今度こそ冒険者ギルドに登録しました
瀕死の重傷を負ったリバーダイル、殺しはしていないが、HP自動回復を持っていない彼にとっては全治数週間の大怪我ともいえる。
だが――、
『ノーチェ、例のあれ、読んだか?』
「あ、すみません、すぐに見ます」
ノーチェは僕が渡した例のアイテムを読み忘れていたようだ。まぁ、試合は一瞬で終わったし、僕のことを心配してくれていたんだろうな。ちなみに、セオドアは瀕死の重傷を負ったリバーダイルに対してかけよることもせず、口を開けて呆けていた。
(ヴィンデさん、これ?)
囁くようにノーチェが訊ねた。
『ヒールの魔法書だ』
(貴重なものじゃないんですか?)
『全然。だって、僕が作ったアイテムだし。使ったアイテムは木の枝だけ』
(作った……凄い、そんなことが可能なんですね。まるで大賢者ナガルスみたいです)
よし、ノーチェの好感度と尊敬度がさらにUP。
ノーチェは僕に言われた通り、ヒールの魔法書を読んで、ヒールを覚えた。と同時に、癒し手の称号を獲得。
最大HPが1、最大MPが2増え、回復魔法のスキルも獲得している。
次は、火、水、土の魔法を覚えてもらって、四大元素魔術師の称号もとってもらおう。
そして、ノーチェはリバーダイルへとかけより、
「ヒール」
と魔法を唱えた。淡い光がリバーダイルを包み、HPを30程度回復させる。
魔力が低いのでそれが限度か。
それでもまぁ、リバーダイルは気絶から回復した。
「凄い……回復魔法を使える人、初めて見た」
ペアトリスが驚くように呟いた。
え? 回復魔法ってそんなに珍しいの?
まぁ、確かに必要なスキルポイントが10と、土・火・水・風の四大元の魔法の倍はスキルポイントが必要だったけど、僕にとってはかなり初期に覚えた魔法だったんだけど。
3回のヒールでリバーダイルのHPもほぼ全回復した。少しノーチェが疲れているようだったが、そこは内助の功、僕がすかさず献身を使ってノーチェのMPを回復した。
「では、ノーチェさん、受付に戻りましょうか」
ペアトリスさんはだいぶ冷静さを取り戻し、僕たちは受付へと再度案内された。
「改めまして、ノーチェさんをGランクの冒険者として、ヴィンデさんを冒険者ギルドの認めた従魔として認定いたします。登録料には銀貨3枚、銅貨50枚必要です、よろしいですか?」
「はい」
ノーチェはそう言って、銀貨4枚を財布から出した。
そして、銅貨50枚と、ギルドメンバーのカード、一つの首輪が渡された。
「従魔は一年に一度、最寄りの冒険者ギルドで更新の必要があります。更新は無料で、更新時期になると首輪のガラス玉が赤く光りますので、もしも赤く光ったら忘れずに冒険者ギルドに行ってください。なお、カード、従魔の首輪ともに再発行は可能ですが、その場合の手数料は登録料の10倍の価格が必要です。また、従魔が亡くなった場合、首輪は速やかに最寄りの冒険者ギルドに返却ください」
「あの、この首輪、ヴィンデさんの首よりも大きいみたいなんですが」
「首輪はサイズフリーの魔法が込められています。ヴィンデさんの首に通してください」
ノーチェは言われた通りに首元に首輪を持っていくと、首輪がひとりでに小さくなり、僕の首にぴったりはまった。
【称号:飼い犬を取得した】
あまりうれしい称号じゃないな。犬じゃないし。
ちなみに、飼い犬のボーナスは、「スキル:一発芸」のレベルアップらしい。一発芸を持っていない僕には関係のない称号だが、それでも称号変換のスキルのおかげでステータスが2増えるのは助かる。それに、これで称号が86個になった。
あと14個増えて100個になれば一気にステータスがUPするだろうから、一個一個の称号は大事にしないとな。
そうだ、一発芸を覚えて鍛えたら、芸達者みたいな称号が手に入るんじゃないだろうか?
いや、むしろ芸達者の称号を手に入れたら一発芸が手に入るのか?
あと、ノーチェも【冒険者】の称号を手に入れて、HPが2上がっている。
……人化の術が使えるようになったら僕も冒険者にならないとな。
「ギルドランクの説明を致します。ギルドランクはランクに応じた依頼を一定数達成するごとにGからF、E、Dと上がって行きます。ランクC以上になるにはギルドの試験を受ける必要があります。依頼はあちらの掲示板に貼られていますので、その紙を持ってきてください。こちらがギルド規約になりますので、必ず一度は目を通してくださいね」
ペアトリスはそう言って、辞書のように分厚い本をノーチェに渡した。
「他に何かご質問はありますか?」
「あ、あの、私、オークについて調べているんですけれど、魔物の生態について書かれた書物はありますか?」
ノーチェが訊ねた。
あぁ、僕はすっかり忘れていた。そういえばそんな目的もあったな。
「ギルド図書館内にございますが、図書館利用はギルド会員のEランク以上の方に限られています。保安上の理由ですので申し訳ありません」
「そうですか。あと、ヴィンデさんと一緒に泊まれる宿ってありますか?」
「従魔の首輪を付けておられるのなら、冒険者ギルド直営の宿なら全ての宿で宿泊可能です。ギルドの横にある黄色い建物がそうですよ」
「わかりました」
「大浴場も従魔同伴可能ですので、戦いの疲れを癒してくださいね」
――まさかの混浴!?
「お風呂ですか。楽しみですね、ヴィンデさん」
無邪気な笑顔を浮かべるノーチェに、僕はなんて答えたらいいかわからなかった。
えっと、いいの?
ギルドの横の黄色い建物というのはもちろんすぐに見つかり、宿屋もすぐに取れた。
1ヵ月以上の連泊なら部屋代が半額になるうえ、半月以内に宿を出た場合は差額が返ってくるという説明書きを見つけた僕の指示で、とりあえず部屋を1ヵ月借り、その代金を支払った。
銀貨15枚と高額でこそあったが、なんと、僕用の小さめのベッドまで用意されている。とてもありがたい配慮だ。
流石は魔物使いの聖地だけはある。
あぁ、気持ちいいな。
このまま眠っちゃいたい。
でも、待った。
「ノーチェ、一緒に買い物に行こうか」
「買い物ですか?」
「うん、最低限の品物は持っているけどさ、でも弓矢は買っておきたいし、防具もあったほうがいいでしょ? それに――」
さっき、使ってみたんだよね。
魂探知の魔法。
そうしたら、あったんだ。魂が込められたアイテムの気配が。
スキルGETチャンスがここでやってきたってわけだ。




