圧倒的なステータスの差の戦い
僕の小さな体による体当たり、ヴィンデ対空砲、数百キロはあるかと思えるオーク大将の身体を吹き飛ばすくらいの力があった。
にもかかわらず、大したダメージを受けていない状況に、僕は焦っていた。
これが、ステータスの差。
無謀と言われる戦い。
ここは天幕の中だったらしく、音を立てて燃えていて、先ほどから何匹かのオーク兵の経験値が入ってきている。
熱せられた大地の上で立っていられるのは、100%を越える火耐性を持つ僕と、強靭な身体を持つこのオーク隊長くらいなものだろう。
「ふん、さっきの攻撃は挨拶代わりだ」
「ヒトノコトバツカウ、ヨワクチイサキモノ、ワレニタタカイヲイドムカ」
喋った!?
いや、こいつは言語理解のスキルを持っていた。話せるのは当然か。フレーズも人間の言葉を使ってたって言ってたし。
にしてはやけに片言だが。
「あぁ、俺はお前を倒すためにここに来た!」
「ナニユエダ?」
「僕に勝てたら教えてやるよ」
「ソレワムリダ。ワレカツ、オマエ、シヌ」
笑みを浮かべるも、その佇まいに一点の隙も見当たらない。
せめて強者の余裕で一発殴って見ろ、とか言ってくれないか?
いや、もしかしたらさっきの一撃がそうだったのかもしれない。
「はん、確かにお前はステータスは高いが、ステータスだけで勝てると思うなよ!」
突如、急浮上! 猪突猛進!
二つのスキルを発動させ、角で天幕を突き破り、上空へと飛びあがった。
「覚悟しろ!」
アイテムBOXからの――さっき回収した弓矢攻撃!
ただ弓矢を落とすだけの攻撃だ。
1でもいい、HPを削れたらそれで。
だが、オーク大将が斧を一振りすると、突風が巻き起こり、矢があらぬ方向へと飛んでいく。
ぐっ、ならこれはどうだ!
アイテムBOXからの――適当に回収した大きめの岩!
「コザカシイ!」
オーク大将は斧を頭上で回転させ、降り注ぐ岩を全て弾き飛ばした。
「ぐぉぉぉぉがぁぁぁっ!」
オーク大将の声とともに、天幕の周りにいるオーク兵たちが弓矢を構え、矢を飛ばしてきた。
それが効かないのはこっちも同じだ。
アイテムBOX、回収!
矢を次々に回収していく。
そして、矢も岩も効かないなら、これはどうだ!
僕は大きく口を開き、水を飛ばした。
酸攻撃!
せめて斧が溶けたら、なんて思いながら。
だが、その酸でさえも、オーク大将は突風で弾き飛ばしてしまう。
オーク大将は天幕の外へと出た。
そして、こちらを見て斧を構える。
……おい、まさか突風で僕を飛ばすつもりか?
そう思ったら、オーク大将はあろうことか斧をこちら向けて投げてきた。
しめた、これならアイテムBOXに回収――できないっ!
なんと、オーク大将はあろうことか斧の柄の部分にロープを結び付けていた。
そして、そのロープはまだオーク大将が持ったままだ。
「ぐあぁぁぁぁっ!」
急旋回を駆使したが躱しきれなかった。
翼が――僕の右翼が切り落とされた。
落下を始める僕の身体。
僕は落下しながらミニドラゴンブレスでロープを焼き切った。
斧は谷のほうへと飛んでいく。
……だが、このままだと落ちてしまう。
左翼を羽ばたかせるもバランスを失った僕の落下は止まらない。
「微風!」
風で身体を持ち上げようとするが、効果は薄い。
このままだと地面に直撃してしまう。
泡! 泡! 泡! 泡!
パンっ、パンっ、パンっ、と泡を割りながら僕は減速していき、それでも地面に叩きつけられる。
【スキル:軟着陸のレベルが4に上がった】
【スキル:軟着陸のレベルが5に上がった】
「ぐっ、ヒール、ヒール!」
回復魔法で止血、HPを回復させるも、HPが全快まで回復しない。
右翼がなくなった。部位欠損だ。
オーク大将がゆっくりとこちらに近付いてくる。
僕にとどめをさすつもりなんだろう。
でも、奴は斧がない。
今なら攻撃が通じる。
僕は毒針を放つ。
麻痺攻撃を付加させて。
だが、麻痺にならない。オーク大将は確実にこちらに近付いてきている。
「ヒール!」
毒針使用によるHPの減少をリカバーする。
僕は大きく息を吸い込み、
ミニドラゴンブレス!
炎を放つ!
だが――その炎の中を、悠然とオーク大将は歩いてきた。
【オーク大将:HP2590/3041】
勝てない……このままだとこいつには絶対に勝てない。
覚悟を決めるしか、いや、覚悟はすでに決めている!
「サラバダ、ヨワキモノヲ」
そう言って、オーク大将が拳を上げた。
【スキル:命の燃焼を使用しますか?】
これを使うときがきた。




