こんな異世界巻込まれ召喚~勇者の顔は呪われた 編~
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はじめまして。牧野明日香です。
さて、学校生活を超平凡顔が平穏に過ごす上で大切なことはなんだと思いますか?
よくある設定、よくある物語から考えて、それは学校内のイケメンと関わらないことです!
そう、それはよくある一日を過ごすはずだった。
だがしかし、よくある普通の一日はとある出来事で変わってしまった。
『席替え』という名のイベントで!
クラスの女子たちのほとんどが羨む私の席。
けれど、私は前の席の方がよかった。
オタ友に囲まれていたので。
私の隣の席の男子は、学校内で人気のあるイケメン伊藤稔。
伊藤君の隣の席になってからというもの、私がオタ友と楽しく話していると、伊藤君がやけに絡んできます。
それからというもの、私は一藁一藁 呪いを込めて藁人形を編んでいきました。
後は、丑三つ時に林の中でこの藁人形たちに五寸釘を打ち込むだけです!
伊藤君というのは、私の知っているアニメの劣化主人公タイプ。
そのアニメというのは、原作が男性向け恋愛ゲームで主人公の顔と性格が超イケメン。
ですが、アニメ化してからは原作ゲームの主人公の良さが生かされるどころか生かさない設定。むしろ、原作ブレイク。
アニメ雑誌での主人公の紹介文が、原作ゲームでの主人公紹介文を流用していたので、アニメを見続けるうちにそれが嘘偽りありなことに気付く。
しかも、ゲームの魅力あるヒロインたちの中からあまり人気のないエピソード的にも全く盛り上がらないヒロインを主人公の恋のお相手として選択した悪手ぶり。
私はあのアニメ製作者たちに小一時間説教したい!
なぜ、主人公の幼馴染をアニメヒロインとして正式に採用しなかったのかと!
私は、幼馴染派だったんですよ。
まあ、それはともかく。
伊藤君はモテるのですが、私にその魅力は分からないというやつです。
放課後、先生のお手伝いをしていて教室に戻るのが遅くなりました。
先生のお手伝いをするのに、カバンを持ち歩くと邪魔になるので教室に置いておいたのです。
教室には、伊藤君がいました。
私が教室に入り自分の席の方まで行くと、アニメでよく見るような魔方陣が伊藤君の周りで展開していました。
私はそれが異世界召喚であると悟り、すぐにその場から逃げようとしたのですが、魔方陣に吸い込まれている伊藤君が私の足を掴んできて巻き添えにしようとしたのです。
私はこの瞬間、魔方陣から逃げ切れないと分かったため、伊藤君に掴まれていないもう片方の足で、呪いを力の限り込めまくって彼の顔に何度も何度も何度も攻撃しまくりました。
伊藤君の顔に気が済むくらい攻撃し終えた後に、周りを見渡すと見慣れない景色が目に入ってきました。
そして、私が足元を見た時には顔の原型が留めていない伊藤君がいました。
どうやら、この異世界の召還は召還時の状態でこの世界に来るようです。
ファンタジー小説でありがちな異世界召喚を行なった人は、やはりありがちな美少女すぎるお姫様でした。
「ようこそ、お越しくださいました。異世界の勇者様。どうか、この世界をお救いくださいませ」
なぜか、私を見ながら言ってきました。
隣の伊藤君を見ると、なぜか顔が潰れたままである。
このお姫様は本物のそれも顔の潰れた男が勇者であるはずがないと思ったのでしょうね。
顔を潰した犯人は私ですが。
この場の雰囲気から、顔が潰れた方が勇者だなんて言えませんでした。
それからの説明は玉座に行くのではなく、応接室のようなところでお姫様から説明を受けました。
これまたよくある、「魔王を倒してこの世界を救って」というものです。
翌日からは、訓練開始をしました。
本物の勇者を差し置いて、徐々に頭角を現していく私。
もはや、勇者は置物と化していった。
まったく意味をなさなくなった、勇者(笑)。
そして、ある日、事件は起こらなかった。
