

 既にノーチェからの返事は貰っている。そもそもこの婚約式を提案したのがノーチェなのだから。

 それでも僕は緊張した。

 そして――

「駄目ですよ、ヴィンデさん」

 その時、場の空気が静まり返った。

 だが、ノーチェは笑顔で言った。

「私を幸せにするんじゃありません。ふたりで一緒に幸せになりましょう。それが夫婦なんですから」

 夫婦!?

 その言葉に僕はそのまま天に上りそうになったが、首を振って意識を繋ぎ留めた。

「……うん、そうだね。ふたりで一緒に幸せになろう」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 ノーチェは笑顔で指輪を受け取った。その時だ。

【称号“婚約者”を取得した】

【スキル“誓約”を取得した】

【称号“蜘蛛の天敵”を取得した】

【称号“称号王”を取得した】

【称号“スパイダーハンター”を取得した】

【称号“猫の天敵”を取得した】

【称号“剛腕”を取得した】

【称号“鉄壁”を取得した】

【称号“魔障壁”を取得した】

【称号“脱皮の体”を取得した】

【称号“高みを知る者”を取得した】

【称号“陣地クラッシャー”を取得した】

【祝儀としてスキルポイント20を取得した】

 婚約者の称号と、今まで予約していた称号を一気に取得した。

 と同時に初めてのメッセージ、祝儀ポイントGET。って、これは絶対ゲノムの仕業だろう。

 素直にありがたく受け取っておく。

 スキル、誓約か。一体どんなものなのだろうか? と調べたところ、誓約とは誓いを立てるスキルらしい。別に誓ったからといってステータス補正があるわけでもないし、誓いを破ったからといって罰が降るわけでもない。

 ただ、その誓いは心に深く刻まれるそうだ。

 だから、僕は誓約スキルを使った。必ずふたりで幸せになると。

「そうだ、ノーチェ。その指輪の名前は守護の指輪と言ってね。持ち主が一定以上のダメージを受けると身代わりになって宝石が砕け散ってしまう指輪なんだ。別名身代わりの指輪というらしい」

「そうなのですか!? では、怪我をしないようにしないといけませんね」

「うん。だから、危険なことはできるだけ避けるようにしてよね」

 まぁ、普通の生活をする分には大怪我を負う事はないだろうし、これさえあれば不慮の事故に対応できる。

 ノーチェの安全を金貨1000枚で買ったのだと思えば安い買い物だ。

 ゲノムに依頼してよかったと思った。

「それじゃあ、そろそろ料理を食べましょうか?」

「「「賛成!!!」」」

 その後の婚約式はただの立食パーティだった。

 でもみんな楽しく過ごした。

 ちょっと困ったことがあるとすれば、僕が不用意にも、

「次は誰の婚約式になるだろうね?」

 と言ってしまったことだ。一瞬、場の空気がおかしなものになった。

 どうしたんだろうと思っているとシュシュが、

「私を含め、ここにいる皆さんは前のオーナーのことが大好きですからねぇ。店長以外は顔を見たこともないんですけどぉ」

 とのんびりした口調で言った。

 顔を見せたこともないのに従業員全員を虜にするとか、前オーナー凄すぎるね。僕には絶対真似できそうにない。

 まぁ、僕が作りたいのはハーレムではなく、ノーチェとの愛の巣だからいいんだけどさ。

「ヴィンデさん、私たち、もう幸せの絶頂にいるみたいですね」

「ここが絶頂だっていうのは嫌だな。だって、僕たちはもっともっと幸せになるんだから」

「そうですね。そうなりましょうね、絶対」

「うん――そうだね」

 僕たちはこの式を開いてくれた皆に感謝した。

 パーティの途中でクリスも参加してくれ、さらに婚約式は盛り上がり夜遅くまで続いた。

ということで、婚約式編はこれにて完結です

次回からは新章突入!? でも後日談なんですけど。

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