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冒険者ギルドへの報告

 グレッスの町に到着したのは夜だった。

 依頼達成の報告を冒険者ギルドに、閉館間近のギリギリの時間に終えた。ペアトリスがいなかったので、男の受付に依頼達成の報告をし、合計銀貨3枚銅貨30枚の依頼達成料を貰った。手紙の配達が銅貨30枚、岩運びが銀貨2枚、あとクリストフェルからの依頼達成報告書により、追加の依頼料が支給されたそうだ。


 日本円にして約3万3000円。うん、初めての報酬にしては悪くない。

 金貨1000枚……日本円にして10億円とか使っていたけれど、こうして日銭を稼ぐと、働いているという感じになるな。


 それから、僕達は宿に戻った。夕食の提供時間は既に終わっていたので、別料金を支払い、パンとスープを用意してもらった。

 お風呂も提供時間が過ぎていたので、浄化クリーンをかけて自分自身を浄化し、ノーチェも服と一緒に丸洗い。かなりくすぐったいらしく、ノーチェは笑いをこらえるのに苦労しているようだが、それがとても可愛かった。


 その後は、修行の時間。

 回復魔法のレベルを上げたいということで、献身とヒールのコンボで修行をした。


「でも、あまり修行しているって気にならないですね」


 と、ノーチェはヒールを唱えて、小さな声で言った。


「本当はMPがなくなるのって結構疲れるんだけど、常にMP全快の状態だからね」


 部屋の中なので念話ではなく普通に会話している。

 といっても、もちろん大きな声を出したら隣の部屋の人に怒られるでの小声で話している。


 3時間ほど続けた結果、ノーチェの回復魔法レベルは3に上がり、キュアを覚えた。

 この調子でいけば、僕よりも先に回復魔法レベル4になるだろうな。


「私ばっかりヴィンデさんのお世話になって申し訳ないです。私も献身を覚えられたらいいんですが……」

「そうだね。献身を覚えるなら、共生の称号があればいいんだけど……共生関係って、対等な関係じゃないとなれないと思うんだよ。リベルテにも共生の称号を取らせようと頑張ったんだけど無理だったし」


 ノーチェは僕の主人ということになっているから。

 本当は主人と配下の関係よりも、対等な関係になりたいと思っているけれど、それをするのは完全に僕が人間になったときだと思っている。


「では、ヴィンデさんは献身を、アロエさんと共生関係になったときに覚えたんですね」

「いや、僕の場合は子持ちの称号を手に入れたときに……あ」


 僕の思わぬ失言に、ノーチェが笑顔のまま固まっていた。

 しまった、彼女にはブラックバス時代の過ちを語っていなかった。


「……ど」

「ど? 怒?」

「どういうことですか! ヴィンデさんって結婚してたんですか!?」


 ノーチェの叫び声に、隣の部屋から壁を叩く音が聞こえてきた。

 うるさくてごめんなさい!

 だが、彼女は止まらない。


「ヴィンデさん、どうしてそんな大事なことを今まで黙っていたんですかっ!」

「ま、待って、落ち着いて……説明、説明するから!」


 そして、僕はブラックバスとしてこの世界に堕ちた、初日についてノーチェに語った。

 少し興奮していたノーチェだったが、話を薦めるとようやく落ち着いてくれた。


 うん、あの事件に関しては僕は確実に被害者だしな。


 最後に、ブラックリトルシャークに進化して、子供たちに怯えられたので逃げるように川を下り、そこでノーチェに出会ったことを話した。


「そういうことなら……興奮してすみませんでした。でも、ヴィンデさん、そういうことは私にちゃんと話してくださいね……その、恋人なんですから」


 と、照れるようにノーチェが言った。


「う、うん。気を付けるよ。でも、本当に僕はノーチェ一筋だから」

「今度会いに行きましょうね、ラビスシティーならここからも近いですから」

「ありがとう、ノーチェ」

「はい、ヴィンデさん」


 隣の部屋から壁を叩く音が聞こえてきた。

 隣の部屋のやつ、もしかして聞き耳を立ててやがったんじゃないか?


 リア充爆ぜろ、とか思ってるんじゃないか?


 悪いな、僕は今、本当にリア充だよ。




 翌日、朝食の時、隣のテーブルにいた男がやけに周囲を見回していた。あいつが隣の部屋の男だろうな。朝食を終えているのにずっと見回しているし。まさか、僕達がその隣の部屋の住人だとは思えないだろう。


 そして、僕とノーチェは冒険者ギルドに向かった。

 開館前のギルドでは、また良い依頼を取ろうとして多くの冒険者がいたが、僕達はギルドの裏手に回る。

 今日は依頼ではなく、依頼の結果の聞き取りということで、今朝、朝食中にギルドの裏の訓練場に呼び出された。


「今日は来て下さりありがとうございます、ノーチェさん、ヴィンデさん」


 昨日居なかったペアトリスが訓練場の舞台にもたれるように立っていたが、僕達を見つけるとすぐに腰を浮かせて出迎えてくれた。

 相変わらず、サブさんというお爺さんが掃除をしているだけか。


「まずは、依頼に関しては申し訳ありませんでした。村移転作業中のため力仕事の依頼という依頼だったので引っ越し作業かと思ったら、川を埋め立てる作業だったとは知らず」

「いえ、すぐに終わりましたから、引っ越しのお手伝いより楽でしたよ」

「そう言っていただけると助かります。ところで、依頼の報告に、湖の底にブルードラゴンが沈んでいたとありましたが、その遺体はどちらに運んだのでしょうか?」


 ……え?


「あの、どうしてそのようなことを?」

「ブルードラゴンは生存している固体がとても少なく、例え腐っていても調査する価値があるからです。使える素材があるかもしれませんし」


 まずい、どんなウソをついたらいいんだ?

 谷に捨ててきたって言ったらいいのか?


 それだと谷に調査団が送り込まれ――そんな遺体はどこにもないってなる。


「ぶルードラゴンの遺体はヴィンデサンがハコンダノで、私はドコニアルノカ」


 そうだ、それでいい。嘘をつくのが下手なのか、かなりの大根役者っぷりだが。


「そうですか。では、ヴィンデさんに一緒に調査に来てもらうしかなさそうですね」


 そう言って、ペアトリスは空を飛ぶ僕を抱き寄せた。

 や、やめて――浮気と思われる。


 僕が手足をじたばたさせると、


「だ、ダメです!」


 ノーチェが僕を奪い返してくれた。


「でも、ブルードラゴンの調査は必須ですから。では、ノーチェさんも一緒に来てください。もちろん、依頼料は支払いますし、ブルードラゴンの遺体の所有権は発見者であるノーチェさんにありますから、既定の料金で買い取らせていただきますよ」


 んー、じゃあ、三人で行って、隙を見てアイテムBOXからブルードラゴンを出して、さも「ここに捨てました」ということにしたらいいか。


 そう思った時だった。


「……のう、ちょっと良いかの?」


 そう言って口を挟んだのはサブさんだった。

 頭の禿げたガタイのいいお爺さんだ。元気な老人のようで、昔は冒険者として名を馳せたと思う。


「どうしました? 支部長」


 とペアトリスが訊ねた。


 支部長!?


 ってことは、この人、この冒険者ギルドで一番偉い人?


「ヴィンデ君と言ったね。君と話したい。ワシの言葉がわかるじゃろ? 君の持つスキルなら」


 …………!?

 え、見抜かれた!?

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