蜘蛛の糸
次の日の朝。
ノーチェの手料理を食べて満足の僕は、迷宮に行く前に僕たちはメイベルのお店、フリーマーケットに行った。蒼の宝玉について僕が直接話したいと言ったから。
朝早かったので、開店前だったんだけど、店の前を掃除していたリーという従業員さんに事情を話したら店の中に案内してくれた。
フリーマーケットの店内は、窓から光を取り込む構造になっているけれど、ポーション等を置いている棚には直接光が当たらないようになっていた。いろいろと計算されているなぁと思う。
力の妙薬が銀貨30枚で売っていた。ゲノムからは金貨1枚で買ったのに。あいつ、本当にぼったくっていたんだな。
他にも面白い商品が売っていて、中には金貨2000枚を超える値段の装飾品なんかも売っている。
水の中で呼吸できるポーションっていうのもあるのか。
海に行く時にノーチェに飲んでもらって、僕は魚に変身して海のお散歩とか絶対に楽しいと思う。
ノーチェが店の中を見ている間に、僕はメイベルに声をかけた。
まず、蒼の宝玉の鑑定について御礼を言って、売るつもりはないと告げた。
メイベルも期待半分だったという感じで、「それは残念です。もしも気が変わりましたらいつでもお持ちください」と言ってくれた。
そして、これからが本番だ。
「あの、メイベルさんのお店ってアイテムの買い取りもしてるんですか?」
「はい、していますよ」
「これを買い取って欲しいんだけど……」
僕はそう言って、アイテムBOXから、アトランティスの秘宝を全て出した。
金銀プラチナの財宝のオンパレードに、メイベルは一瞬目を丸くした。
「凄い量ですね」
「いくらくらいになるかな?」
「査定してみないとわかりませんが、金貨200枚にはなると思います」
……金貨200枚か。婚約指輪を買うまで金貨300枚は足りないな。
「夜には査定が終わりますから、ノーチェさんに渡せばいいですか?」
「あ、ううん。夜に来るから僕が貰いたいんだよ。えっと、ノーチェに婚約指輪を贈りたいと思って、その資金にしたいから」
「それは、とても素敵ですね。指輪はこちらで何種類か用意しましょうか?」
「ううん、知り合いが用意してくれることになってるから大丈夫。ありがとう。それと、ひとつ聞きたいんだけど、一週間で物凄い大金を稼ぐ方法ってある?」
「物凄い大金ですか?」
メイベルは少し考えるように言った。
「そうですね、ここは迷宮の町ですからそういう話はいくつか転がっていますよ。一番は、迷宮の魔物が落とすレア素材ですね。物によっては金貨で買い取りされるものもありますから。こちらをお持ちください」
そう言って、メイベルが僕に渡したのは、リストだった。
魔物のドロップアイテムと買い取りリスト。
そして、彼女の言う通りレアな素材もあった。
「これ高いな。魔蜘蛛の虹糸玉……金貨20枚」
魔蜘蛛の糸玉だけでも銀貨20枚なのか。
魔蜘蛛の虹糸玉15個よりも、魔蜘蛛の糸玉1500個のほうが先に集まるかもしれない。
もちろん、そう簡単にはいかないだろうけど。でも、僕、幸運値高いし、なんとかなるんじゃないかな?
「魔蜘蛛の糸玉と魔蜘蛛の虹糸玉は迷宮九階層に現れる魔蜘蛛が落とすドロップアイテムです。魔蜘蛛が滅多に人前に出ない魔物なうえ、魔蜘蛛に噛みつかれると猛毒になってしまいますから」
「猛毒なら、僕もノーチェもキュアがあるから大丈夫」
「それと、九階層にはスパイダーハンターと呼ばれる冒険者もいますから、もしも行くとしたら気をつけてくださいね」
「あぁ、縄張りとかそういう奴か……」
確かにそれは面倒そうだな。
「縄張りまではいきませんけど、戦っている途中の魔蜘蛛に対し、横から攻撃をしたりとかはしないでください。手助けと思ってする行為でも、相手からしたら獲物の横取りと思われるかもしれません」
「……ドロップアイテムを全部譲っても?」
「ドロップアイテムを全部譲っても、向こうは狙いのアイテムじゃなかったから譲ったのであって、魔蜘蛛の虹糸玉や糸玉だったら自分のものにするつもりだったんじゃないか? って思うかもしれませんから」
なるほど、金が絡むと人間は疑心暗鬼になるかもしれないからな。
メイベルの言うことはもっともだ。余計な諍いを起こさないためにも、出しゃばらずにいよう。
「ヴィンデさん、話は終わりましたか?」
「うん、終わったよ。今日は迷宮の九階層に行ってみようと思う」
「じゃあ、転移陣を使って十階層に行ってから、九階層に上がればいいですね」
「そうだね」
僕たちはメイベルに礼を言って、フリーマーケットを出た。
そして、フリーマーケットから歩いて二、三分のところにある迷宮の入り口、その横にある魔法陣を見る。
青い光を放つ転移陣は、この世界に来てすぐに使った物に似ている。あれは一方通行の転移陣だったけれど、これは双方向で利用可能らしい。
転移陣に入った途端、景色が変わる。
明るい迷宮の中。とても広くて、奥の壁が見えないところもある。
もしかしたら町よりも広いんじゃないだろうか?
