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ヴィンデ対リバーダイル

【セオドア:HP158/158】

【リバーダイル:HP92/92】


 うん、ここに居る中では結構中堅タイプの冒険者だ。

 HPだけでいえば、僕たちの10倍近い。


 だが、索敵によると、セオドアは薄い赤、リバーダイルはほとんど白だし、僕の敵じゃないな。

 それにしても、僕がベビードラゴンじゃないってどういうことだ?


「俺様はな、驚くなよ、相手のHPがわかるんだ」


 おぉ、そうなのか。お前もHPが見えるのか。

 それは凄いな、ステータス把握を持ってるのか。

 ステータス把握だと、本当なら種族名も見えるはずなんだが、僕の場合は名前があるから、種族名がわからないんだろう。

 なんでセオドアはリバーダイルに名前をつけないんだろうな、それなら称号により全ステータスが上がるのに。


「それで、そのベビードラゴンもどきのHPはたったの13しかない。そんな雑魚がベビードラゴンなわけないだろ。ただ見た目がそっくりなトカゲじゃないのか?」


 あぁ、そういう理屈か。確かに、ベビードラゴンはレベル1でも結構HPは高いからな。

 確かに、HPしか見えないのなら、しかも、ベビードラゴンについて多少の知識があるのなら、偽物だと思うよな。


 にしても、ドラゴンになってまでトカゲ呼ばわりされる運命なのか、僕は。

 結局、ドラゴンに進化するまで、爬虫類に一度もなることはなかったのに。


「ヴィンデさんは立派なドラゴンです、偽物なんかじゃありません!」

「はん、口でなら何とでも言えるよ。お前の魔物使いの才能は少しは認めてやるがよ、偽物を本物と言い張るようじゃギルド員として迎えられないんじゃないか? なぁ、ペアトリスさん。あなたもそう思うでしょ?」


 セオドアはそう言って、明らかにペアトリスに御機嫌窺いをするように言った。

 あぁ、なんとなくわかった。この男、ペアトリスに惚れているんだ。

 それで、いいところを見せようとノーチェに絡んでいるんだろうな。

 自分の知識と能力をひけらかそうと。


「もしもそのドラゴンが本物だって言うんなら戦って見せろよ、俺様の可愛いリバーダイルちゃんと。もっとも、HP13じゃ、リバーダイルちゃんの一撃で死んじまうだろうがな」

「それは……」


 ノーチェが口を噤んでしまう。

 言い澱んだ彼女を見て、セオドアが高笑いし、それに合わせてリバーダイルも笑った。

 僕のことをバカにするのは構わないが、ノーチェをバカにするのは許せない。


『ノーチェ、勝負を受けよう。安心してくれ、あんなワニ公に負けたりしない。それに手加減をするからワニを殺したりもしないよ。僕を信用してほしい。このまま冒険者に成れなかったら困るしね』

「わかりました。勝負を受けましょう。ペアトリスさん、よろしいでしょうか?」

「はい、ギルドには一応魔物同士を戦わせる舞台は無料で貸し出しておりまして、今は誰も使っていませんが、本当によろしいのですか? 舞台上で起きたトラブルにギルドは一切関知できませんが」

