ラビスシティーに向かえ
その日の夜、僕とノーチェは話し合いをしていた。
今後、どこに行くか。
「とりあえず、ビル・ブランデ以外だな」
「ですね」
そこでは僕とノーチェの意見は一致した。
ビル・ブランデで何があったのか気になるが、わざわざ行く必要はないだろう。
ノーチェも、ブルードラゴンの死骸を見ているから、僕のことを心配してくれているみたいだし、僕もノーチェをできるだけ危険に晒したくない。
冒険者ギルドのトップ――ギルドマスターという役職らしい――が去ったその日、僕は図書館に入った。
開館時間が限られているので、とりあえず、読めるだけ読んで、残り10分で、記憶固定のスキルを使い、本を記憶していった。
後から検証したんだが、やはりスキルポイントに関する記述はなかった。
称号に関するものもあまりない。オークや魔物の生態に関する本を読んでも、オークが子孫を残すいい手段はやはりわからなかった。
まぁ、最初から簡単に解決できるとは思っていなかったが、ここまで成果がないとは思わなかった。
次の情報を集めるにはどこに行くか。
で、結局はここに行きつく訳だ。
「冒険者と迷宮の町、ラビスシティー」
俺の子供のブラックバスを残してきた町だ。
「そういえば、ノーチェの友達もラビスシティーに住んでるんだっけ?」
「エルフの女王様の結婚式の日に訪れて、その時に知り合ったんです。それからは月に一度のペースで文通をしていました」
「へぇ、ペンフレンドか。結構大変そうな気がするけど」
郵便局とかもないだろうし、海外の友達と文通をする以上の辛さだと思う。
「ですね。手紙が届かない時もありますし、手紙の順番が入れ替わるときもあります。ですが、その分だけ手紙が届いたときの喜びはひとしおなんですよ。といっても、お友達のお父さんが死んで、お店が倒産して、奴隷になったときは文通できなくなったんですが」
「……え」
奴隷……今、奴隷っていいました?
奴隷ってあれだよね、あの、人権は与えられない、主人の命令には絶対に服従の奴隷?
例え殺しても弁償するだけで許される奴隷?
ノーチェの友達がそんな酷い状態にあるなんて。
「ノーチェ、どうしてそれを言わないんだ。僕達にはお金があるんだし、その友達を自由にしてあげられるよ」
「あ、それは心配ありません。そのお友達なんですけど、とてもいい御主人に買われたそうで、奴隷とは思えないような好待遇の生活をしているそうです」
「えっと、それってノーチェに心配させないための嘘とかじゃないの?」
「本当に酷い生活をしているのなら、手紙を送らせてもらえませんよ」
あぁ、それもそうか。
……そうだ、これだけは確認しておかないと。
「そのペンフレンドって、女性? 男性?」
「私と同い年くらいの女の子ですよ」
「そっか」
うん、ノーチェとその友達が結ばれることはないわけか。
安心した。もちろんノーチェのことは信じているけど、その友達が男だった場合、天使のような彼女が襲われないとも限らないから。
「じゃあ、明日、竜車に乗ってラビスシティーを目指すとして、ノーチェに渡したいものがあるんだ」
僕はそう言って、水球の魔法書を渡した。
「これで水魔法を覚えられるよ」
「水魔法ですか? 掃除が楽になりますね。ありがとうございます」
「あぁ、うん。でも、掃除は僕が浄化でするから必要ないかな」
そして、僕達は翌朝、地竜に乗って、ラビスシティーを目指した。
迷宮の町か。久しぶりの本格戦闘の予感だ。
楽しみだな。
とはいえ、竜車は一度、シメー湖に浮かぶ島の町で一晩休憩してからの移動らしい。
美食の町であり、つい最近まで料理大会をしていて大いに盛り上がったそうで、とても楽しみだ。
食料を買ってアイテムBOXにしまっておこう。
そう思った時だった。
「走竜賊だ!」
御者が叫んだ。
僕も遠見で見ると、陸を走る竜に人が乗っているのが見えた。
色は薄い赤、僕よりは弱いが、10、20……数が多い。
『ノーチェ、走竜賊って?』
「走竜という亜竜に乗った盗賊です。本来は乗合竜車を襲うようなことをしないんですが――」
ノーチェが言った直後、矢がこちらに飛んできた。
やる気満々のようだ。
アイテムBOX!
僕達に当たりそうな飛んできた矢を咄嗟にアイテムBOXに収納する。
が――
『ぶもぉぉぉぉぉっ!』
地竜が吠えた。しまった、地竜の尻尾に矢が刺さっている。
しかも、矢に痺れ薬が仕込んであったのか、地竜の動きが悪くなる。
『ノーチェ、地竜の治療をして、光の弓で援護を頼む。僕は走竜賊をやっつけに行く!』
僕はそう言うと、地竜の上から飛び出していった。
こっそり新連載を書いていますが、あっちはかなりスローペースになりそうです。正月三が日までに15話くらい投稿しますので、纏めて読んでもらえたら嬉しいです。