転移陣の前には掘っ立て小屋のような建物があり、武装した男がふたり立っていた。後ろには上に通じる階段がある。
十階層へ転移しても、ギルドから許可がある人以外はそのまま九階層に上がらないといけない。
僕たちはそのルールに従い、九階層に上がった。
八階層に続く階段への案内板はあるけれど、僕たちはそれからわざと外れた。
まるで迷路みたいな迷宮を歩いて行く。
僕にはマッピングがあるから道に迷うことはないけれど、普通は地図を買ったりするのかな。
「……あっちに魔物の気配がする、あっちからは人の気配……かな」
三つに分かれた道で、僕は右と左を見る。
索敵スキルでも人と魔物の区別がだいぶつくようになっていたことに、僕は少し驚いていた。
「では、魔物の方に行きましょう」
「うん、そうだね」
僕はノーチェとともに魔物の気配のする方へ行った。
マッピングと合わせることで、より正確に魔物の位置を知ることができる。
「この角を曲がったら四匹の魔物がいるはずだよ。とりあえず、敵がいたら僕が先制攻撃に土針で攻撃するから」
「わかりました」
ノーチェが光の弓を構える。
さて、魔物は目的の魔蜘蛛かな?
そう思って僕たちは飛び出した。
いた、いきなり魔蜘蛛だ!
【魔蜘蛛:HP152/152】
体調80センチくらいある大きな蜘蛛が地面に三匹。
「土針! 土針! 土針!」
【経験値112獲得、次レベルまで残り経験値5871】
【経験値112獲得、次レベルまで残り経験値5759】
僕の土針が二匹の魔蜘蛛を捉えたが、三匹目の魔蜘蛛を逃した。
三匹目は僕の土針を避けると、蜘蛛の糸を飛ばしてくる。
だが、光の矢が飛んでくる糸を蹴散らして魔蜘蛛に突き刺さった。
ノーチェ、やるぅ!
そして、消滅した蜘蛛の体、残ったアイテムを見る。
残ったアイテムは二種類。
ひとつは魔石。そして、ひとつは魔蜘蛛の糸束だった。
糸玉ではない。これの買い取り価格は銅貨3枚だ。
さすがにいきなり当たりは引けないようだ。
「綺麗な糸ですね」
「そうだね――とりあえずアイテムBOXに入れておくよ」
さて、もう少し頑張ってみるか。
その後も僕たちは魔蜘蛛を倒し続けた。唯一の救いは魔蜘蛛の経験値がそこそこ美味しいことかな。
僕は現在、1レベルあげるのに1万くらいの経験値が必要だから、100匹倒せばレベルが上がる計算になる。
もちろん、魔蜘蛛を見つけるのは簡単ではないけれど、それでも索敵スキルのおかげで20分に1回は魔蜘蛛や他の魔物と遭遇できた。
「いた! 土針!」
二匹の魔蜘蛛に対し、僕の土針とノーチェの光の矢が同時に突き刺さる。
【経験値115獲得、次レベルまで残り経験値3152】
【称号“蜘蛛の天敵”を予約取得した】
【スキル“糸吐き”を取得した】
【ベビースパイダーに変身可能です】
【称号“称号王”を予約取得した】
【スキル“スキル変換”のレベルが2に上がった】
うおっ、何か来た。
予約取得? そうか、ゲノムが100個目の称号は婚約したときに手に入るようにしてくれた。
だから現在は称号は入手できないけど、予約している状態になっているのか。認証待ちみたいな感じなのだろう。
でも、予約取得でもスキルは手に入るのか。
少し記念の意味が薄れた気がするが、それでもステータスが一気に125も増えたのは素直にうれしい。
称号二つ分のステータスは増えていないけれど。
そして嬉しいことは続くようで、
「見てください、ヴィンデさん!」
「お、やっと出たか」
ノーチェが見つけたアイテムを見て、僕はほくそ笑んだ。
残念ながら魔蜘蛛の虹糸玉ではなかったけれど、そこにあったのは魔蜘蛛の糸玉だった。
【称号“スパイダーハンター”を予約取得した】
魔蜘蛛の糸玉を拾うと、そんなメッセ―ジが流れた。
称号の効果は幸運値の上昇らしく、予約取得なのに幸運値は増えていた。どうやら、増えないのは称号変換によるステータスだけらしい。
そして、ノーチェも僕と一緒にスパイダーハンターの称号を手に入れていた。
あと、気付けばノーチェの弓術のスキルレベルも3に上がっていた。
ただ、問題は、魔蜘蛛の虹糸玉が一個も入手できていないことと、思ったより魔蜘蛛の糸玉が出ないこと。このままだとノーチェへの婚約指輪の代金が賄えない。
何とかならないか?
【レアドロップ率アップを取得するにはスキルポイントが足りません】
……また、スキルポイントかっ!
その後、叡智さんによる調査の結果、レアドロップ率アップのスキルを入手するには、スキルポイントが77も必要であることがわかった。
当然、そんなスキルを手に入れるスキルポイントの余裕はうちにはありません。




