ゴブリン将軍の正体
脱兎を極めつつある僕に追いつけるはずがないだろ!
と思いながら空を飛び逃げる。本気で逃げたら当然あっという間に逃げ去ることに成功してしまうし、ここで逃げたら、自分たちの企みが知られたと思ったゴブリンが何をするかわからない。間違いなく計画を早める。そして、その計画が、単純にどこかにいるゴブリン王と合流するというのなら問題ないが、近くの村を襲う、とかだとしたら目も当てられない。
本当はリーダーだけ倒してことを収めるつもりだったが、そうも言っていられなくなった。
ゴブリンの武器はほとんどは木の棒。中には剣を持っていたり弓矢を持っているものもいる。
警戒するべきは矢だが――
――アイテムBOX!
放たれる矢は全てアイテムBOXで収納させていただく。もっとも、ほとんどの矢は壁とか天井とか、中には仲間に当たり、僕までは届かない。弓矢の技術というより、性能が悪いのだろう。矢尻すらついていない矢だし。人間が使っている武器を見様見真似で作ったという感じだ。
矢が通じないとわかったゴブリン。次に襲い掛かってくるのは棒を持った前衛たちだ。
だが――
「罠カードオープン! 落とし穴!」
久しぶりに日本語で叫ぶ。当然、その言葉の意味はゴブリンにはわからない。
だが、実感することになる。
転び石によって躓いたゴブリンが、僕の掘った落とし穴に落ちる。
中には落とし穴に気付いて跳び越えようとする奴もいたが、
「土壁!」
完全な壁ではない、それでも三十センチくらいある壁を、僕からみた落とし穴の手前、ゴブリンから見たら落とし穴の向こうに出現させた。
すると、届くと思っていたゴブリンが突然の壁の出現に落ちてしまう。
【経験値42獲得、次レベルまで残り経験値4850】
【経験値44獲得、次レベルまで残り経験値4806】
【経験値41獲得、次レベルまで残り経験値4765】
【経験値46獲得、次レベルまで残り経験値4719】
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計13匹くらい倒した。
ゴブリンの経験値は40代といったところか。
それにしてもよく転ぶ。
転び石、恐るべし。
今のところ、落とし穴を越えてきたのは10匹といったところか。
まだ完全に角が生えきっていないので攻撃力は低いが、ゴブリン相手に戦うのは十分か。
落とし穴からの経験値が入らなくなった。恐らく落とし穴がゴブリンの死体で埋まったのだろう。それほど広い落とし穴じゃなかったからな。
では、行きますか。
僕は大きく息を吸い込み、
――ドラゴンブレス!
口から巨大な炎を噴き出す。
ゴブリンは生ではまずそうだからな、こんがり焼いてやるぜ。
一回の攻撃で、僕まで迫っていたゴブリン7匹が消し炭となる。これじゃ食べられない。と思ったその時だった。
【経験値42獲得、次レベルまで残り経験値4001】
【称号“ゴブリンの天敵”を取得した】
【スキル“簡易武器装備”を取得した】
【ゴブリンに変身可能です】
【称号“魔力ミニタンク”を取得した】
【スキル“MP自動回復”のレベルが4に上がった】
おぉ、もう来たか。思ったより早かったな。
ちなみに、簡易武器装備というスキルは、武器を装備するとある程度扱えるようになるスキルらしい。もちろん剣術や槍術のようなスキルを持っているほうがいいんだろうが、落ちている物を武器とするゴブリンにはちょうどいいのだろう。
あと、今のスキルと称号で最大MPが1000を超えたため、魔力ミニタンクの称号を取得し、MP自動回復のレベルも上がった。
やっぱり実戦は違うなぁ。
と肌で感じながら、僕は久しぶりの戦闘に気分を高揚させ、そして迫りくるゴブリンを蹴散らしていく。
時には魔法で、時にはブレスで、時には体当たりや尻尾攻撃で。
うん、僕も強くなったものだ。ゴブリン相手に苦戦はないな。
倒したゴブリンたちはアイテムBOXに収納しながら、僕は広間に戻っていく。
そして、僕はそいつと対峙した。
『お待たせ。君の部下は僕が倒したよ。あとはお前だけだ』
僕はゴブリン語でそう言った。さっき言語理解スキルが大幅に上がったことで僕も使いこなせるようになった。
『くそっ、やはり所詮はゴブリンといったところか、全く何の役にも立たん』
『お前もゴブリンだろうが……ってあれ? 今の言葉、ゴブリンの言葉じゃないよな?』
『ほう、これは驚いた。ゴブリンの言葉だけではなく、我々の言葉も知っているとは』
そう言うや否や、ゴブリン将軍の姿がどろりと溶け、別の姿へと変容を遂げた。
変身スキル……こいつ、ゴブリン将軍に変身してやがったのか。
そして、現れたのは、白い肌の人の姿をした――
【バイモン:HP1240/1240】
……バイモン……種族名じゃなく、個人名だろうか?
HP4桁……強敵だ。
何より、こっちは角が欠けている状態だし。
「お前は人間……なのか?」
僕は人の言葉で尋ねた。
『人間のような下等生物と一緒にしないでください。私の名はバイモン。吸血鬼族の侯爵ですよ。貴方の名は?』
「……僕の名はヴィンデ。心優しいベビードラゴンだ」
そう言いながらも、僕は退路の確認をし、
「早足」
と小声で魔法を唱える。これにより、僕の速度が上昇した。
『……ほう、ドラゴンが補助魔法、これは面白い』
『面白がっていられるのも今の内だぞ! くらいやがれ!』
僕はそう叫ぶと、
「スモーク!」
体中から煙を出したのだった。
どう考えても後日談でやる内容ではない気がしてきた。




