湖の底に眠りし者
本日2回目です。
湖に近付いた僕達だったが、近付くととても臭い。
何かが腐ったような臭いだ。
実際、湖に生息していた魚たちは全滅しているのだろう。
思い出したのは、湖で今も元気にやっていると信じたい、僕の子供たちだ。
もしもこの湖のようなことが、彼らの住む湖に起きたらと思うと生きた心地がしない。
こんな異常事態の原因究明のためにも、何かしないとな。
一番最初に思いついたのは、とても簡単な方法。
僕には、井戸掘り職人の称号を手に入れたときに一緒に手に入れた水浄化というスキルがある。
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水浄化:Lv1 レア度:★★
レベルアップ条件:一定量、水から不純物を取り除く。
効果説明:MPを消費することで周囲の水を浄化する。レベルが上がると浄化速度と浄化範囲が上昇する。
入手条件:称号【井戸掘り職人】取得。
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よし、いっちょやってみるか。
湖岸に立ち、水浄化を発動させる。
MPが1秒に1ポイント下がって行く。
この調子だと15分ももたないな。
だが、それほど浄化できているという気はしない。
湖の紫部分が薄くなったと思ったら、周囲の紫が浸食するからだ。
よし。
「ノーチェは危険だから離れていて」
「ヴィンデさん、無茶だけはしないでください!」
もちろん、無茶はしないさ。
ただ、周囲の水を浄化するというのなら、湖岸にいるよりも湖の中心にいったほうが効率がいい。
さらに言うなら、湖の中に入ったほうが効率がいいに決まっている!
湖の中からは敵の気配なし!
ということで、泡展開!
飛び込みます!
湖の中は真っ暗で何も見えない。毒の成分のせいだろう。
泡も制限時間があるからな、今のうちに浄化開始!
【スキル:水浄化のレベルが2に上がった】
よし、不純物が多いおかげか、レベルアップが早いな。
まぁ、普通の人間じゃ、こんな長時間水浄化は使えないか。
とはいえ、5分経過、残り10分。
泡を使って、しかも水流操作を使用して移動しているため、MPの消費が早い。
これだけ使ってもまだ1割どころか1%も浄化できていない気がする。
【スキル:水浄化のレベルが3に上がった】
レベルアップはうれしいが……MPがそろそろ持たない。
水流操作を駆使して水上へと出ようとした、その時だった。
水流が変わったおかげで、何かが見えた気がした。
巨大な何かが、湖底に……。
「うっ、そろそろ限界だ」
最後の水流操作によって水上へと飛び出した僕は、空を飛んでノーチェの元へと戻った。
「ヴィンデさん、大丈夫ですか?」
「あぁ、MPが切れた。MP自動回復があるとはいえ、ちょっと回復に手間取ると思う」
あと最大MPが47増えたらMP自動回復のレベルが4に上がるんだけどな。
いっそのこと、リベルテにここの水を全部飲ませて浄化させようかとも思ったが、流石にあいつの容量も超えるだろうし、なにより、ここからだとあいつのいる海は遠すぎる。
アイテムBOXに入れるという案もあったが、無理だった。
例えばコップやバケツの中に入れた水だったりしたらアイテムBOXに入れることは可能なのだが、湖の中にある状態だとアイテムとして認識されないようでこれも断念。
やっぱり地道に浄化するしかないか。
幸いというか、水浄化もレベルアップしているし、この調子でレベルを上げたらなんとかなるだろう。
「それと、湖の底に、何かがあった気がするんだ。MPが回復したらもう一度潜ってみるよ」
「わかりました」
休憩中も、ノーチェが毒状態になっていないか1分置きにチェックしていた。
とりあえず昼食をとるが、臭いが身体についてしまっているのであまり食欲がわかない。
それはノーチェも同じのようだ。
「そうだ! 浄化!」
僕が魔法を唱えると、小さなアワアワが身体を包み込み、一瞬で身体の臭いがなくなった。これでMP消費はたったの1。
ノーチェにもかけてあげる。
「ひゃん、くすぐったいです」
「やっぱりノーチェは可愛い声だなぁ」
どこかのオヤジみたいなことを言いながらも、身体についた臭いがなくなったのにはノーチェも感激していた。
これで美味しい食事を食べることができた。
そして、1時間後、MPが100まで回復したところで、湖底に何かを見つけた場所までいき、泡を使用、水浄化をしながら、水流操作で潜って行った。
ぐっ、ここが一番毒素が強い。
そして、そこで僕が見つけたのは――
(こいつが原因か)
原因物質をアイテムBOXに収納。即座に湖の外に出た。
「ノーチェ! 原因を見つけた」
「何があったんですか?」
「あぁ……ええと、ノーチェは危険だから、少し離れたところにいて」
そして、僕はアイテムBOXから原因となったそれを取り出した。
途端に鼻を刺すような臭いが充満する。
「浄化! 浄化! 浄化! 浄化! 浄化!」
匂いを消す魔法を僕と、目の前のそれにかけた。
それで臭いが幾分かマシになる。
「ヴィンデさん、それ、もしかして」
「あぁ……ったく、なんでこんなもんが湖の下に沈んでるんだよ」
鱗も変色し、肉も腐っているが、間違いない。
こいつは――巨大な竜だ。




