滅びゆく村
草一本生えていない荒れ地のため、地竜の餌の都合もあり、メトラ村に到着後、すぐに発車すると言われた。
すぐに終わる仕事でもないため、それは構わないんだが……地竜大丈夫か?
「ちょっと待ってくれ、荷物は一人10キロまでだ! それを超える分は重量に応じた別料金をもらうし、それでも100キロを超える荷物は載せられないよ」
僕たちと入れ替わるように、大勢の人が多くの荷物を持って竜車に詰め寄った。
かなりもめているが、結局、一家族、7人とその大量の荷物を載せて、馬車は出発した。
馬車に乗れなかった人達は意気消沈という雰囲気で去ろうとしたので、ノーチェが一人を呼び止めて、ギルドからの依頼でやってきたことを伝え、依頼主の一人であるメトラ村の村長の家の場所を聞いた。
イライラしている様子だったが、手を出してこないので放っておく。
長老の家は、村の奥の煉瓦造りの家だった。そこそこ大きな家だが、グレッスの冒険者ギルドよりは小さいな。
この程度の家なら、僕の土魔法で作れそうな気がする。
そうだ、旅が終わってどこかに定住することになれば、僕が自分で家を設計して作ろう。
それにしても、村の中も草一本生えていないな。
川の水がないので、日照りかと思ったんだが、そんな感じじゃないんだよな。
むしろ、土は結構湿気ている気がする。少なくとも乾燥した土地じゃない。
でも……あそこなんて明らかに畑のはずなのに、作物が全部枯れている。
ノーチェは村長の家の呼び鈴につけられた紐をひいた。
すると、家の中から、一人の若い男が現れた。
「ごほっ……どちらさまですか?」
「ギルドから依頼を受けてきました、魔物使いのノーチェです。この人はヴィンデさんです」
ノーチェの紹介を受け、僕は会釈をした。
「ギルドの依頼……そうですか、貴方たちが……」
「引っ越しのお手伝いということでしたが、荷物を運べばいいんでしょうか?」
「いえ、荷物は全て自分で……ごほっ、運びます。ギルドに依頼したのは、川を塞ぐことです……が、それには強い力が必要でして……どう見ても貴女はそこまで力があるとは思えないんですが」
「いえ、力があるのはヴィンデさんのほうです」
男は、「え、この小さいのが?」という目でこっちを見てきやがった。
わかったよ、力を見せてやるよ。
こういう時に限って、何故か都合よく、大きな岩が家の前にあったりするからな。
僕は、G.F.サラマンダーくらいの大きさのある岩を掴み、それを真上に持ち上げた。
「……おぉ、小さいのに……ごほっ、なんという怪力。このドラゴンの力なら、あの仕事も可能でしょう。申し遅れました、私がこの村の村長をしているクリストフェルです」
「わかりました。あと、すみません。依頼がもう一つありまして、手紙の配達、ジルダさん宛てなんですが、受け取ってもらえないでしょうか?」
「……ジルダ宛ですか。彼のところには今回の依頼を終えてから案内しましょう。すみませんが時間がないので」
ノーチェが僕を見てきたので、僕は静かに頷いた。
ここは従った方がいいと思う。
それにしても、さっきから、このクリストフェル、酷い咳をしているな。
風邪でもひいてるのか?
水の流れていない川を上っていくと……何故か、紫色の靄のようなものが見えてきた。
そして、僕たちが見たのは……湖……ただし、紫色に染まっている。
そして、湖から川に流れる場所は木でせき止められているが、その木から少しであるが水が漏れ出ている。
湖の周りには、枯れ、葉が全て落ちた木が寂しく立っていた。
そして、村人と思われる数人の男が必死になって、せき止めている木の周りに土を盛り上げている。
「あそこの川を塞ぐためにあそこの岩を川に運んでほしいのです。村人10人がかりでも運べなくて」
確かに、大きな岩が一つ置かれている。
あれなら川を塞ぐのもだいぶ助かるだろう。
「あの……あの湖は一体」
「わかりません。何が原因でああなったのか。ただ、酷い毒性があり、そのせいでこのあたりの作物や植物は全滅しました。実は私も先日までここで作業をしていたのですが……ごほっ、ここの毒を浴びてしまい……」
なるほど、それで村人達が全員引っ越すってわけか。
竜車に乗った家族も、村から逃げ出したんだろう。
確かに、水源がこの状態だと、村としてはやっていけないだろうな。
こちら側の川の下流にはメトラ村だけでなく、他にも複数の町や村があるので、そこを守るためにも川を塞がないといけないという。ちなみに、メトラ村以外の町や村の川には、別の湖からの水の供給があるから、ここの川からの水がなくなっても平気なんだとか。
それと、この湖からはもう一つ、別方向にも流れている川があるのだが、ここの川を塞ぐまでは水量も少なかったため、人の住む村や町がないらしい。
よし、ならばいい方法がある。
『ノーチェ、川を塞ぐだけならすぐに解決できる。作業をしている人に川底から出るように言ってほしい』
僕の頼みを、ノーチェはクリストフェルに伝えた。
そして、クリストフェルが、川底で作業をしていた男達に出るように命令を出す。
『次に、ノーチェ、悪いが、クリストフェルさんに耳を塞ぐように言ってくれ』
「クリストフェルさん、すみませんが、耳を少し塞いでください」
「どうしてです?」
「えっと、それで解決するからです」
クリストフェルは怪訝な顔をしながらも、耳を塞いだ。
それで、僕は小声で魔法を唱えた。
「土壁、キュア!、ヒール」
その魔法により、川を塞ぐように土の壁が現れた。
ついでに、クリストフェルの毒を治療し、減っているHPも回復させる。
「おぉ、土魔法の使い手でしたか。助かりました。これで毒水が川に溢れる心配がなくなりました。……あれ? 何かすっとしたような。肩の荷が下りたからでしょうかね。依頼の達成のサインをしますから、村に戻りましょう。みなさんも御苦労様でした!」
クリストフェルの声に、作業をしていた男達が応じて村へと歩き出した。
そして、僕たちも帰ると思ったんだが、
「ヴィンデさん、なんとかなりませんかね、この湖……」
『なんとかって……んー、やれるかわからないけど、やってみるか』
「……はい!」
ノーチェは、ちょっとこのあたりの調査をしてから村に戻るとクリストフェルに告げた。
とはいえ、そこそこ大きな湖だ。僕にやれることがあるのかな。
ボツ解決案。
【リベルテを連れて来て、湖の水を全部飲み干してもらう】
 




