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コンプレックスというのは、誰にでもある。
誰かと比べた時、自分が勝っているものは何なのか。何かと比べた時、自分が劣っているところはどこなのか。その比較の結果として生み出された劣等感や引け目が周囲にとってどれだけ些細で下らないことであったとしても、当人にとっては度し難く、また解せないことであったりする。
「だからってさ、これはやりすぎなんじゃないの?」
しゃがみ込んできりきりとレンチを回しながら、シルバは呆れ気味に言った。
シルバがいる車内からは蒸気機関車が何台も見える。
ここは第二停車駅カトレア。
大陸鉄道アイアンホースの走行ルート上にある、物資補給と車両メンテナンスを目的とした休憩地点兼路線分岐ポイントである。
補給物資の石炭と水、重油、食料は現在絶賛搬入中。同時進行でシルバと整備士数人が車両整備にあたっていて、それぞれが慌ただしく仕事をしている様子には忙しいながらもどこか活気があった。
そんな中、ロニはホームで膝を抱えながら一人だけむくれてツンと乙にすます。
「僕は女です」
「わーってるよ、そんなん」
車内と駅のプラットホーム。対面する二人の間には壁がない。
正確にはロニが穿った。
「いや、シルバは分かってない。心無いテロリストたちのせいで僕の心はさっきの荒野のように荒んでいます」
「だいぶ荒れてんな」
「カラッカラです」
しかも乾いているらしい。
「名誉棄損で訴える事もやぶさかではありません」
「ほう? じゃああっちを見るがいい」
レンチで方向を指すシルバに促され、ロニはそちらに目をやった。
そこにあるのは大破した前部車両。動輪とそこに連動する機工部分は無傷だが、上半分にあたる客席中腹部の壁と屋根が喰いちぎられたかのように抉り取られている。
「酷いですね。容赦ない……」
「お前がやったんだよお前がよ」