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とある飛行機乗りの話

作者: 狂花

 昔々、まだこの国がほかの国と長い長い戦争をしていたころのお話。

 あるところに一人の少年がいました。少年の夢は、飛行機に乗って空を自由に飛びまわることでした。少年はたくさんの本を読んで、飛行機について勉強しました。

 ちょうどそのころ、この国は戦争が激しくなってきていて、若い学生でも戦争にいかなければいけないような状況になっていました。その命令に反対すると、周りの人たちから「非国民」と言われてひどく蔑まれるのです。

 ある日、とうとう少年のところにも戦争へ行くように命令が下されました。

「母さん、ぼくはお国のため、精いっぱい戦ってまいります」

お母さんは涙をぼろぼろこぼしながら言いました。

「ああ、お願いだから生きて帰ってきておくれ。お国のことなんかより、だいじなものがあるはずだよ」

少年には、お母さんの言っている意味が分かりませんでした。学校でも「お国のため」と言われて戦争に行くのは名誉あることだと教えられてきたからです。

 少年が軍の基地へ行く最後の日、少年の家族は悲しみ泣きながら、少年に家族全員で撮った写真を持たせて見送りました。その後少年は海軍の航空隊に配属され、戦闘機のパイロットになることになりました。その戦闘機をはじめてみたとき、真っ白で、まるで鳥のようだと少年は思いました。

 少年は、それから大変な訓練をして、何回も戦いに行くようになりました。周りの同じくらいの歳の子たちは、みんな「お国のために航空隊で戦えるなんて、これ以上の誇りはない」と言っていました。

 ある日、いつものように出撃の命令が出ました。もう空には、敵国の飛行機が空を埋め尽くしています。少年たちはいそいで自分の戦闘機に乗り込むと、各々に飛び立ちました。少年たちは空一面に飛んでいる敵の戦闘機を一機、また一機と撃ち落していきます。だんだんと敵の飛行機が少なくなって、これで全部撃ち落したかと思った瞬間、敵の飛行機が急に背後にあらわれました。その直後、少年の乗っている戦闘機の翼が、火を噴いて折れました。急激に墜落していく戦闘機の中で、少年は思いました。

「ああ、ぼくはもう死ぬんだろうか……」

 でも、それもしょうがないのかもしれない、と少年は過去を振り返りました。自分はいったい、何機の飛行機を落としただろう。その飛行機には自分の国の人じゃなくても、人が乗ってたはずだ。

 僕は、正義と言う名の名目で人を殺していたんだ。なにが「お国のため」だ。一番大事なのは国じゃない。人の命だ。

 それだけ思って、少年の意識はなくなりました。

 少年は奇跡的にちょうど海にいた戦艦に助けられました。しかし、少年の両足は飛行機の瓦礫に当たったせいでなくなってしまっていました。必要な手当てをしてもらってから家へ帰ると、少年のお母さんは泣きながら少年に抱きつきました。

「生きててくれたんだね……よかった、よかった……」

 少年は、苦笑いをして言いました。

「あのときの母さんの言葉の意味、やっと分かったよ」

 それから何年も何十年もたち、少年はよぼよぼのおじいさんになりました。

「ねえ、おじいちゃん。またむかしむかしのお話して!」

 おじいさんは、車いすを押してくれている孫に向かって笑います。

「そんなに大きな声で言わなくとも、何度でも話してやるさ。でも、ひとつだけ約束しておくれ。戦争なんか、もう二度としちゃいけないよ」

 おじいさんは自分の両足とともに、たくさんの仲間をなくしました。おじいさんだけでなく、戦争で何万人もの人が亡くなったり、大けがをしたりしました。

 おじいさんは、胸のポケットからぐしゃぐしゃの家族写真を取り出すと、なんともいえない表情で眺めました。

「国のことなんかより、だいじなものがあるんだからね」


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