名前はあなたと会うための絆
夜を待った。空を見上げると、星空がきれいに見えた。日本では見ることができない星空。
……といっても、日本で星を見た記憶は消えてるんだけどね。
完全とは言い難いが、それでも闇の中、僕は川を下っていく。
エルフの村では緊張したが、この黒い身体のおかげか、誰にも見つかることなくさらに下流に進むことができた。
下流からエルフの村を見る。
ノーチェ、無事に村に戻れただろうか?
うん、彼女はいい子だ。多少誤解があっても、最終的には村のみんな認めてくれるだろう。
そう思い、さらに下流へと進む。
そして、エルフの村が見えなくなったころ……僕は彼女を見つけた。
二度と出会えないと思っていた彼女が。
……どうしてここに。
「……ノーチェっ!」
僕は思わず叫んでいた。すぐに、それは他のエルフに聞こえる可能性もある愚行だと悟ったが、でも僕は叫ばずにはいられなかった。
僕が恋したエルフ。ノーチェがそこにいたのだから。
「お魚さん……行くんですか?」
「ああ。迷惑をかけた。僕は海を目指すよ」
そう言うと、ノーチェはとても悔しそうな顔をした。
きっと、僕のことを村の人に説明したんだろう。
彼女は。
でも、村の人は誰一人僕のことを認めてくれなかった。
口で言わなくてもわかるよ。
「お魚さん、私も一緒に海に行ったらダメですか?」
「え? ノーチェも!」
「はい、私もお魚さんと一緒に……」
とても嬉しい。
嬉しすぎる。
一目惚れした女の子と二人……一人と一匹だけど、まぁ、二人旅。
こんな上手い話があっていいのだろうか?
いや、ない!
でも――
「ダメだ、ノーチェ。君は村に戻るんだ」
「……やっぱり、ダメなんですか?」
「ああ。君はエラ呼吸ができない。海の中では生きていられない」
「……はい。私は肺呼吸しかできません。あと、塩を食べすぎたら病気になります」
うん、君は人だ。エラ呼吸はできない。塩分の多量摂取は身体に毒だ。
「それに、僕はまだまだ弱い。いざというときに、陸地で君が襲われても助けることができない」
「……私も、強くありません」
うん、狼に襲われているんだから。HPも僕より低い。
「でも、もし、僕がブラックドラゴンになって、神様からご褒美を貰えて、人間に生まれ変わることができたら、結婚して欲しい」
「人間に……生まれ変わる?」
「ああ、僕は神様と約束したんだ! ブラックドラゴンになるって! その時に神様からご褒美を貰える! もしかしたら、人にもなれるかもしれない!」
僕はそう告白した。
普通の人が聞いたら頭がおかしいんじゃないかと思える、僕自身も半信半疑の事実を語った。
でも、彼女は僕の話を黙って聞いてくれた。
たぶん、信じてくれた。
「だから、その時、もう一度会ってほしい! そのために、僕に名前が欲しい。姿が変わっても、僕が僕だという証を! 君に名付けてほしい」
「……そんな大切なこと、私でいいんですか!」
「君じゃないとダメなんだ!」
僕が言う。
僕と彼女の絆を得るために。
僕の言葉に、彼女は考えた。考えてくれた。
暫く待って、少女は告げる。
僕の名前を。
僕の、新たな名前を。
「ヴィンデ! お魚さんの名前はヴィンデさんです!」
「ありがとう、いい名前だ!」
【****の名前をヴィンデにします。よろしいですか?】
もちろんだ。
ヴィンデ。これが今日からの僕の名前だ。
【名前をヴィンデに設定しました】
【称号:ネームドモンスターを取得した】
【スキル:忠義を取得した】
あぁ、やっぱり僕はモンスターなのか。
改めで自分が人間でないことを再認識し、それでも人になるために僕は海へ行く。
「またね、ノーチェ」
「絶対会いに来てください、ヴィンデさん」
僕は彼女に尾びれを向け、川を下っていく。
彼女にまた会うために。
……………………………………
名前:ヴィンデ
種族:ブラックリトルシャーク
レベル:3
HP 27/27
MP 20/20
状態:記憶喪失
スキルポイント4
攻撃 25
防御 20
速度 24
魔力 13
幸運 27
経験値補正+10%
スキル:【捕食:Lv2】【言語理解:Lv1】【叡智:Lv1】【ステータス把握:Lv2】【スキル鑑定:Lv2】【索敵:Lv1】【泡:Lv1】【献身:Lv1】【硬い鱗:Lv1】【鋭い歯:Lv1】【肺呼吸:Lv1】【土魔法:Lv1】【鮫肌:Lv1】【HP自動回復:Lv1】【忠義:Lv1】
称号:【転生者】【異世界魚】【記憶喪失】【捕食者】【蟹の天敵】【子持ち】【子沢山】【スキル収集家見習い】【魔術師】【出世魚】【称号収集家見習い】【ハートブレイク】【ネームドモンスター】
……………………………………
ネームドモンスターのためか、ステータスが1ずつ増えている。
名前を貰ってまさかこんな恩恵を得られるとは思わなかったな。
そして、僕がこの名前に込められた名前の意味を知るのは、もう少し先の話。




