表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/171

フェベの手紙

 ジルダさんが亡くなったのは2週間前。もともと肺を患っていたそうだが、湖の川を塞ぐ作業中、毒素を含んだ空気のせいで悪化。

 この世を去ることになったという。


 手紙の差出人、フェベは、ジルダの昔の恋人だったそうだ。

 だが、ジルダはメトラ村の村長の息子で、ジルダの父の圧力により二人は引き離され、ジルダは、クリストフェイの母親となる女性と結婚させられたそうだ。


 そして、手紙はというと、持って帰って処分してほしいとノーチェは言われた。

 墓前に供えるにしても、墓の中にはジルダだけではなく、彼の妻、つまりはクリストフェイの母も眠っている。

 そんなものを受け取っても困ると言われて。


 手紙の受け取りのサインだけは貰ったので、依頼としては達成になるのだが、なんともやるせない結果になってしまった。


 一晩寝てMPをすっかり回復させた僕は、翌日もノーチェと一緒に湖に向かい、浄化作業をすることにした。


 泡・水流操作ハイドロウェーブ・水浄化のコンボである。


 水浄化のレベルが3に上がっていたこともあり、初日よりも浄化の範囲が広くなったのか、10分経過したころには、水の透明度がかなり増したように思える。また、


【スキル:水浄化のレベルが4に上がった】


 これが決め手となった。

 あくまでも僕の体感による憶測でしかないが、浄化速度や範囲はレベルが1上がるごとに倍になっているように思える。

 レベル4になったことで、最初の8倍の速度、8倍の範囲をカバーできるようになって、実質64倍の浄化スピードになっているように思える。


 実際、レベル4に上がったら視界が急によくなった気がする。


 とはいえ、MPの消費スピードは変わることがないので、そろそろ限界だ。


 あともう一つ、


【スキル:水魔法のレベルが3に上がった】


 と叡智さんが僕の努力を認めてくれた。

 レベル3で覚えたのが、水鉄砲ウォーターガン

 虚空から水を生み出し、鉄砲のように撃ちだす。威力は結構高めだ。殺傷能力は低いが、脳震盪を起こす程度の力はある。


 それとこの水鉄砲ウォーターガン、虚空から水を打ち出すだけではなく、水がある場所でならその水を打ち出すこともできる。

 湖の水で試したから実証済み。


 とはいえ、今のところは活用方法は思いつかないので暫く封印することになると思う。

 火属性の魔物が出てきたら使ってみよう。


 最後に水流操作ハイドロウェーブで湖から出て、空から湖の様子を見る。

 だいぶ毒素も抜け、色も普通の湖とさほど変わらないようになっている。

 だが、水浄化をしても、どうやら土に染み込んで結晶となった毒素は浄化できないらしく、このままだとしばらくしたらまた湖に僅かではあるが毒素が溶け込むことになる。

 こんな状態では湖の水を川に放水することはできない。


 飛んでノーチェのところに戻ったら、彼女は地面に何かを植えていたようだが、僕に気付くと手を振って迎えてくれた。


「ヴィンデさん、お疲れ様でした」

「うん、ちょっと疲れたよ……あれ、ノーチェは何をしてるの?」

「種を植えてるんです」

「種?」


 とても小さな種を、ノーチェは湖の周りに地面を軽く掘って埋めていたという。


「はい、植物の大半は毒素のせいで枯れていましたが、この植物は毒素を吸収して育つ力がある種で、あと一ヶ月もしたら芽吹きの季節なんです。この花が咲く頃には、きっと湖も元の綺麗な湖に戻っていますよ」

「そうか……そうだといいね。あ、そろそろ乗合竜車の時間だ……じゃあ帰ろうか」

「そうですね」


 僕達はそう言って、乗合竜車へと向かった。

 乗合竜車はやはりというか、引っ越す村人で満員になりそうだったが、僕達は村からの依頼で来て川を塞いでくれた功労者ということで、村長の鶴の一声により優先的に竜車に乗せてもらった。


 この騒ぎはあと一週間は続き、二週間もすれば村から人はいなくなるという。


 僕は物語の主人公でもなければ、勇者などでもない。

 そんなことはわかっている。

 だけれども、多くのスキルを駆使してオークを倒しノーチェを救ったことで思いあがっていた。


 結局のところ、僕は何もできていない。

 手紙にしてもそうだ。結局は墓前に置いてくることすらできなかった。

 手紙に何が書いてあるのかわからないが……結局は全て無駄に……


『あれ、そういえばノーチェ、あの手紙はどうしたんだ?』


 僕が尋ねると、ノーチェは少し悲しそうな顔になり、小声で教えてくれた。


「あの封筒の中身、手紙だけじゃなかったんです」

『え?』

「花の種でした。悪いとは思ったんですけど、封筒の中を見たら花の種が二つ折りになった紙の間に入っていたんです。それもたくさん」


 それが……湖の毒素を吸収する花の種の出どころってわけか。

 そして、手紙には「毒素を吸収する花の種です。使ってください」とだけ書いてあったそうだ。


 その手紙も種と一緒に湖に埋めてきたという。

 ジルダが救おうとした湖を、フェベの力で救ってほしい、そんな気持ちがあったのだろう。


「あの花、咲くといいですね」

『咲くに決まってるさ。なんて言ったって、フェベさんの魂が篭っているんだからな』


 結局、フェベの手紙の魂アイテムを食べて得られるスキルはわからなかったし、僕達は村を救うことはできなかった。

 でも、なんでだろう。

 フェベさんの手紙の真実を聞くと、僕の心が少しだけ救われた……そんな気持ちになった。


 そして、僕達はグレッスの町へと戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