一千万分の一の幸運
走竜賊の村を出て三日。ノーチェのリバースの魔法のおかげで、僕の角はすっかり元通りになった。
そして、竜車はラビスシティーの前で止まる。竜車は町の中には入れないからだ。
「聖女様、ドラゴン様、本当にありがとうございました」
竜車を下りる僕たちに、おっちゃんは頭を下げた。
そのあと、もう一度お礼を渡そうとしてくるが、僕たちはそれを丁重に断った。
その後、いくつか言葉を交わし竜車は走り去った。
その影が見えなくなったところで、
「あっ!」
と僕は大事なことに気付いた。
「そう言えば、おっちゃんの名前聞いてなかった」
ずっと一緒にいたのに、おっちゃんって呼んでいたからな。
「え、ヴィンデさん、名前を聞いてないんですか?」
「うん、ノーチェは?」
「……私も聞いてませんね」
この三日間もずっと一緒にいたけど、そう言えば名前を聞いてなかった。
ステータスを調べればわかったんだけど、それもしようとしなかった。
まぁいいや。
それより、ラビスシティーだ。
「それにしても、ラビスシティーって、すごいな。監獄かよ」
ラビスシティーはとても高い壁に囲まれている町だった。
正規の門以外からは絶対に出入りできないだろう。空を飛ぶことができる僕以外は。
「ラビスシティーは、世界で唯一、迷宮のある町ですからね。迷宮の中で採れる魔石の輸出制限をしているので、警備が厳しいんです。町から出る時のほうが順番待ちが大変みたいですよ」
「へぇ、詳しいね。そう言えば友達がいるんだっけ? 解毒ポーションを送ってもらった。会いに行かないといけないね」
「あの、ヴィンデさん……」
「なに?」
「私の友達は、その……エルフでして、とてもかわいいんです……」
「そっか。僕の国では類は友を呼ぶっていうんだよね。本来は悪い意味で使われることが多いんだけど。でも、ノーチェの友達なら、それは可愛い子だろうね」
「……好きになったら嫌ですからね」
ちょっと心配そうにノーチェが言ったのを聞いて、僕は目を丸くした。
そして――
「ぷっ」
思わず噴き出した。
そうか、ノーチェもこんなやきもちを妬いてしまうんだ。
「え? ヴィンデさん」
「あはは、大丈夫だよ。僕がノーチェ以外の人を好きになるわけないよ」
「……ありがとうございます、ヴィンデさん♪」
ノーチェの意外な一面が見られたことでちょっと嬉しかった。
そして、僕たちは町に入る行列に並ぶ。身分証明書として冒険者ギルドのメンバー証を提示した。僕が従魔登録されていることもそれで知られ、何事もなくラビスシティーに入ることができた。
「……うわぁ、凄いですね、ヴィンデさん」
『うん、凄い。地面が全部石畳だし、建物も均一に並んでいる。今まで来た町の中でも間違いなくトップレベルだよ』
周りに人がいるため、僕は念話を使っている。
『友達のところに行くの?』
「はい、あ、でもその前にお土産を買っていったほうがいいでしょうか?」
『そうだね。あ、そうだ、その前に――』
僕は小さな声で、その魔法を唱えた。
「魂探知」
魂アイテムを探す魔法を唱えると、反応がいくつかあった。
『ノーチェ、ちょっと付き合ってもらっていいかな?』
「はい、行きましょう」
僕たちがたどり着いたのは、大きなお店だった。
この町では珍しい、四階建ての店で、サフラン雑貨店というらしい。
魂探知を使ってみると、やはりこの店の中から反応がある。これはラッキーだ。
他の魂探知の反応先はは金持ちっぽい家の中だったから、交渉するのも面倒そうだったが、商品として売られているのなら交渉の必要もない。
幸い、お金はまだまだ余裕がある。
従魔の立ち入りは禁止されていないようで、僕はノーチェに抱きかかえられてその、サフラン雑貨店へと入った。
再度、魂探知の魔法を使うと、一階の雑貨売り場の一角から反応があった。
パーカ人形……へぇ、指人形か。こういうものが流行ってるんだな。
コレクターアイテムっぽくて、箱の中に何が入っているかはわからないようだ。鑑定でも見分けはできない。
『ノーチェ、一番右の列の手前から三つ目、うん、それを買って』
魂探知に反応があるのはそれだけだ。
「わかりました、これですね。あと、一緒にメイベルへのお土産も買っていきますね」
ノーチェがパーカ人形の箱を手に取り、雑貨コーナーでリボンを取りお金を支払った。
店の外で、僕はパーカ人形を開ける。
【称号“ラッキーボーイ”を取得した】
【ラッキーボーイ:一千万分の一で出現するパーカ人形のシークレットレアを引き当てた者に与えられる称号:幸運+5】
へぇ、一千万分の一って、普通に宝くじ一等レベルだな。魂探知を使っても入手できたことに感謝しないと。でも、ひとつだけ訂正させてほしい。僕がラッキーボーイなのは、このパーカ人形を手に入れる前からだ。世界で一番可愛らしいノーチェと出会えたこと、そして結婚できたことで僕は世界一のラッキードラゴンになったんだよ。
ちなみに、そのシークレットレアというパーカ人形は、腕が八本くらい生えているどこの邪神だ? というくらいに凶悪なフォルムの指人形だった。
僕がそれをじっと見ていると、店の中から声が聞こえてきた。
「エリエールさん、パーカ人形入荷したって本当ですか?」
「えぇ、さっきひとつ売れましたが、そこに」
「全部下さい」
「おひとり様五つまでですわよ」
「ぐっ、わかりました。ではエキストラを雇って20人くらい連れてきますから全部ください」
どうやら熱狂的なコレクターがいるようだな、なんて思いながら、僕はそのパーカ人形を食べた。
バリバリと。
【スキル:幸運補正を取得した】
幸運補正は幸運度を1割上昇させるスキルか。レベルが上がれば、最高2倍くらいになりそうだ。
悪くないな。
『じゃあ、そろそろ、ノーチェの友達のところに行こうか』
そう念話で言った時だった。
「あれ? もしかしてノーチェ……さん?」
そう声をかけてきた一人の少女がいた。
年齢は14歳くらいの、緑色の髪の可愛らしいエルフの少女だった。
ニアミス再び。




