守る者と守られる者
予約投稿のつもりが普通に投稿してしまいました。
本日二度目です。
冒険者ギルドの前の食堂の二階にある宿屋で僕たちはとりあえず二週間宿を押さえることにした。冒険者ギルド直営の宿なので、従魔である僕も泊まることができる。
三日間竜車に揺られたから、普通にベッドが嬉しい。といってもひとり部屋なので、僕はそこらへんにまるまって寝るだけだが。
道具などは全部アイテムBOXに入れているが、洗濯物などは宿の受け付けの人に渡して洗濯してもらうことにした。ノーチェは自分でするものだと思っていたそうだが、こういう雑務はプロに任せて、その間僕たちは僕たちができる仕事をしたほうが効率的だと教えた。
僕たちができる仕事、それは魔物退治だ。
世界でも唯一迷宮のある町ラビスシティー。その入り口は先ほど見たが、なるほど確かに入口の底から魔物の気配がうようよする。
ノーチェのギルドランクやレベルを上げるのにも丁度いいと言うことで、僕たちは冒険者ギルドに向かった。
「そう言えば、冒険者ギルドっていうことはあのロリコンギルマスもいるのかな」
「どうでしょうか。聞いてみます?」
「ううん、まぁ、相手はギルドのトップだから忙しいだろうし、やめておこうよ」
本当は、お偉いさんと会うのが面倒なだけなんだけど、ノーチェも納得してくれたようだ。
ということで、僕たちは普通に冒険者ギルドに依頼を受けに行くことにした。
冒険者ギルド本部は木造二階建ての大きな建物で、一階には多くの冒険者がいた。情報交換をしたり、依頼の報告をしたり、賞金首の手配書を見たりしている。
ノーチェの冒険者ギルドのランクはFから、何かいい依頼はないかと依頼書を見る。
結構、魔物や薬草、鉱石などの素材収集の依頼が多い。何故か複数の依頼の依頼人が全員同じ名前だったが、業者の人間だろうか?
制限は無限とあるので、素材を持って来たらいいだけなんだろうな。
「いらっしゃいませ。当ギルドの利用ははじめてでしょうか?」
声をかけられて振り返ると、ギルドの受付嬢らしき人がいた。青い髪に青い瞳の女性。なんだろう、すごく強そうだ――とステータス把握でHPとかを調べようとしたら、
――いたっ
急に頭が痛みだしてステータスを見ることができない。ステータス把握妨害!? そんなの、あのアルモニーですら持っていなかったのに。
恐るべし、ギルドの受付嬢。
「はい、ここでの利用ははじめてです。これから迷宮に潜ろうと思うので、ついでに受けられる依頼がないかと思ってきました」
「そうですか。それではこのギルドに関しての説明をお聞きになりますか?」
「他のギルドとは違うんですか?」
「この町は迷宮がありますから、注意事項がいくつかあります。まず、迷宮の中での冒険者同士のイザコザに関しては基本、冒険者ギルド側では手出しができません。もちろん、目に余る盗賊行為がありましたら、冒険者ギルドの戦闘職員が動くことがありますが」
迷宮の中は全て自己責任ってことか。
「もちろん、情報提供はいつでも受け付けております。もしも問題行動を起こす方がいらっしゃった場合はこちらか、もしくは迷宮の十階層に駐在しているギルド職員にご相談ください」
他にも、魔物が落とす魔石は町の外への持ち出しは禁止されていて、自分で使わないのなら冒険者ギルドか、もしくは町の中のギルド加盟店での販売が義務付けられていることが告げられた。魔石に関してはメイベルのいるフリーマーケットでも売ることができるので、溜まったらそこに持って行こう。
国外への持ち出しは、最悪懲役刑もあるので絶対にしないでおこう。アイテムBOXに入れたらばれないと思うけど。他の魔物素材も、最低価格であれば冒険者ギルドでの買い取りも可能だそうなので、売るところがなかったら持って来てもいいとのこと。価格は安いが、その分冒険者の功績になり、ランクアップ査定の対象になるとか。
迷宮は九階層までしか探索することができず、十階層より下は基本“勇者”という選ばれた人間とその従者か、ギルドの高ランクメンバーの調査団しか立ち入ることができないそうだ。
『最後になりましたが、そちらのドラゴンさん』
受付嬢さんは僕を見て――
『あまり妙なことをしないでくださいね』
そんな念話を送ってきた。
怖っ、ステータス把握使ったのがバレていたようだ。しかもこの様子だと、僕が人間の言葉を理解しているのもばれているらしい。
僕は何度も首を縦に振った。
ノーチェは僕と彼女の間に何があったのかわからないようで、首を少し傾げていた。
※※※
真迷宮の入り口は二カ所あり、転移陣と階段とがある。
転移陣は、かつて僕がブラックバスだったころに使ったことがあるワープ装置みたいなものだ。
地下十階層まで通じていて、そこから上がっていくらしい。
僕たちは普通に階段を使って一階層から降りることにした。
迷宮の中に入るのはこれで三度目。
一度目は海の中。二度目は森の地下。これで三度目か。
壁が光っているのは相変わらず。こういう密閉された迷宮だと、松明などで照らされていたら一酸化炭素中毒などになって危ないが壁が光るというのはそういう対策でもあるのだろうか?
まぁ、迷宮の中でも苔は生えているし、たしか苔も光合成はするんだから、最低限の空気の自浄作用はあるのだろう。
奥に進むと苔だけではなく雑草のようなものも生えていた。
そう言えば、迷宮内の採取依頼の中に薬草や毒消し草の採取もあったので、そういう薬になる草も生えているのかもしれない。
僕は錬金術のスキルも持っているから、薬草を集めてポーションを作って儲けるのもいいかもしれないかも。いや、効率悪そうだしやめておこう。
「ノーチェ、これから魔物退治をするんだけど、大丈夫?」
「大丈夫って何がですか?」
「ほら、ノーチェって心優しいからさ。魔物とはいえ生物を殺すのは嫌なんじゃないかって思って」
「そうですね。でも、私は冒険者ですからいつか戦わないといけないと思うんですよ。エルフの村の人も、村を守るために必死で戦っていました。力がないと守れないものもあると思うんですよ」
「それこそノーチェが守ろうとするものは、僕が守るよ」
僕が守る。ノーチェを含めて全部。それは驕りかもしれない。少し強くなったからといって、僕よりも強い存在はたくさんいる。
でも、それでも大事な人とその人が守りたいと思うものくらいは守れるようになりたいと思う。
「それでも、竜賊の村の時のように私にしか守れないものもあるはずなんです……私が強くなれば守れる人たちが。だから、ヴィンデさん、私も一緒に頑張らせてもらえませんか?」
「……うん、一緒に頑張ろう!」
とすれば、まずは魔物退治からだ。
早速現れた魔物を見て、僕は苦笑した。
大量の茶色いキノコの魔物がこちらに動いて迫ってきている。
踏みつけたら倒せるんじゃないかと、配管工の気分でそいつらに向かっていった。
次回の更新は土曜日になります。




