03
「ご機嫌麗しゅう。フリック・シーガルと申します。先ほどはありがとうございました。同乗者の勇敢な行動に感服しております」
なんだかいきなり褒められている。とロニは少し戸惑うが、それと同時に思い出す。
「あ、前部車両にいた……。僕はロニ。ロニ・バルフォアと言います」
紳士的な立ち振る舞いにつられ、立ち上がって会釈するとフリックがにっこり笑った。
年齢四十代後半といったところだろうか。
うっすら見える目じりの皺と一部だけ染めずに残してあるサイドの白髪が渋い。いかにも紳士といった風貌である。
「そちらの方は?」
フリックの視線の先は大穴から覗く車内。その中で作業をするシルバだ。
シルバは作業の手を一旦止めて軽く会釈する。
「どうも」
注釈でも入れるようにロニが言う。
「この人はシルベスタ・ガフです」
するとフリックが目を丸くした。
「シルベスタ・ガフ? あのブロンズサイ社の? お会いできて光栄です」
「会社はもう潰れたよ。今はフリーの整備士やってるだけですわ」
車両の側面に空いた大穴から身を乗り出し、ブリキとハンマーを掴みながらシルバは言う。
「で、そういうアンタは政府の人間か。それ、見たことあるぜ」
ハンマーで指した先にはシルクハット。そのつばとクラウンのつけ根にあるリボンのところには直角三角形をずらして重ねた形のバッジが付いている。
「よく御存じで」
「てことは、テロリスト共の目的はアンタか。大変な目に合って可哀想だとは思うが、なにか起きた時に被る一般市民の迷惑くらい考えたって良かったんじゃないの?」
ちょっと言い過ぎですよ。とロニがシルバを咎めるが、フリックは首を横に振った。
「ガフ殿のおっしゃる通りです。列車に乗ってしまった私には責任がある」
列車の大破。
運行の遅延。
また、それに係る利益損害。