村までの旅路
竜車に乗って移動すると魔物が寄ってこないから楽だなぁ。
遠くにサンライオンの姿が見えたけど、地竜を見るなり逃げて行った。
僕と同じ感想を持ったらしく、ノーチェも独り言のようにそう呟くと、御者の、良く日焼けした茶髪のおじさんが、笑いながら言った。
「だね。地竜を襲う魔物がいるとしたら、このあたりだと翼竜くらいなものさ。といっても、滅多に出るものじゃない、俺も竜車の御者をすること15年だが、一度も見たことないな」
……そんな珍しい翼竜を2回も見た僕ってどれだけ運がないんだろ?
いや、むしろそんな強敵を2回も見て、さらに1回襲われたにも関わらず五体満足で生きていられた僕は運がいいんだろうか?
幸運値が増える称号も持ってるし。
にしても、誰も乗ってないんだなぁ、竜車。
僕たちの貸し切りか。
こんなので採算取れるんだろうか?
それにしても、村人全員引っ越しって、どういうことだ?
不動産屋と引っ越し業者は大儲けだろうな。
『ノーチェ、村につくまで修行をしよう。僕にヒールをかけ続けるんだ。僕は献身でノーチェにMPを送り続けるから。一応、御者の人に断りを入れて』
かつて僕とアロエの二人でやった修行方法だ。これで無限にスキルを成長させることができる。
あの時、もう少しやっておけばよかったと後悔しているけどね。
ノーチェも頷き、結果、僕とノーチェは献身と回復魔法のコンボに勤しんだ。
その結果、ノーチェの回復魔法レベルは2に、僕の献身レベルは3に上がった。
回復魔法レベル2で覚えられる魔法はヒールフォルテ。ヒールの強化系の魔法……ってあぁ、そんな魔法あったな。
いっつもヒールを連打してたから忘れていたが、MPの効率的にはこっちのほうがいいらしい。
消費MP1.5倍で、回復量は2倍らしいからな。
でも、スキルを成長させるには、ヒール連打のほうが都合がいいしね。
というのは言い訳で、本当に忘れていた。
だって、スキル一覧を見ても魔法の名前まで表示できないだろ? そんなのいちいち覚えていられないよ。
魔法一覧が見られたらそんな間違いなんてするわけないのに。
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使用可能魔法一覧
火魔法:Lv1 着火
水魔法:Lv1 水球 Lv2 水流操作
風魔法:Lv1 微風
土魔法:Lv1 土針 Lv2 落穴 Lv3 土壁 Lv4土人形
回復魔法:Lv1 ヒール Lv2 ヒールフォルテ Lv3 キュア
探知魔法:Lv1 水探知 Lv8 魂探知
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……あったんですね。
叡智さん、すみません。
君とは長い付き合いですが今まで気付きませんでした。
いや、叡智さんじゃなくて、ステータス把握さんかもしれないな。
それにしても、本当に魔法なのに必殺技的な要素が皆無だ。
そして、もう少しで目的地というところで休憩することにした。
んー、ノーチェに今後魔法書を作成して渡すためにも、使える魔法を増やしたほうがいいかもな。
例えば、光魔法、なんてノーチェにぴったりだと思うし。
てか、魔法ってどれだけあるんだ?
叡智さん、教えて下さい。
【スキルポイントを3支払い、生活魔法を取得しますか?】
【スキルポイントを8支払い、雷魔法を取得しますか?】
【スキルポイントを10支払い、光魔法を取得しますか?】
【スキルポイントを10支払い、闇魔法を取得しますか?】
【スキルポイントを15支払い、補助魔法を取得しますか?】
【スキルポイントを15支払い、氷魔法を取得しますか?】
【スキルポイントを20支払い、呪詛魔法を取得しますか?】
【スキルポイントを30支払い、封印魔法を取得しますか?】
【火炎魔法を取得するにはスキルポイントが足りません】
【氷結魔法を取得するにはスキルポイントが足りません】
【時間魔法を取得するにはスキルポイントが足りません】
【空間魔法を取得するにはスキルポイントが足りません】
【暗黒魔法を取得するにはスキルポイントが足りません】
【植物魔法を取得するにはスキルポイントが足りません】
【即死魔法を取得するにはスキルポイントが足りません】
【融合魔法を取得するにはスキルポイントが足りません】
【時空間魔法を取得するにはスキルポイントが足りません】
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ストップストップ!
わかったわかった。
とりあえず、今、31ポイントで覚えられるスキルはわかったからこれでいい。
あと、やはりというか、前にも確認していたことだが、覚えられたら便利だな、って思ってしまった妖精魔法はなかった。
妖精族の固有スキルのようだ。
でも、フレーズに魔法書記を覚えさせたら、もしかしたら魔法書を作ってもらえるんじゃないだろうか?
今度会ったら試してもらおう。
経験値貯金を殖やしてフレーズのレベルを上げてスキルポイントで入手してもらえばいいか……あ、でも経験値貯金は今のところはノーチェに使ってあげたいからな。悩ましい選択だ。
とりあえず、今覚えられる魔法の中で気になったのは3つだ。
まずは、最初から気になっていた光魔法。
そして、補助魔法。
最後に、一番手ごろな生活魔法だ。
ノーチェを後衛補助として成長させるには、補助魔法があれば絶対に便利だろうし……その、家庭を支えてくれるとしたらやっぱり生活魔法とか便利そうだ。
よし、決めた。3つとも取得しよう。
【スキル:生活魔法を取得した】
【スキル:光魔法を取得した】
【スキル:補助魔法を取得した】
生活魔法レベル1で覚えられるスキルは、浄化。綺麗にする魔法か。
光魔法レベル1で覚えられるスキルは、明かり。これは光の球でも出すのかな。
補助魔法レベル1で覚えられるスキルは早足。名前から察するに速度補正だろう。
これで残りスキルポイントが3まで減ってしまった。
でもまぁ、絶対に役立つ魔法ばかりだし、覚えて損はないと思う。
とりあえずは宿屋で借りるランプ代は浮くことだろう。
今作成中の水球の魔法書ができたら、ノーチェにも浄化を覚えてもらわないとな。
「寂しい場所ですね」
ふとノーチェの言葉に、僕は思考の世界から現実へと呼び戻された。
いけないいけない、婚前旅行中だというのにノーチェのことを放ったらかしにするなんて、ダメな婚約者だ。
ノーチェの言葉に僕も辺りを見回すと、確かにさきほどまでの草原と違い、草一本生えていない荒れ地が続いた。
そして、さらに30分後、僕たちが着いたのは……これから滅びゆく村だった。




