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キュアフォルテ

『うーん、いい話だね。本当にヴィンデはいい奥さんを持ったね』


 ノーチェがいい奥さんだということは認めるというより、わかりきったことだが、何のようだ?

 ゴブリン退治とかいってヴァンパイア退治をさせた糞神。


『糞神は酷いよね!? せっかく君と奥さんの頑張りに報いるようにって探したのに。ほら、そこに杖が落ちてるでしょ?』


 神がいう、落ちている杖。

 あぁ、バイモンが使っていた杖か。これがどうしたんだ?


『それを使うと、一日十回だけ、自分の魔法レベルよりも2つほど高いレベルの魔法が使えるんだよね。さっき一回使っているから、今日はあと九回使えるはずだよ』


 へぇ、それは便利な――って待てよ! それだと、あの杖を使えばノーチェはレベル8の回復魔法を使えるってことか!?


『そうそう、レベル7のキュアフォルテ、レベル8のリバースが使えるよ。キュアフォルテを使えば竜毒も治せるはずだし、リバースを使えば君の角も生えてくるはずだよ。流石に命の燃焼で消費したHPまでは上がらないけどね』


 おぉ、それは凄い。助かるよ。ありがとう。


『うんうん、素直に礼を言ってもらって私もうれしいよ。君に私たちのしりぬぐいを任せてよかった』


 僕も素直になることはあるさ。って、しりぬぐい?


『前に言わなかった? 私の世界から逃げ出した化け物がそっちの世界に堕ちたって』


 ――あ、そう言えばそんなこと言ってたな。今の今まで忘れていたよ。

 もしかして、今のが?


『うん、その化け物の部下。ダークマスターってのが逃げ出した化け物みたいなんだよ……ぷぷっ、中二病を拗らせたみたいな名前だよね』


 笑いごとじゃねぇっ! 

 言っておくが、今後、こんな危険なことに僕を巻き込むなよっ! 僕は新婚さんなんだぞ!

 今回もノーチェが助けてくれなかったらちょっとだけ危なかったんだからなっ!

 いや、まぁ勝てないことはなかったと思うけど。


「あの、ヴィンデさん、とても怖い顔をしていますがどうかしたんですか?」


 ノーチェが心配そうに僕の顔を見た。


「な、なんでもないよ」


 うん、なんでもない。僕は兎も角、ノーチェをこれ以上危険なことに巻き込むことはできない。今後は神の言葉は着信拒否だな。


「あ、うん。あの杖なんだけどさ、あれを使えば高レベルの魔法が一日十回、さっき一回使ったから今日は九回使えるみたいなんだ。それでキュアフォルテを使えば、村のみんなを救えるらしい」

「本当ですか!?」

「さすがにそれまでウソだったら、僕はあいつを噛み殺すよ」


 ただでさえ、僕のあいつへの評価は暴落しているんだから。


   ※※※


 村に戻った僕たちは、僕たちを攫ったおっちゃんに事情を説明し、まずはステータス閲覧許可を貰っているレイヤさんのところに向かった。

 二週間前よりも顔色はかなり悪くなっているが、これでも他の村人よりはマシだという。


「頼む、ノーチェ様。レイを――妻を助けてください」

「はい、やってみます」


 ノーチェは力強く頷き、杖を構えてその魔法の名を唱えた。


「キュアフォルテ!」


 淡い光がレイヤを包み込む。

 だが、顔色はあまり優れない。

 失敗したか? と思ってそのステータスを見たところ、


……………………………………

名前:レイヤ

種族:ヒューム

レベル:13


HP 8/31

MP 19/19

状態:衰弱

スキルポイント24

……………………………………


「治ってる! 衰弱状態になってるが、毒は完全に消えているぞ」

「本当ですか!?」

「あぁ、ちょっと待ってろ。ヒール」


……………………………………

名前:レイヤ

種族:ヒューム

レベル:13


HP 31/31

MP 19/19

状態:普通

スキルポイント24

……………………………………


 僕のヒールにより、レイヤの状態が普通になり、彼女はその重い瞳をあげた。

「レイ、大丈夫なのか?」

「……ええ、あなた。ずっとのしかかっていた物が無くなった感じ……ありがとうございます、ノーチェ様、ドラゴン様」


 レイヤは上半身を起こし、僕たちに礼を言った。


「おっちゃん、奥さんとイチャイチャしたいとは思うけど、その前に僕たちを案内してくれ。今日はあと8回しか使えないから、症状が重い人から順番に頼む!」

「わ、わかりました」


   ※※※


 それから三日かけて、ノーチェは村中の人の治療を終えた。


「聖女様、ドラゴン様、ありがとうございました」


 ノーチェはいつの間にか聖女様と呼ばれるようになっていた。それに対応する称号はいまのところないけれど。

 村人たち総出で僕たちの新たな旅立ちを見送ってくれる。


「これ、少ないですが村からのお礼です」


 おっちゃんが貨幣の詰まった麻袋を僕たちに渡そうとするが、


「いただけません。このお金は村のみんなで使ってください」


 ノーチェは当然のように断った。

 僕もそれには反対しない。


「しかし……」


 どうしても受け取ってもらいたそうにしているが、


『おっちゃん、悪いけど僕の奥さんはこうなったら強情だからひっこめてよ。それより、僕たちをラビスシティーまで送って行ってよね』


 僕が念話でおっちゃんに言葉を送ると、おっちゃんは困ったような顔をしながらも、


「任せてください。ラビスシティーまで安全にお届けさせていただきますよ」


 そして、竜車は走り出す。

 ラビスシティーに向けて。


 僕は多くの人を助けられて満足だったが、ノーチェは違った。

 彼女は村を見て、静かに手を合わせた。


 彼女はまだ悔いているのだろう。

 今回の事件でたったひとり、お爺さんが息を引き取ったことを。


 優しすぎるノーチェ。僕はそんな彼女が大好きだ。

 でも、できることならあまり自分を責めないでほしい。


 そう思いながら、僕たちは馬車の揺れに身を任せ、静かな眠りへと落ちていった。

ということで、竜賊の村編は終わり。

次章、いよいよラビスシティーです。

アイコレ本編では中々描かれていない、真迷宮の1階層~9階層での戦い等も描かれる予定です。

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