ギルドマスターとの面会
ユーリという名の男が立ち上がる。ルルという女の子を負ぶったまま。
そして、彼は笑顔で言った。
「あなたがブルードラゴンの遺体を持ち帰ったノーチェさんですか」
「はい。ノーチェと申します」
ノーチェは訳がわからないまま頭を下げた。
お偉いさんだって聞いていたからな。
「そうですか。私はユーリ、冒険者ギルドの長をしています」
「え? あなたがあの、七英雄のユーリ様ですか。御噂は遠くエルフの森にまで届いていました」
どうやら有名人らしい。
にしても冒険者ギルドの長か。確かにお偉いさんだな。
冒険者ギルドの本部がラビスシティーにあるって聞いたから、普段はそこにいるんだろう。
冒険者ギルドのトップなら、確かにこのべらぼうな強さも、うん、納得だ。
「あぁ、ノーチェくん、悪いのぉ、来てもらって。ブルードラゴンの査定鑑定が終わってな、メインはそれについてじゃ」
そういえばそうだった。
つい、二人のHPが高すぎて、すっかり査定のことが頭から抜けていた。
でも、考えてみれば、僕だって前はHP1000あったんだし。うん、人間のトップならこのくらいあっても不思議じゃないよな。
それより、今は査定金額を聞くことにしよう。
金額次第じゃ、ちょっと贅沢したいな。
ゲノム相手に金を使いすぎて、今は金貨50枚も残っていない。
まぁ、それでも日本円にして5000万円分なんだし、アトランティスの地下で回収した財宝はまだ残っているんだけど、二人の共同作業での収入となると、やっぱり金の重みが違う。
「あぁ……査定額を言う前に、ワシから一言。お前たちコンビはワシが言うのもなんじゃが素晴らしい。このままでいけばランクAの冒険者に成れるとも思っている。だから、この額を聞いても、冒険者を続けてほしい」
え? それって、つまり、冒険者の仕事って割りに合わねぇ、って思えるような金額ってことか?
本当はもっと高くしたかったんだが、冒険者ギルドの長の一言で査定を大幅に減額されたとか?
僕がユーリを見上げる――するとユーリの肩からこちらを見ているルルという少女と目が合った。
……む、目が合った、そらしたら負けのような気がする。
僕とルルという少女が、終わりのない睨めっこをしていると、
「はい、冒険者は辞めるつもりはありません」
とノーチェが頷いた。だな、僕達が冒険者をしているのはお金が目的じゃないしな。今一番必要なのは情報だ。
「そうか、そう言ってもらえると助かる」
そして、サブは目を閉じ、その査定額を告げた。
「金貨450枚じゃ」
「……!? そんなにですか?」
ノーチェが驚愕する。
僕も驚いた。
え? 4億5000万円? 宝くじ1等当てた? キャリーオーバー中?
「うむ、驚くのは無理ない。じゃが、ブルードラゴンは数百年確認されていないレア魔物、その素材の利用法は、腐食しているとはいえ多岐にわたるからの」
「腐食が見られなかったら、金貨1000枚出しても足りないくらいですよ。この剣を見てください」
ユーリは一本の抜き身で出した。
少し緑色に光る剣の輝きに思わず吸い込まれそうになる。
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- レア:★×7
鑑定レベルが足りません。
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すみません、見たけれど視えません。
久しぶりだ、鑑定できないアイテムだ。
柄の部分が竜の顔の形になっているから、竜関係の武器なのだろうか?
「これはドラゴンスレイヤーという剣です。専門家に見てもらったところ、これの素材は翼竜の牙でできています」
……!?
翼竜!?
翼竜っていえば、HPが1万近くある化け物じゃないか!?
僕も殺されそうになったから覚えている。
「ちなみに、私はこれを金貨1200枚で買いましたが、金貨2000枚で買いたいという人もいらっしゃいます。ブルードラゴンは種族でいえば、翼竜よりもはるかに高位種のドラゴンです、とうぜん、その素材の価格も跳ね上がります」
金貨1200枚とか金貨2000枚とか、凄い買い物をする人がいるんだな。
ブルードラゴンって、翼竜よりも上位種なのか。
確かに、翼竜よりはでかかったが。
「それと、功績に伴い、ノーチェくんのランクをEに上げることになった。ギルド図書館――資料室の一部を閲覧する許可が出た」
「ありがとうございます」
ノーチェが頭を下げ、僕も二人に頭を下げた。
そして顔を上げたら――ルルがこっちをじっと見ていた。
え、ずっと見てたの?
なんで僕をそんなに見るの?
と思っていたら、ルルはユーリの肩から降りてくると、持っていたクッキーを僕の前に出した。
……え? 食べろってこと?
餌付け?
まぁ、貰えるのなら貰っておくか。
僕が口を開けると――ルルはパクっと自分でクッキーを食べやがった。
……このガキ……。
「ルルもこのドラゴン君をとても気に入ったようだ。ベビードラゴンはとても珍しく、私も実物を見るのは初めてだが、ペットとして飼いたいと思ってしまうよ。どうだね? ルルのためにもこのドラゴン君を金貨2000枚で譲ってくれないか?」
高っ!? 僕の値段高っ!?
てか、なんでそんなに金持ってるんだよ。
あと、子供のためって、子煩悩すぎるだろ、この長
……ノーチェ、売らないよね?
「すみません、ヴィンデさんは物じゃないので売れません」
うん、信じてたよ。
「そうか、残念だ。では、私は次の視察に出向くとしよう。ゴルサーブ君、見送りは結構だ。この場で失礼するよ。あと、ノーチェ君、もしもラビスシティーに寄ることがあれば、ぜひ冒険者ギルドに来なさい、できる限り便宜を図ろう」
ユーリはそう言うと、ルルを肩に乗せて去って行った。去り際に、ルルがこっちをじっと見ていた。
悪いな、僕は君のペットになるつもりはないんだよ。
「それにしても、まさかユーリ様がここにいらっしゃるとは思いませんでした」
「僕も、まさか僕の値段が金貨2000枚だとも思わなかった」
ユーリとルルの気配が去ったのを確認すると、嘆息とともに声を出した。
「あぁ、それとじゃな、主たちには報告しておくが、どうもブルードラゴンはラビスシティーの北、ビル・ブランデにあるドラゴンバレーから来た可能性が高いそうじゃ」
「ドラゴンバレー?」
「詳しくは資料で見ればよい。金貨450枚はギルドの口座に振り込んでおくが、一気に全部下ろすんじゃないぞ、支部の金庫が空になるわい」
「ありがとうな、サブさん。にしても、子連れのギルド長って変な感じだな」
「子供ならまだいいんじゃがな、ギルドマスターとあの子供は血が繋がっていないそうじゃぞ」
…………もしもユーリに再度会うことがあれば、それまでにステータス把握レベルを10にしたい。
あいつの称号、絶対「ロリコン紳士」とか「幼女を愛でる者」があるだろ。
この物語そのものが異世界でアイテムコレクターの番外編なうえ、さらに後日談のため、結構好き勝手書いています。
【ユーリとルルについて】
この二人は本編である異世界でアイテムコレクターで登場するキャラです。
そのことを知らずに感想欄を見て、違和感があった人もいるかもしれません。
まぁ、ロリコンギルマスと我儘娘みたいに思って下さったらOKです。