魔王を討伐する旅の旅立ちの朝、身支度をしていると城内に男の叫び声が聞こえてきた。
そう、伊藤君の声です。
興味が全くないしめんどくさいので無視していると、部屋の扉を叩く音がしました。
私の剣術のお師匠様の女剣士ニーリ様です。
お師匠様は、男が叫び声を出した事情を訊きに行くのを拒否したのですが、お姫様に引き摺られて私の部屋まで来たというわけです。
そして、私も拒否したのですがお姫様に引き摺られる師匠に引き摺られて伊藤君の部屋の前まで行きました。
お姫様がノックをして部屋を空けると、鏡の前でムンクの叫びのような顔?で、絶叫中の伊藤君がいました。
伊藤君は、お姫様にどうして顔が潰れている状態のままなのかを訊いていました。犯人は私ですが。
お姫様は、この世界にいる間は召還時の状態のまま体の状態は維持されるので、顔を元に戻す方法はないと無情にもそう答えました。
それも聞いた私は内心、笑いが止まりません。
だって、私は彼の隣の席になってから迷惑をかけられっぱなしなのですから。
女子の嫉妬や嫌味。そして、射殺さんばかりの視線で見られる居心地の悪さ。
とうとう、私は呪いを込めながら、呪いの歌を歌い藁人形を編む結果になったのです。
それを見た、私に嫉妬してる女子たちはドン引き。
どれだけ、伊藤君を嫌っているのか全校生徒に知れ渡ったのです。
魔王討伐の旅は、勇者の顔が潰れているおかげで順調すぎるほど順調に進んで行きました。
この手の勇者ものの小説の定番だと、勇者が無意味にハーレムを作り上げて、寄り道を食いかねない事件に自ら突っ込んで行き、すぐ終わるような小さな事件を壮大な事件に発展させる。
そして、ハーレム要員を増やす。
小説なら必要でしょうが、現実では必要ありません。
そんな無駄な過程がないため、旅が順調になっているのです。
お姫様によると、歴代の勇者は寄り道をしすぎるため、困難を極めたそうです。
思ったよりも、旅が順調すぎるので少し困惑しているのだとか。
今更ですが、魔王討伐の旅のメンバーは、私・お姫様・お師匠様・女賢者・女魔法使い・勇者(笑)です。
そんな順調に順調を重ね、魔王の住む魔王城に着きました。
魔王は、「俺様は人間界を支配するぞ。俺様に跪け!ワハハハハ!」などと言っているのですが、私たち(勇者(笑)以外)はそれを無視して魔王をフルボッコ。
なんというか、お姫様がマジすごかった。
もう、お姫様だけでよくね?というぐらい。
本当に、すごかったのです。
そして、召喚されたすぐに通されたあの応接間に戻ってきました。
王様が、そこで出迎えてくれました。
玉座で出迎えないのは、この国の気遣いです。
玉座だと、公式の記録に残るし、それだと大変だろうという。
「よく帰って来たな、勇者殿。さて、お主の願いを訊こうか。なに、どんな無理を言っても叶えられる自信はあるぞ!歴代の勇者はそれはもうな...」
そういう王様はなぜか哀愁が漂っていました。
そして、城に勤めるお偉いさんのような人たちも。
そこに、神様登場。
なにか、別の物語をぶっ込んできてないですか?コレ。
「やあ、異世界から勇者に巻込まれた少女。君の方が強くて、勇者が使えないおかげで、歴代の勇者よりも早く魔王を討伐しちゃったよね★」
何気に、フレンドリーに話しかけてくる神様。
「でも、君のちっぽけな願いは世界補正により、人間たちには叶えられない。だから、ぼくが君の願いをかなえに来たんだよ★それっ♪」
神様が杖を一振りすると、伊藤君の顔が元に戻りました。
「あっ、あのっ」
「ダイジョーブ♪僕は君のちっぽけな願いが何か知っているって言ったよね。君は元の世界であの時間に戻って、使えない勇者はこの世界に残しておくよ。じゃあ、君は役目を終えたんだから元の世界に戻ってね★」
神様が、あの杖を一振りすると私は元の世界に戻りました。
この教室に、異世界から戻ってくると伊藤君はいませんでした。
私は、そんなことがあったのを気にせず家路を急ぎました。
さて、帰ってあのアニメの再放送を見ないと。
読んでくださり、ありがとうございました。