「問題ありません。ヴィンデさんが負けるわけありませんから」

「そうですか。では、セオドアさんもこちらへどうぞ」


 ペアトリスは少しめんどくさそうに、そして明らかに僕のことを心配して案内してくれた。


「……あの、セオドアさん、あまり無茶しないでくださいね」

「あぁ、わかってるよ。殺さないように努力するって。一撃で死んだら知らねぇけどよ」


 ガハハハと笑うセオドアを見て、ペアトリスは再び嘆息を漏らした。

 絶対わかってないよ、この人って顔をしている。

 うん、気持ちはわかる。きっと今までも散々問題を起こしてきたんだろうな。


『そうだ、ノーチェ。昨日の夜完成したものがあるんだ。アイテムBOXの中からノーチェの鞄に移したから、試合中にそれを使っておいてよ。絶対に役に立つから』


 本当は夜に宿屋でゆっくり渡す予定だったんだけどな。

 仕方がない。


 ノーチェは僕を見て、「わかりました」と唇を動かして頷いた。


 そして、ギルドの裏にある闘技場に移動する。

 闘技場では、掃除をしている爺さんがいるだけで、他に人はいない。


「ちっ、ギャラリーはサブさんだけか。まぁいい。行け、リバーダイルちゃん!」


 セオドアはワニから降りると、リバーダイルを舞台の上に登らせる。


「頑張ってください、ヴィンデさん!」


 ノーチェの声援を受け、僕も舞台の上を登った。

 まだ翼が治っていないので空を飛ぶことはできない。

 大きな舞台をよじ登るように、舞台の床を掴み、足をバタバタさせて上がった。


「か……かわいい」


 ペアトリスが呟くように言ったのを、僕は確かに聞いた。

 うん、そういえばフレーズにも言われたな……この姿、女の子に人気がありそうだ。

 もちろん、だからといって浮気はしないけどね。僕はノーチェ一筋だし。


「では、勝負は私が止めるか、どちらかが気絶、もしくは主人が負けを認めるまでです。試合、開始!」


 試合が始まった。

 さて、僕はここで圧倒的に勝つことでノーチェの評価を上げさせるつもりだ。

 そのためには簡単に勝ったら面白くない。


 僕はワニに対して念話を送った。


『かかってきな、爬虫類のワニやろう! それともドラゴンである僕に恐れをなして逃げるか?』


 言葉が通じるかわからないが、できる限り悪意を込めて言ってみた。人差し指でくいくいと。

 リバーダイルはその挑発にのり、僕に襲い掛かってきた。


 口を空けて噛みつこうと――いや、噛みついてきた。


「ヴィンデさん!」


 ノーチェの悲鳴が響いた。

 だが――リバーダイルは僕に噛みついた途端、思わず口を開く。


 当たり前だ。リバーダイルとは森の中で何度か戦ったことがあるが、ファイヤーサラマンダーの時ですら僕に与えられたダメージは1とか2だった。今の僕の防御力にダメージを与えられるわけがない。それどころか、僕のスキル「鮫肌」によって、逆にリバーダイルにダメージを1与えた。


 ただそれだけで、リバーダイルは本能的に理解したのだ。

 戦ってはいけない相手だと。


 バカの配下にしてはやるじゃないか。


「おい、どうした! リバーダイルちゃん!」


 HPが見えるのに、こいつは理解していないのか。

 ならば、悪いな、防御面はすでに見せた。次は攻撃面だ。


 ヴィンデバリスタは一見するとただの体当たりだからな、もっと派手な技で決める。

 僕は大きく息を吸い込んだ。


――奥義、ヴィンデジェットエンジン!


 口からドラゴンブレスを吹き出し、その勢いで相手に体当たりをする。

 派手な割に今のところ与えられるダメージが少ないのが難点。


 それでも十分ダメージは与えたようで、


【リバーダイル:HP1/92】


 となった。


【称号:寸止めの達人を取得した】

【スキル:手加減攻撃のレベルが2に上がった】


 2連続HPを1にして殺さなかったことでもらえる称号か。

 確か、手加減攻撃の、スキルポイントを使わない正規の入手方法だったな。

 最大HPが2増えたのは助かる。


 そしてリバーダイルはその一撃で場外にふっとび、のびてしまった。

 よし、これで勝負ありだよな。


 ってあれ? 勝利宣言は?

 見ると、ペアトリスもセオドアも、僕の戦いの光景に開いた口がふさがらない様子だ。


『ノーチェ、ペアトリスの肩を叩いてくれ』


 僕が頼むと、ノーチェはペアトリスの肩をちょんちょんと人差し指でつつくと、彼女は正常状態に戻り、


「…………しょ、勝負あり! ヴィンデの勝ちとします」


 ようやく僕の勝ちを宣言した。

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