気が付いたらブラックバスでした
だ、ダメだ、そんなところ擦らないでくれ。
マジでダメだって、いきなり何をしてるんだよ!
ていうか、え? 本当に何?
意識がもうろうとして、目も開けられないのに……ってうわっ!
あれ? ここはどこだ?
水の中?
夢?
夢じゃない?
でも、水の中なのに苦しくない。
どうして水の中にいるかわからない。声が出ない。
そして、振り返るとそこに――僕と同じくらいの大きさの巨大な魚がいた。
化け物魚だ、食われる!
そう思ったが、その魚には見覚えがあった。
あれ? もしかして、ブラックバス?
なんでこんな大きなブラックバスが?
そのブラックバスは僕から興味を失ったのか、横穴の奥へと泳ぎ去った。
一体、あれはなんだったんだ?
悪い夢でも見ているのではないか?
そんなことを思いながら、僕は水の底に沈んだ鏡を見つけた。
あそこの前まで行きたい。
そう願い、僕は身体をくねらせてこの身を沈めていく。
その鏡に映っていたのは――またもや僕と同じくらいの大きさのブラックバスだった。そして、そのブラックバスは僕だった。
え、なんでブラックバス?
叫んでみたいが、声がでない。
えっと、まず、自分の状況を整理……したいんだけど。
僕は日本人だった。
それは覚えている。だけど、あれ? 僕は誰だ?
名前は? 年齢は? 住所は? 好きなアイドルは? 思い出せない、もしかして、ブラックバスの脳は小さいから一部情報を捨てられてしまった?
って、なんで僕がブラックバスになってることを素直に受け入れてるんだよ。
まずは疑うことから始めないと。
あ、記憶喪失でも、いらない知識はいっぱいあるな。
これって、もしかして人外転生ってやつじゃないのか?
でも、転生って最初は生まれたところからはじまるものじゃないの?
目の前の僕は、どうみても成魚だ。
……よし、まずは状況を把握しよう。
Q:僕の名前は? A:わかりません。
よし、一歩前進したのか後退したのかわからないが、このペースで状況確認をしていこう。
【称号:“記憶喪失”を取得した】
【スキル:叡智を取得した】
え、なんか出た!
せっかく前進したのに、さらに新たな問題とかやめてほしい。
称号って何? スキルって何?
ゲーム? ゲームのあれ?
叡智って魔法なのかな?
叡智! 叡智発動! 叡智いけ! 叡智、君に決めた!
反応がない。
えっと、覚えたのって叡智だよね? 記憶喪失なのに叡智?
よくわからない。
考えてもわからないものは後回しにするのが僕の主義だ。
人間あきらめが肝心だよね。
人間じゃないけどさ。
Q:僕の下にあるのは何? A:魚卵。
そう、僕の下には魚卵があった。
魚の卵だ。
Q:誰の卵? A:さっきのブラックバスのかも?
Q:父親は誰? A:……もしかして僕?
そういえば、さっき僕の大事な部分を思いっきり刺激された。
あの時、それで思わず……あぁ、そういうことだよね。
あのブラックバス、僕のことを逆レ○プしやがったのか!
……てか、DTなのに父親とかやめてくれよ。一体、何個あるんだよ。
で、そのメスブラックバスは?
どこかに行ったのか? 子供を置いて?
……僕は面倒みないからね。
だって、生まれてくるブラックバスの稚魚に「パパぁ」と言われても困る。
むしろ、僕のエサにしてやろうか?
そう思って、口に卵を近づけるが……なんだ、これ。
絶対にそんなことをしてはいけない、という忌避感がある。
まさか、これが父性本能?
お腹空いたなぁ……何か食べ物ないかな。
そう思った時だった。
何かが動いた。
……この水にいるのは僕とメスブラックバスだけ……じゃないのか?
そう思ったら、そこに奴がいた。
くそっ、いきなり敵が現れた。
僕はこいつに勝てるのか?
でも、卵を守らないといけない……気がするからやってやる!
かかってこい、ブルーギル!
VSブルーギル