蘇生《リザレクション》
その日の成果は、魔蜘蛛の糸束70個、魔蜘蛛の糸玉2個程度。これでも普通に考えたら大儲けだ。魔蜘蛛の糸玉って銀貨20枚だから、それだけでも銀貨40枚、日本円に換算すると40万円分くらいの儲けになる。スパイダーハンターと呼ばれる冒険者が現れるのも頷ける。
ただし、魔蜘蛛ってHPだけを見れば強い部類に入ると思う。僕の土針とノーチェの光の弓が規格外なんだ。
魔蜘蛛が吐き出す糸にも、ドロップアイテムの糸と違って毒はあるらしいし、毎月10人以上の冒険者が亡くなっているそうだ。
経験値がそこそこ高いのもそのためなんだろう。
おかげで、レベルが1上がった。僕のレベルはもう18だ。
だが、僕の目標は金貨300枚。
とてもではないが、今のペースだと、あと6日でそれだけ準備するのは難しい。
やっぱり必要なのはレアドロップ率アップのスキル。
これを入手するにはスキルポイント77が必要。
普通に考えたらまず貯めるのが無理な数字だが、僕には変身スキルがある。逆に言えば変身スキルさえ使えればスキルポイント77なんて楽に集まる。
それができないのが、命の燃焼によるHPの減少だ。ボクには現在、最大HPマイナス950のハンデがある。
ここで変身してしまえば、最大HPがマイナスになる可能性もあり、そうなったら死んでしまう可能性もある。
今までは称号やスキルを集めて最大HPを底上げして命の燃焼分のハンデを補おうとしてきたが、称号“過回復”を取得したときに肉体再生のスキルレベルが2に上がり、命の燃焼によるハンデが減少していくことに気付いた。
ならば、この肉体再生のレベルを上げればいいんじゃないか?
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肉体再生:Lv2 レア度:★★★★
効果説明:欠損した肉体が再生する。HPの回復速度が上昇する。
レベルアップ条件:欠けた四肢の一本が再生する。
入手条件:称号【過回復】取得。
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無理だ。リスクが高すぎる。痛いのは嫌だ。角は痛みがなかったから削られたけど、腕を捥ぐなんて僕にはできない。
ということでこれは却下。
なら、命の燃焼を治療する方法はないか?
そう尋ねたことがあった。叡智さんに。
すると、こう言われた。
【“回復魔法”はすでに取得済みです】
回復魔法で治ると叡知さんは教えてくれた。でも、リバースでも治療できない。
ということは、やはり回復魔法レベル9かレベル10が必要なんだと僕は思ったわけで。
ノーチェが回復魔法の練習を続けているので、結局のところ僕の命の燃焼の治療はノーチェの成長にすべてがかかっているらしい。
でも、回復魔法のレベルはそう簡単に上がらないことはノーチェもわかっているし、当然ノーチェに無理をさせるつもりはない。
別の方法も考えないと。
「では、まずはリバースから使いますね」
「うん、頼むよ」
リバース、肉体欠損再生魔法。一瞬で再生する魔法ではなく、徐々に生やしていく魔法で、しかも消費MPはかなり高い。
そして、僕たちの経験上、消費MPが高い魔法は熟練度の上昇も高い。
ということで、バイモンが持っていた杖を使い、僕にリバースを7回かけた。
3回は念のために残しておく。
そのあとはリヒールを僕にかけ続けてくれた。
「……あ」
そろそろ寝ようかと思った時、
「どうしたの?」
「えっとですね……キュアフォルテ!」
ノーチェが言うと、僕の体を淡い光が纏った。
これは――
「レベルが上がったんだね?」
ノーチェのステータスを確認する。やっぱり回復魔法のレベルが7に上がっていた。
「そのようですね」
「じゃあ、あの杖を使えば新しい回復魔法が使えるってこと?」
「そうみたいです……えっと」
ノーチェは杖を持って目を閉じた。
魔法の名前を探っているんだろう。
その間に僕は献身でノーチェのMPを全回復させた。
「新しい魔法の名前がわかりました。蘇生という魔法です」
「蘇生!? もしかして、死んだ人も生き返る魔法ってこと?」
「いえ、私も文献でしか聞いたことがない魔法ですが、瀕死の重傷を負って通常の回復魔法を受け付けない人でも治療できる、回復魔法の中でも最高峰の魔法だと言われています」
そ、それは凄い魔法だ。
レベル9でその魔法だとしたら、レベル10だとどんな魔法を覚えるんだろうか。
それに――
「ノーチェ、その蘇生を僕に使ってほしい」
「わかりました。蘇生!」
僕を眩い光が包み込む。
凄い……とても暖かい。これはまるで母親の温もりのようなそんな暖かさ。
そして、ステータスを確認する。
僕の最大HPが30も上がっていた。これは凄い。命の燃焼を僅かにだが治療できている!
「ノーチェ、凄いよ……ノーチェっ!!」
僕が見たのは、ベッドに倒れているノーチェの姿だった。
意識を失っている。顔の色も悪い。
でも呼吸はしているし、脈もある。
ステータスを確認すると、HPは満タンだったが、MPがおかしい。
MPが【-36/64】になっていて、状態がMP枯渇だった。
普通はMPが足りないと魔法が発動しないはずなのに、一体どうして。
僕は急いで献身でMPを回復させる。すると、ノーチェの顔色はよくなり、寝息を立てていた。
「ノーチェ、ごめんね。ゆっくり眠って」
僕はそう言うと、杖を持って外に出た。